【日本100名城・平戸城】国際色豊かな海を見守る、再築を許された水城

九州北西岸に広がり、古来より日本と海外を結ぶ重要な航路にあった平戸瀬戸。見守るように立つ平戸城天守には、城主自ら壊すことになった苦境から、再築を許されるまでのドラマがありました。寺院と教会が一緒に見える景色や、ヨーロッパの影響が残る食文化など、国際色豊かな城下町平戸の過ごし方とともにご紹介します。

徳川家への忠誠心を示すために城主自ら城を壊す

平戸瀬戸、平戸城
異国情緒ただよう城下町から、平戸瀬戸越しに望む平戸城

平戸(長崎県平戸市)は、遣隋使や遣唐使の寄港地として、戦国時代には宣教師フランシスコ・ザビエルが訪れ、江戸時代には日本最初の西洋貿易港としてオランダ船やイギリス船が行き交いました。そんな国際色豊かな、平戸瀬戸を見守るように立つのが平戸城。平戸の町のシンボルでもある三重五階の平戸城天守は、昭和37年(1962)に建造された模擬天守(史実とは異なる天守)です。

平戸城、北虎口門
改変されているものの、現存建物として貴重な北虎口門

実は、天守にまつわる平戸城ならではのエピソードが残っています。慶長4年(1599)、平戸を治めていた松浦鎮信(まつらしげのぶ)は、三方を海に囲まれた亀岡(かめおか)山に、日之嶽(ひのたけ)城を築きました。その後、政権を握った徳川家に、忠誠心を疑われてしまうことになり、松浦鎮信は自ら日之嶽城を焼き、徳川家に抵抗する気がないことを示しました。

平戸城、石狭間
北虎口門から延びる塀に造られた石狭間(石垣に空けられた狭間)

また、築城術のひとつである山鹿流軍学の影響と考えられる遺構も見逃せません。石垣に空けられた狭間(弓や鉄砲を撃つための穴)や、折れや屈曲を用いたデザインなどが見られます

800年にわたり平戸で生き続けた松浦家とは?

平戸城、松浦史料博物館、王直、像
松浦史料博物館前に立つ、海商・王直の像。松浦家と親交が深かった

平戸城主・松浦家の先祖をたどると、平安時代にまでさかのぼります。史料によると、平安時代末期の寿永4年(1185)に起きた壇ノ浦の戦いでは、水軍を率いて平家方として参戦し、鎌倉時代には蒙古襲来に対する防御のため参戦しています。室町時代に入り、1400年代半ば頃に勢力を伸ばし、戦国大名へと成長。背景には、海外交易による経済的発展と鉄砲等の武器輸入が考えられています。

城下町、六角井戸
明の様式で造られた「六角井戸」が城下町に残る


城下町に残る「六角井戸」は、外交に長けた松浦家と中国(明)との関わりを示します。明の海商・王直(おうちょく)が、松浦隆信(まつらたかのぶ)に優遇され、平戸に定住しました。王直以外にも多くの明の商人が平戸に住み、明の様式である六角形の石柵で囲った井戸を造ったのです。外交の手腕は江戸時代に入ってからも発揮され、江戸時代初期には、オランダ商館とイギリス商館が平戸に開設されました。

狸櫓
櫓の修理の際、タヌキが小姓に化け、藩主に住み続けたいと懇願したのが狸櫓の由来になったとされる

天守をもたない平戸藩に大きな転換期が訪れます。元禄16年(1703)、平戸藩主・松浦棟(まつらたかし)が、江戸幕府の寺社奉行に抜擢され、新たな城を日之嶽城跡に築城することになりました。享保3年(1718)に平戸城として完成しましたが、明治4年(1871)に廃藩置県により廃城となり、北虎口門(きたこぐちもん)、狸櫓(たぬきやぐら)を残して取り壊されました。

松浦家の歴史を詳しく知りたい場合は、城下町の松浦史料博物館にお立ち寄りください。

寺院と教会の見える異国情緒漂う城下町

平戸、城下町
国際色豊かな平戸ならではの、寺院と教会が織りなす景観

「寺院と教会の見える風景」は国際色豊かな平戸を象徴する景色です。寺院と石段の先の高台に「平戸ザビエル記念教会」の姿が見えます。また、「平戸オランダ商館」には、江戸時代に日本唯一のオランダ貿易港として賑わった平戸に関する史料や貿易品が展示されています。平戸オランダ商館は2011年に開館したものですが、付近には約400年前から残る、「オランダ塀」と呼ばれる石塀が残っています。元和4年(1618)に築造され、オランダ商館本館や火薬庫、病室などの目隠しとして造られました。

平戸、城下町
城下町には異国情緒を想起させる街灯やモニュメントが設置されている

観光拠点「平戸桟橋ターミナル」を活用

佐世保駅、平戸
平戸城への起点となる佐世保駅。松浦鉄道または路線バスで平戸方面へ向かう

平戸城へは伊万里駅(佐賀県伊万里市)や佐世保駅(長崎県佐世保市)を起点とする松浦鉄道で「たびら平戸口」駅を目指して路線バスに乗り継ぐか、JR佐世保駅から路線バス(西肥バス)で直接向かうかの2通りあります。平戸城の最寄りの停留所は「平戸市役所前」ですが、ひとつ先の「平戸桟橋ターミナル」で降りると、海(平戸瀬戸)越しに平戸城が望めます。「平戸桟橋ターミナル」には観光案内所が併設されていますので、ぜひ立ち寄ってみてください。レンタサイクルの利用もできますので、平戸城や城下町散策に役立ちますよ。

平戸桟橋ターミナル
平戸観光の拠点となる「平戸桟橋ターミナル」

ちなみに、2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン」として世界遺産登録された構成資産のひとつ、田平天主堂(たびらてんしゅどう)は、平戸桟橋ターミナルから約6km。少し距離がありますが、レンタサイクルを利用すれば、アクセスすることができますし、サイクリング中には別の角度から平戸城の姿を楽しむこともできます。ちなみに松浦鉄道「西田平駅」から田平天主堂へは徒歩で約1kmの距離です。

実用化に向かう平戸城天守での「キャッスル・ステイ」

平戸城
平戸港から仰ぎ見る、ライトアップされた平戸城

平戸城といえば、2017年に実施され話題になった「平戸城天守閣での無料宿泊企画」を覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか? 実は現在、2020年夏を目途に宿泊できるように改修が進められているのです。観光客が城に宿泊する、「城泊(しろはく)」が、実現する日も遠くなさそうですね。

平戸瀬戸の波音を聞きながら見る、ライトアップされた平戸城もとても良い雰囲気ですし、港町ならではの魚料理や、平戸藩主御用達のポルトガル伝来の銘菓「カスドース」、そして名物の「平戸ちゃんぽん」など、平戸は味覚も盛りだくさんです。じっくり平戸滞在を満喫してみてください。


住所:長崎県平戸市岩の上町1458
電話番号:0950-22-2201
入城時間:8時30分~17時30分
定休日:なし
料金:大人510円 高校生300円 小中学生200円
アクセス:松浦鉄道西九州線「たびら平戸口駅」から西肥バス「平戸」行きで約10分、「平戸市役所前」下車、徒歩約5分。または、「佐世保駅前」から西肥バス「平戸桟橋前」行き約1時間30分、「平戸市役所前」下車、徒歩約5分

※平戸城は現在、大規模改修に伴い、一部の櫓が閉鎖中。2019年10月以降は天守閣等の改修に入り、工期は2021年3月までの予定。工事期間は閉館。

執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。異業種とコラボした城を楽しむ体験プログラムを実施。旅行雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)などを編集。
※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています。

関連書籍・商品など