城の自由研究コンテスト <アンバサダーレポート>「城の自由研究コンテスト」優秀作品から研究のコツを学ぶ!

毎年、小・中学生を対象に開催されている「城の自由研究コンテスト」。今回は、お城EXPO2020で披露された第19回コンテストの優秀作品を城びとアンバサダーで、日本城郭検定1級の小城小次郎さんがご紹介。優秀作品を通じて“お城の自由研究に取り組むコツを探ってみました! お家時間がたっぷりある昨今、大人のお城ファンもお城の研究にチャレンジしてみてはいかがでしょう?




19回目となった「城の自由研究コンテスト」

2020年12月に開催された「お城EXPO2020」において、「城の自由研究コンテスト」の優秀作品が披露されました。ほぼ21世紀の幕開けとともに始まったコンテストも、早いもので間もなく20回。コンテストが始まった年に小中学生だった方々はすっかり大人になり、もしかしたら第1回コンテストに応募した方のお子様がコンテストに応募できる年齢になったりしているのでしょうか。20年近い歳月には、それだけの重みがありますよね。
 
お城EXPO2020、城の自由研究コンテスト
「お城EXPO」で、城の自由研究コンテストの優秀作品が披露されました。年を重ねるごとに人気になっているそうです

小城少年が学んだ「研究に必要な心構え」って?

筆者が子どもの頃の自由研究といえば“理科系”がほとんどで、“社会科系”といえば「横浜中華街に旅行に行ったら…」みたいな「家庭の旅行記」のようなものばかり。筆者は、小学校時代の自由研究を全て“理科系”で通しました。3、4年生が「キノコ」で、5、6年生が「布の乾き方」。「キノコ」は単なる観察日記と標本集だったのですが、「布の乾き方」では理科教師だった父親の方が張り切っていたことを覚えています。

父:よいか小次郎。研究というものは、まず動機(なぜその研究をすることになったのか)があって、仮説(どういう結論になると思うのか)を立てることから始まる。あとはそれを実証(実験や調査により真実を証明してみせること)すれば研究は完成するのだ。
少年時代の筆者:はあ。
父:で、お前はどうして布の乾き方を研究テーマに選んだ?
少年時代の筆者:(しばらく考えて)お父さんが言ったから。
父:…(怒)

ろくな記憶ではありませんね(笑)。天国のお父さん、本当にごめんなさい! でも筆者はこの時、「研究とは仮説があって、それを実証することなのだ」ということだけは確かに学びました。

中学生になった筆者は、果敢にも“社会科系”に取り組みました。ターゲットは郷里・静岡の駿府城。立てたテーマは「駿府城は本当に総石垣だったのか」。駿府城の古い絵図等を見る限り、かつては間違いなく総石垣だったはずですが、当時の駿府城には石垣のない場所も目立ちました。実際はどうだったのかを検証するために自転車で駿府城の周りをぐるぐる回ったり、お堀端を歩いたりして城内に残る石垣の残欠を探しまくるという体力勝負。ところがやっぱりどうしても石垣を見つけられない箇所があって、仕方なく図書館に籠って駿府城に関する記録を探そうとしたのですが、探し方がわからずこちらも挫折。どうにもならないうちに夏休みが終わり、筆者の果敢な挑戦は露と消えたのでした。

駿府城、二の丸の堀
駿府城二の丸の堀。現在は全周が石垣というわけでもないため、石垣の残欠を探して回りました

思い返せば実にわかりやすく「壁」にぶち当たっていたわけですが、はてさて小城少年は、どうすれば「壁」を乗り越えられたのでしょう。それは後段に譲るとして、第19回コンテストの優秀作品を見ていくことにします。

優秀作品には、仮説検証プロセスの整った研究がたくさん

日本城郭協会会報第150号「城郭ニュース」において、「城の自由研究コンテスト」実施報告が掲載されました。その中で審査委員長の加藤理文氏(公益財団法人日本城郭協会理事)は、こんな総括を寄せています。

「最近は、独自の仮説と、それを検証していく様々な工夫を凝らした過程が見られるようになりました。いずれの作品も、論の展開が、極めて巧みになっています」

やっぱり研究というものは「仮説」と「検証」との積み重ねですね。実際に優秀作品に選ばれたもののなかから、お城ファンである筆者の視点で一部ご紹介しましょう。受賞された皆様には、心からお祝い申し上げます!

まず、文部科学大臣賞に輝いた土橋優里さんの「名護屋城の陣屋跡にみる戦国大名たちの朝鮮出兵」では、いわゆる文禄・慶長の役において名護屋に集結した全国の諸大名が、どのように陣所を割り当てられたのかを推測しています。

城の自由研究コンテスト、優秀作品
土橋さんの研究(右は名護屋城の本丸(筆者撮影))

関ヶ原の戦いにおける石田三成と徳川家康という対立軸を文禄・慶長の役まで遡らせるという大胆な仮説は、それだけで読む人をわくわくさせる魅力に満ちています。さらに、各陣所の優劣構造を名護屋城(佐賀県)からの距離と高低差によって判別するという実証手法も実に独創的。机上調査にとどまらず現地に赴いて高低差を実感している点も秀逸ですね。名護屋城の陣所には筆者もそれなりに足を運んでいるつもりですが、たくさんありすぎて訪ね歩くだけでも大変ですし、ましてや高低差による優劣関係を考えながら見たことがありません。誰もが思いもしなかった仮説を、誰もが思いもしなかった検証方法で実証することに取り組んだ点で、これはまさに研究論文の王道を行く作品でしょう。

日本城郭協会賞の山中槙子さん「『石垣築様目録』の暗号表の謎を解く~丸亀城との関連性~」は、石垣の秘伝書に記された石垣の技法が丸亀城(香川県)にどれだけ当てはまるのか、石垣の勾配を実測して検証しています。

城の自由研究コンテスト、優秀作品
山中さんの研究(右は丸亀城(筆者撮影))

「秘伝書は実際の石垣に生かされている」が仮説で、そのために正確な実測を心掛け、真摯に実証しようとする姿勢が光っています。

ワン・パブリッシング賞の足立晴音さん「道庭城のなぞ」には素直に驚かされました。他の研究の多くが著名な城郭か「ご当地ナンバーワン」のお城を題材としているのに対し、道庭城(埼玉県)は遺構も残らない無名のお城です。

城の自由研究コンテスト、道庭城
足立さんの研究(右は道庭城があったらしいところ。少なくとも地表面にはなにもない(筆者撮影))

無名のお城であることを逆手に取って、道庭城が存在する三郷市が、埼玉県内の他の自治体と比べても城郭分布が少ないことに気付いてしまうなど、およそお城を研究する過程ではネガティブにしか捉えられなさそうな事実に正面から向き合う姿勢には感動すら覚えました。

立ちはだかる「壁」を乗り越えろ!

こうして見ていくと、やっぱり優秀な作品は「仮説」と「検証」のプロセスがはっきりしているのがわかります。ちなみに「仮説」の前に「動機」(なぜこのテーマに興味を持ったのか)を記し、「検証」の後に「結論」(この研究で何がわかったのか)を記せば、立派な研究論文の出来上がり! 研究者と呼ばれる人たちは、自らが掲げた仮説を実証するために、毎日毎日、死に物狂いで研究を重ねています。なかには一生かかっても実証できない仮説もあることでしょう。たとえば「明智光秀は実は生きのびていた」という仮説は、おそらく誰にも実証できませんよね。

実証するのは本当に難しいことです。なかなか結論に辿り着けず、筆者が駿府城の研究で「壁」にぶち当たったように、「壁」にぶつかることも一度や二度ではありません。どうすれば「壁」を乗り越えられたのか。大人になった今の筆者が「小城少年」に何かしらのヒントを授けられるとしたら

「いっそのこと『総石垣ではなかった』と考えてみたらどうだろう?」

と、ささやくかもしれません。

「壁」を越えるための手法はひとつではないはずです。石垣が見つからないのならそもそもの仮説を否定して「石垣はなかった」と考えてみたり、石垣がなくてもおかしくない理由を考えてみたり、駿府城と同等の「天下普請」で築かれたお城で石垣のないケースがあるかどうかを確かめてみたりして、「石垣がない」ことに納得できるかどうかを徹底的に調べてみたら面白かったかもしれません。

図書館に籠った現実の小城少年は「どこかに駿府城の石垣普請について記した古文書があるのではないか」と、最短距離の答えを探しに行ってしまいました。冷静に考えれば、仮に「石垣を築け」という命令書が運よく出てきたとしても、それは駿府城の石垣の「一部」を示しているに過ぎず、総石垣であることを実証するためには「すべての石垣の普請命令を見つけ出さなければならない」ということには気付いていませんでした。「壁」を乗り越えるための実証方法を完全に見失っていた、ということになります。

今回の受賞作・道庭城の研究を思い出してみましょう。道庭城が歴史上に登場する機会はなく、近くにお城がたくさんあるわけでもない地域に名前だけ残る、痕跡もないお城です。研究対象としてはおよそ絶望的な状況(笑)の中で、それでも読む人を引きつける、深みのある研究に仕上げることはできるのです。大いに学ぶべきところがあるのではないでしょうか。

お家時間を生かして、「お城の自由研究」にチャレンジ!

「城の自由研究コンテスト」は、今となっては非常に身近な存在となったお城に関する研究を正しく評価してもらえる、またとないチャンスです。次回(第20回)の募集も間もなく始まることでしょう。参加資格のある方は、ぜひともチャレンジしていただきたいですし、すでに参加資格のない方もコロナ禍で在宅時間が増えているのを機に「大人の自由研究」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

最後に、<小城小次郎流自由研究への取り組み方>をちょっとだけ。

全国に名の知れた有名なお城でなくても、お住まいの地域にも必ずひとつやふたつのお城が隠れていることでしょう。それは、どんなお城だったのでしょう。

まずは思いつくままに、
<どんな時代のお城だったのか><どうしてここに造られたのか><何のために造られたのか><どんな建物があったのか><誰のお城だったのか><どんな言い伝えが残されているのか><その言い伝えは信じられるのか><城下町はあったのか><近くにお城に関連するもの(城主のお墓やお寺、神社など)は残されていないか><周辺の他のお城や代表的な同時代のお城と比べて似ているのか違うのか、それはなぜなのか>

などなど。ほらほら。考えれば考えるほど、疑問が浮かんできますよね!

疑問が浮かんだら、その中から仮説を立てます。「このお城はこういうお城なのでは?」といった仮説が決まったら、調査開始! ネットで検索したり、地図を広げてみたり、お城の解説本やその地域の「歴史さんぽ」みたいな本を読んでみたり、地域の方に聞き込みしてみたりして、必要な情報を集めていきます。

調べてみると、いろんな情報が出てきます。でも、調べた情報がそもそも本当なのかどうかもわかりません。調べたいことが見つからないことも、仮説と逆の結果が出てくることもあったりします。「壁」にぶつかったと感じることもあるでしょう。

「壁」にぶつかった時は、「押してもだめなら引いてごらん」と、一呼吸置いて、視野を広くしてみれば・・・、たちまち多彩な発想が蘇り、「壁」を乗り越えるヒントが見えてくるかもしれません。「壁」を乗り越えた先には、きっと大きな感動が待っています。

一人でも多くの小・中学生が、そして大人のお城ファンが自分なりの「城」を題材とした研究に挑み、楽しんでいただけることを、心から期待しております。

執筆・写真/小城小次郎
城びとアンバサダー。9歳で城を始めた「城やり人」。日本城郭検定1級(2016年全国1位)。テレビ東京系「TVチャンピオン極」ほか出演。