超入門! お城セミナー 第93回【鑑賞】天守の装飾ってどんな種類があるの?

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは天守を華麗に見せる装飾について。城の象徴として人びとを引きつけて止まない天守。その魅力の秘密はズバリ屋根にあり! 破風や懸魚など天守を飾る装飾について解説します。



姫路城、天守
世界遺産にも登録されている姫路城(兵庫県)の天守。“白鷺城”の由来となった美しい天守を見るため、年間150万人もの観光客が国内外から訪れるという

天守を美しく見せるには“屋根”を派手に飾るべし!

近世城郭のシンボルとしてドーンとそびえる天守。12基の現存天守以外にも、復元・再建されたものなど全国にはたくさんの天守がありますが、城主の好みや築造時の世情などによって、一つとして同じものはありません。

そもそも城主の権威を見せびらかすシンボルなだけあって、どの天守もやっぱり豪華ですよね! 櫓も天守と同じような造りをしていますが、天守と比べるとかなり質素な印象です。なぜ天守だけが特別豪華に見えるのでしょうか?…それは、装飾性のあるデザインがいろんな所に施されているから。そこで今回は、天守を豪華に見せている装飾に注目してみましょう!

宇和島城天守、名古屋城西北隅櫓
宇和島城(愛媛県)天守(左)と名古屋城(愛知県)西北隅櫓(右)。同じ三重の建物だが、宇和島城天守の方が装飾的で優美な印象を受ける

城の天守は階数の数だけ、またはそれ以上に多くの屋根が付いています。屋根の先端部分を「破風(はふ)」と呼ぶのですが、この破風こそが天守の象徴といっても過言ではありません。破風にはいくつか種類があり、その組み合わせや用い方が天守の印象をガラリと変えます。

天守を彩る破風の種類

屋根の部位
まずは、屋根の部位をチェックしよう。屋根面が山折れ状に交わる稜線部を「棟(むね)」という。棟には、最上部で水平にのびる「大棟(おおむね)」、そこから下へ降りる「降棟(くだりむね)」、四方の隅へのびる「隅棟(すみむね)」がある。「破風」は屋根の妻側(側面のこと)にある三角形の部分、「鯱」は大棟の両端に取り付けられた瓦のことだ

①入母屋破風(いりもやはふ)
入母屋造の屋根の先に設けられた三角形の破風。底辺部分が、隅棟までのびている大きなもの。天守最上層や望楼型天守の下層部分はこれ

松本城天守群、入母屋破風
松本城(長野県)天守群の入母屋破風

②比翼入母屋破風(ひよくいりもやはふ)
入母屋破風を二つ並べたもの。大型の天守に見られる

姫路城、比翼入母屋破風
姫路城の比翼入母屋破風

③千鳥破風(ちどりはふ)
入母屋破風に似た三角形だが、こちらは屋根の上にちょこんと置かれたような破風。構造上必要なものではなく、おもに装飾用

丸亀城天守、千鳥破風
丸亀城(香川県)天守の千鳥破風

④比翼千鳥破風(ひよくちどりはふ)
千鳥破風を二つ並べたもの。②との違いは、破風の先が隅棟までのびてくっついているどうか

広島城、比翼千鳥破風
広島城(広島県)天守の比翼千鳥破風

⑤切妻破風(きりつまはふ)
こちらも三角屋根だが、軒先まで突き出ているもの。出窓の上などに用いられることが多い

彦根城天守、切妻破風
彦根城(滋賀県)天守の切妻破風

⑥唐破風(からはふ)
丸くカーブさせた破風。軒先部分を持ち上げたものが「軒唐破風(のきからはふ)」、屋根自体を丸くしたものが「向唐破風(むかいからはふ)」。軒唐破風が最も格調高く、最上層によく使われてる

犬山城天守、向唐破風、宇和島城天守、軒唐破風
犬山城(愛知県)天守の向唐破風(左)と宇和島城天守の軒唐破風(右)

実は、省エネ天守として普及した新式の層塔型天守(「第37回【鑑賞】天守ってどれも同じ形じゃないの?」参照)は、構造上は破風を必要としません。このため当初層塔型は極シンプルな姿だったようですが、天守はやっぱり豪華に見せたい!ということで、層塔型天守にもさまざまな破風を取り付けてアピールするようになっていったようです。

島原城、復興天守
島原城の復興天守。巨大な五重天守だが、破風による装飾が一切なく簡素な印象を受ける

懸魚に瓦…まだある天守の装飾たち

そして、この破風をさらに豪華に見せる装飾が、「懸魚(げぎょ)」。破風の三角の頂点部分の内側に下げられている飾り板のことです。「魚を懸ける」というこの変わった名前は、もとは燃えやすい木造建築の屋根に水を象徴する魚を懸けることで火伏せのおまじないとしたことからきたとか。

小さな破風には五角形の「梅鉢懸魚(うめばちげぎょ)」、平均的なサイズの破風には「蕪懸魚(かぶらげぎょ)」、入母屋など大きな破風には「三花蕪懸魚(みつばなかぶらげぎょ)」を付けます。唐破風に付ける懸魚は「兎毛通(うのけどおし)」といいます。気になる名前ですが、こちらの語源は残念ながら不明です。

伊予松山城大天守、梅鉢懸魚、高知城天守、蕪懸魚、大阪城天守、三花蕪懸魚、松本城大天守、兎毛通
伊予松山城(愛媛県)大天守の梅鉢懸魚(左上)、高知城(高知県)天守の蕪懸魚右上、大阪城(大阪府)天守の三花蕪懸魚左下、松本城大天守の兎毛通右下。懸魚の種類の違いは赤丸部分の飾りの形で見分けられる

この他にも、破風から見える壁が引っ込んでいたり出っ張っていたり、また材質も下見板張だったり、塗籠だったり、銅板張だったりと、破風周辺のデザインは実にさまざまです。

そしてもう一つ、天守の重要な飾りといえば、鯱(しゃち・しゃちほこ)を忘れてはいけません。最上層の屋根の先に乗っている、虎のような頭をもつ想像上の魚の瓦です。これも実は前出の懸魚と同じように火伏せの願いが込められているそうで、重要な櫓などにも乗せられています。(「第79回【鑑賞】天守に載っている「しゃちほこ」って何か意味があるの?」を参照)

名古屋城、金鯱
名古屋城の金鯱(複製)。御三家筆頭・尾張藩の権威を象徴する堂々たる姿だ

破風・懸魚・瓦、そして鯱。これらは、もとは寺社建築に用いられていたものでした。それを城の天守に採用したのは、織田信長の安土城(滋賀県)が最初だといわれています。他に、天守の最上階でよく見られる「廻縁(まわりえん)」や、丸い形の「花頭窓(または華頭窓・火灯窓/かとうまど)」も寺社建築からの応用。どちらも格式高い場所に使われるものです。これらの装飾を一度に採用して生み出された天守は、さぞかし斬新なインパクトを与えたことでしょう。

近世城郭の天守を豪華に、特別に見せるこれらの装飾の数々。みなさんもぜひ細かい所に注目して見てくださいね!


執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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