「中津市歴史博物館」をフル活用して中津城をディープに楽しもう!

お城めぐりの前にその城に関する知識を得ておくと、城への理解が深まると共に、その場に立った際に当時の姿を鮮やかに想像しやすくなります! そうした調べもののスポットとしてオススメなのが、お城の近くあるいは近隣地域にある博物館です。築城名人・黒田官兵衛が築いた中津城(大分県中津市)の近くに建つ中津市歴史博物館(略称:なかはく)の高崎章子館長が、お城めぐりをもっとディープに楽しむための博物館見学ポイントについて解説します。

1.中津城とは

大分県中津市は、福岡県との県境の町。市域の約8割を占める山間部は、奇岩の渓谷「耶馬渓(やばけい)」の名で国指定名勝となっており、平野部である河口には、中津城下町の町割りが残ります。天正15年(1587)、豊臣秀吉から豊前国を与えられた黒田官兵衛は、天正16年(1588)に河口の平野部に中津城を築き、自身初めて城持ち大名となりました。慶長5年(1600)、黒田氏が筑前に転封後は、細川忠興が入国。8つの門と22の櫓を設ける城郭の形は細川氏の時代に完成したと言われています。その後、小笠原氏、奥平氏と、藩主がかわり、明治10年(1877)西南戦争の際には、西郷軍に呼応して挙兵した中津隊によって城内の建物は焼き払われました。

現在は昭和39年(1964)に建設された模擬天守が城下町中津のシンボルとなっていますが、実は中津城は、築城当初からの石垣や総構えの土塁が残る、城郭好きも楽しめる城跡です。

中津城、天守閣
中津城(奥平家歴史資料館)。模擬天守は内部が奥平家歴史資料館となっている

「中津城見学=天守閣に登る」だけではもったいない。令和元年(2019)11月に内堀沿いに誕生した「中津市歴史博物館(なかはく)」で見学ポイントをつかんで、ディープに中津城を堪能しましょう。

中津城、中津市歴史博物館(なかはく)
中津市歴史博物館の外観

2.博物館で知識を仕入れると、お城がもっと楽しくなる! 

①破壊を免れた石垣が、博物館一の展示物に
中津城見学の前にぜひ知っていただきたいことがあります。

博物館が隣接する内堀沿いの石垣は破壊の危機に直面しました。平成13年(2001)、水堀を再生することとした中津市は、小さく不ぞろいな石で積まれた石垣を撤去し、新しく築きなおす計画を決定しました。しかし工事に先立つ調査の結果、不ぞろいに見えた石垣は未加工の自然石を用いた野面積みで、築城当初のものであることが判明。中津城は、九州最古の近世城郭の一つであり、当時の石垣であるなら壊すわけにはいきません。大変な議論の末、市は方針を転換。石垣はぎりぎりで破壊を逃れ、石垣の価値を落とさない慎重な修復工事が行われました。

このような経緯があったので、博物館建設にあたりこだわったのは「石垣の眺望を最大限に活かした博物館」。間一髪で破壊を免れた石垣は、今では博物館随一の屋外展示物となっています。

中津城、中津市歴史博物館、石垣
博物館前の石垣

展示室は原始・古代から近代まで、中津の通史を展示していますが、中津城関係では、絵図や名護屋城(佐賀県唐津市)跡との同笵(どうはん)瓦、九州初の上水道施設の資料、地鎮に関わる大きな墨書石など特に中津城初期段階の出土遺物に注目していただきたいです。

中津城、中津市歴史博物館、展示室
博物館の展示室

②石垣シアターで見学ポイントをつかむ
中津城巡りに役立つのが「石垣シアター」です。「現地に行ったら見れるもの」にこだわった内容で、石垣の魅力とちょっとマニアックな見学ポイントをご紹介しています。「中津城の石垣本人(?)」がナレーションを担当しているので、ご主人:黒田官兵衛を「官兵衛さま」とお呼びして、持ち上げ気味なところは大目に見てやってください。椅子もありますが、なんと畳敷きなので、小さいお子さんものびのびできます。終わった途端に席を立たないのがポイント。8分間の映像が終わるとともにスクリーンがゆっくり上にあがり、野面積みの石垣が目の前に現れる仕掛けです。視界を遮る柱はありません。そのまま外に出ていきたくなりますよ。

中津城、中津市歴史博物館、石垣シアター
石垣シアター。映像が終了するとスクリーンが上がり、外の石垣が見える

3.なかはくおすすめの中津城見学スポット

石垣シアターでご紹介した見学スポットをぜひご覧ください。

A.野面積みの石垣を満喫
まずは、なかはく前の石垣で、黒田官兵衛の時代の特徴を最もよくあらわした野面積みの石垣を堪能しましょう。すべて未加工の野面石(自然石)で、穴太衆(あのうしゅう)が得意とした積み方です。石の形を活かして、目地を切る形で積んでいます。出角は石の長辺を左右互い違いに積む「算木積み」です。出角の傾斜は直線的なのが初期段階の特徴です。

中津城、中津市歴史博物館、石垣、出角
博物館から見える石垣の出角

大鳥居の横から石垣断面をご覧ください。実は、なかはく前の石垣は、大鳥居をはさんで反対側の石垣と連続していました。明治時代に石垣を分断するように道路を通したため、石垣の内部構造が観察できるというわけです。

中津城、石垣断面
大鳥居の横から見た石垣断面

階段から石垣の上にあがれば、道路の両側の石垣がゆるやかにカーブを描いて連続していることがわかります。「輪取り」といって、力を内側に向けさせることで壊れにくくしている積み方です。

中津城、石垣、輪取り
道路によって二分された石垣


B.石垣が「転用石だけ」でできている!? 
天守閣の北側、「黒田と細川の石垣の境」として中津城のパンフレットやマップによく登場する石垣がこちら。

中津城、中津市歴史博物館、石垣、断面
黒田と細川の石垣の境

斜めに通る目地から右が黒田氏時代の石垣、その上に積まれた左側が次に藩主となった細川氏時代の石垣です。自然石の細川氏時代の石垣より前に、四角く加工された石垣が積まれている! 時代が逆転しているように見えますが、実は右側は、山国川の川上にある7世紀の古代山城「史跡唐原山城」の石からもってきたもの。石の一辺が断面L字状にかき落とされているところが、唐原山城の石である決め手となりました。黒田氏は古代に方形に加工されていた石を運び出し、川沿いの石垣に使用しました。

中津城、中津市歴史博物館、石垣
白壁の瓦が接着している石にL字加工痕がある

各地の城には、古墳の石室や石塔などの石材を再利用する「転用石」がしばしば確認できますが、「古代山城の転用石だけ」でできた石垣があるのは中津城だけかも?

石垣は堤防の向こうの川沿いへと続いています。河原へおりれば城が河口に位置していることがわかります。黒田氏は、瀬戸内の港に早船を配置し、いちはやく関西の情報をキャッチしようとしました。水辺にそびえる「古代山城の転用石のみでできた黒田時代の石垣」を見学しながら、この地を選んだ官兵衛の意志を感じてください。

中津城、中津市歴史博物館、石垣
川沿いの石垣(現在は石垣前に桜が植えられている)

C.土塁に囲まれた城下町を体感 
石垣めぐりをクリアしたら、なかはくのレンタサイクルで城下町めぐりに出かけませんか。城の建築物は焼失しましたが、外堀沿いの寺町のほか、国史跡福澤諭吉旧居、市指定の藩医の屋敷である大江医家史料館・村上医家史料館・旧商家の南部まちなみ交流館などの江戸時代の建築物はいずれも公開されています。

中津城下町、福澤諭吉旧居
福澤諭吉旧居

かつて城下町全体は、「おかこい山」と呼ばれる土塁で囲まれていました。なかはくのロビーにある「まちあるきジオラマ」は、幕末の絵図の上に現代の道路を描いた透明アクリル板を少し浮かせてかぶせているので、昔の道と今の道が変わっていないことがわかります。絵図の、城下町を囲む松林の黒い線が総構えの土塁「おかこい山」です。現在も、町にはおかこい山が点々と残っています。

中津市歴史博物館、まちあるきジオラマ
なかはく内の「まちあるきジオラマ」

特に南西部の自性寺(じしょうじ)では残りがよく、一部が鉄道の高架と一体となっているため、おかこい山の上を列車が走る姿が見学できます。他のおかこい山とあわせて見学し、ぐるっと土塁に囲まれていた中津城下町をイメージしてください。

中津市歴史博物館、おかこい山
総構えの土塁「おかこい山」の上に日豊本線の線路が敷かれている

4.お城といっしょに楽しもう!

なかはくでは、中津城の石垣をいろんな形で楽しめますよ。

A.石工になる
プレイスタジオには、ガラス越しに見える石垣出角の実測図をもとに再現した実寸大の石垣模型を置いています。「角をそろえる」「長辺を左右にふりながら積む」など「算木積み」のルールを頭にいれて、チャレンジしてください。意外と大人でも難しいですよ。

中津市歴史博物館、算木積み模型、プレイルーム
プレイスタジオ内の算木積み模型

B.石垣を味わう
館内のカフェで、黒田氏時代の石垣を形にした「石垣パフェ」を食べましょう。わらび餅や寒天でつくった野面積みの石垣と、ポン菓子で表現した石垣内部の「裏込め石」が、モナカの中津城をがっちり支えています。緑色の耶馬渓茶粉は石垣上の苔です。ガラス越しに石垣を堪能しながら冷たくて甘い石垣をどうぞ。

中津市歴史博物館、石垣パフェ
石垣パフェ

C.石垣を持ち帰る
ミュージアムショップで販売している「石垣琥珀糖」は、「黒田時代と細川時代の石垣の境目」をカラフルな琥珀糖で表現したお菓子です。色ごとに味が違うので、一石一石解体しながら楽しめます。色の組み合わせは11パターン。お気に入りの石垣をお持ち帰りください。

中津市歴史博物館、石垣琥珀糖
石垣琥珀糖

そして、破壊を免れた石垣は、マスキングテープになりました。商品名は“ISHIGAKI VIEW”。眺望ラウンジに座って眺める朝・昼・夜の石垣です。

中津城、石垣、マスキングテープ
博物館前の石垣マスキングテープ「ISHIGAKI VIEW」


5.なかはくからのお知らせ

新型コロナウィルス感染拡大状況がおさまれば、「本物の石を使ったミニ石積み体験」を復活させます。未加工の石を用い、裏込め石を入れたり間詰めもしながら野面積みを体験するもので、ミニとはいえ本格的。実は指導にあたるのは、なかはく前の石垣修復工事を担当した現場監督さんです。当時の苦労話や、石垣積みのコツを聞きながら、直々に指導を受けてみませんか。

中津市歴史博物館、ミニ石積み体験
本物の石を使ったミニ石積み体験

令和3年(2021)1〜2月には、ななかはく前の堀の水を抜き、堀底を歩いて石垣を観察するイベントを行いました。堀掃除をかねて2〜3年おきに行っているもので次回開催時期は未定です。展示やイベントの情報は、随時SNS(Twitter・Facebook・Instagram)で発信していますのでチェックしてください。なかはくをきっかけに、城と石垣を面白いなあと思っていただけたら嬉しいです。

中津市歴史博物館、堀の水
堀の水を抜いて堀底を歩くイベントの模様

執筆/高崎章子(たかさきしょうこ)
大分県中津市出身。中津市の文化財専門職員となり、市内発掘調査及び中津城石垣保存・修復工事を担当した。博物館建設に基本計画より携わる。中津市歴史博物館長。
写真提供/中津市歴史博物館

関連書籍・商品など