2019/09/02
城びとのイベントPICK UP! 【イベントレポート】城びと 小・中学生向けツアー「理文先生と小田原城総構を歩こう!」(神奈川)
2019年7月20日、「理文先生のお城がっこう」の課外授業「理文先生と行く小田原城ツアー」が昨年に続いて開催されました。前回は小田原城跡や天守閣を巡りましたが、今年は城下町を含む範囲まで堀と土塁で囲い込んだ全長9kmもの「総構(そうがまえ)」の一部を歩くという内容にスケールアップ! 加藤理文先生(公益財団法人日本城郭協会理事)と諏訪間順先生(小田原城天守閣館長)を講師に迎え、お城好きな小・中学生とその保護者約30人が参加したツアーの模様をレポートします。募集記事に関してはこちらをご覧ください。
ツアーの集合場所は、小田原駅西口ロータリーに建つ北条早雲公像の前。当日は時おり雨が降るあいにくの空模様でしたが、小学校低学年から中学生までの子どもたちが親に連れられて朝早くから姿を見せました。「小学生になってずっとお城が好き」という将来有望な愛好家や、「苦手な歴史の勉強が好きになるきっかけにしたい」という意欲的な子など、目的はさまざまです。
参加者全員が集まったところで、今回のツアーで巡るポイントごとの解説が記されたワークシートや城びとオリジナルクリアファイルを配布し、子どもたちが一人ずつ簡単に自己紹介。続いて理文先生が今日の課題として「建物ではなく堀や土塁を見学するので、高さ・深さ・幅などの大きさが分かるよう、工夫を凝らして写真を撮影しよう」と自由研究のためのポイントを説明し「お城を一緒に研究できる友達を作っていってね」と呼びかけ。さらに諏訪間先生が「小田原城の総構の大きさは、実際に歩いてみないと実感できません。大変だけど頑張って歩いてください!」と激励しました。
駅前から車道をしばらく歩いて住宅地へと外れ、最初のポイントである「城下張出」に向かいます。早くもちょっとハードな坂道が続く中、理文先生は「自然の地形を活かした小田原城の重要な特徴である、高低差も感じながら歩くんだよ」と子どもたちにアドバイス。ポイントまでの移動も貴重な課外授業です。
小田原城総構の北端の最前線基地だったとされる「城下張出」に到着。城外へ張り出す構造について理文先生は「城が張り出していることでどんな効果があると思う?」と問いかけることで子どもの好奇心を誘い、見晴らしの良い堀の上まで登ってから「ここからだと敵が丸見えだよね? だからここに張出を作ったんだよ」と張出の意義を実際に体感できるよう解説。
「じゃあ堀の高さが分かりやすい写真を撮ってみよう」と促された子どもたちは、急角度な堀の斜面を元気に駆けて、思い思いの場所で撮影しました。
急勾配の斜面に自分の姿を入れて親に撮影してもらい、自らの身長と堀の高さを比較
斜面の一番下まで駆け下り、急角度のアングルで堀の高さを撮影しようとする子も。なんだか楽しそう!
尾根や高台を歩きながら、自然の地形を活かした総構を実際に体感していく子どもたち。何気なく通り過ぎてしまいそうな舗装道路が続く中、諏訪間順先生も随所で「あの茶畑の地形に沿って堀が埋められているんだよ」と、ありし日の総構をイメージしやすいよう解説していました。
遠くに小田原城天守閣を望む高台へ。眺めの良さにため息が漏れると共に、こんなに広い範囲まで堀でお城が囲まれていたかと思うとビックリ!
谷津丘陵を分断する「山ノ神堀切」と、その西側に接続する「山ノ神堀切西」へ。堀底へ降りた子どもたちは7〜11mの堀幅と4〜5mもの高低差を実際に体感し、「難攻不落の小田原城」と称された守りの堅さを学んでいました。
城攻めの気分を味わおうと「山ノ神堀切西」の斜面を駆け上がる元気な子も…大人には無理!
一帯が竹林に覆われた総構堀「稲荷森」。竹林の密度と最大約10mという堀の深さに目を奪われる子どもたちに、理文先生は「ここの堀は地形に沿って曲がっているから、そこも観察するんだよ」と難攻不落ポイントをもれなく解説。
昼食休憩を挟んで見学したのは、総構の尾根が分岐する要の位置に作られた、東堀・中堀・西堀の3本からなる「小峯御鐘ノ台大堀切」。諏訪間先生は東堀に残った幅4m・高さ2mほどの大きな土塁を例に「堀を作ると土がいらなくなるでしょ? その土をそのまま使ったんだよ」と土塁の作り方を分かりやすく解説。堀のそばに必ずと言っていいほど土塁が築かれている理由に子どもたちも納得していました。
小峯御鐘ノ台大堀切の東堀で参加者全員で記念撮影。堀の広さと深さがよく分かりますね
東堀を抜けながら総構の西端を目指します。延々と続く山道に参加者たち(特に大人)の口数が少なくなり、自分がどこを歩いているかすら定かでなくなっていくうちに、巨大な総構に行く手を阻まれる攻撃側の感覚が分かった気がしました。その合間にも先生たちは小田原城の防御性の高さを子どもたちに理解してもらおうと、クランク状に屈曲している道などを具体例に総構の攻めづらさを説明していました。
総構の西端にあたる東堀出入口に到着。看板に描かれた総構の散策ルートを指で差しながら「スタートからここまで2.5kmくらいかな」と諏訪間先生。子どもたちは「そんなに歩いたの?」とビックリしつつ、総構のスケールを身をもって実感できたようです。
豊臣秀吉が一夜城を築いた石垣山を望む「三の丸外郭 新堀土塁」へ。石垣山をはじめとする山々や相模湾が眼前に広がる眺望が素晴らしく、ここまで蓄積した疲れも一気に癒やされます。理文先生が「見えるかな? あの山の麓に豊臣軍が陣を張ったんだよ」と説明し、子どもたちは歴史に残る小田原合戦をリアルに想像していました。
県立小田原高校内に残る「八幡山古郭」跡を見学できる散策路を通りながら、ゴール地点となる小田原城へ到着。理文先生から子どもたち一人ひとりに修了証が授与され、約5時間に渡るツアーは無事に終了しました。
ツアー後に回答していただいたアンケートには、「解説を聞きながら回れたのはとても良い経験でした」「疑問に思っていたことを先生に直接質問できたことがよかった」などの声が寄せられました。
参加した親子全員に小田原城天守閣への入場券が配られ、ツアー終了後は各自で自由に見学
理文先生・諏訪間先生の分かりやすい解説を聞きながら実際に歩くことで小田原城総構への理解を深めることができ、また長距離の総構を最後までしっかり歩き抜いた達成感もあって、子どもたちは満足そうな様子。それに、これだけの距離を自分だけで歩くとなると途中でくじけるかもしれないけど、同じお城を愛する仲間が一緒だったら頑張れる──そうしたメリットも実感できるツアーでした。
執筆/城びと編集部(上村真徹)