お城ライブラリー vol.13 香川元太郎『ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 日本の城』

お城に関連する書籍を幅広く紹介する「お城ライブラリー」。第13回は、香川元太郎さんの作品集『鳥瞰・復元イラスト 日本の城』。城ファンであれば誰もが一度は目にしたことがあるだろう香川さんの細密イラストを、なんと100点以上収録。「かつての城はどんな姿をしていたのか?」そんな疑問が浮かんだときに真っ先に参考にしたい、城ファンの必需品と呼べる1冊だ。



かつての城の姿をイメージする最適の画集

城好きになるかどうかの分水嶺のひとつに、「現役だった頃の城の姿を想像できるか」というイメージの問題がある。どんな建物が建っていたのか、城はどんな場所にあるのか、ここでどんな生活が営まれていたのか――。姫路城(兵庫県)や伊予松山城(愛媛県)といった建造物の残存率(復元率)が高い城でも、政庁であり住まいだった御殿などすべての建物は残っていない。それに、城の入り口から天守まではかなり登るので、地形も踏まえて城の全体像をイメージするのは、どんな人にも難しいのが実状だ。土の遺構しか残っていない山城などは言わずもがな。はじめて行った城の全貌を頭の中で再現できる人など、よほど特殊な空間能力を持った人だけだろう。

それでは、どのように「現役だった頃の城」をイメージするのか。ここで役に立つのが、往事の城の姿を再現した鳥瞰・復元イラストである。連載「マイお城Life」でもご登場いただいたイラストレーターの香川元太郎さんは、およそ30年にわたり鳥瞰・復元イラストを描き続けてきた。正確で緻密、構造がわかりやすいとともに、そこで暮らす戦国人の息づかいまで聞こえてくる。つまりは、「城ってこんな姿だったんだ!」と直感的にわかるのである。(香川さんの作品はどれだけ言葉を費やしても説明しきれないので、どんな城でもイラストを1点見ていただければ言いたいことは伝わるだろう)

そんな香川さんの作品の集大成ともいえるのが、今回取り上げた『鳥瞰・復元イラスト 日本の城』だ。雑誌『歴史群像』内の「戦国の城」といえば、香川さんの描き下ろしイラストと最新の城郭研究が読める連載として城マニアには有名だが、本書も『歴史群像』と同様に学研からの刊行である。そして、島田市博物館と藤枝市郷土博物館・文学館で現在開催されている原画展の図録集という意味合いも持つ。

これまでも香川さんの作品集は何冊か発売されているが、本書の最大の特徴はイラストが折り込みで掲載されていること。つまり、本の中央(ノド)で作品が切れていないのである。雑誌『歴史群像』の連載でもそうだが、イラストを見開きで掲載するとどうしてもノドの部分が見にくくなってしまい、読者によってはストレスとなる。本書では掲載している126城のうち、100城は折り込みでの掲載となり、ノドにわずらわされることなくパノラマの鳥瞰・復元イラストを鑑賞できるのだ。

本書を手がけた学研の担当者は、「原画を拝見する機会の多い者としては、ノドが邪魔したり周囲が断ち切られたりすることなく、一枚の絵としてその細部まで見てもらいたいと常々思っていました」と語っている。その思いが全面折り込み掲載という前代未聞の製本につながったわけだが、実現するためには技術的なハードルが高かったようだ。例えば、本書を手にとったら、本を上か下から眺めてもらいたい。背表紙(ノド)側に2つの短い台紙が挟まっていることがわかるだろう。これは台紙を挟まないとまるでハリセンのように本が不格好に開いてしまうからで、それを防ぐための処理だ。細やかな気遣いが嬉しい。

本書では戦国時代に築かれた山城(中世城郭)を中心に、石垣と天守のある近世城郭や奈良時代の古代山城、琉球(沖縄)のグスクまで、日本列島に建つ日本史上の城をほぼ網羅している。城を訪れる前に本書に掲載されているイラストを見ておくだけで(該当する城が本書にない場合は、同時代に築かれた似たような城を確認しておこう)、現地に行ったときのイメージがまるで違うものになるだろう。または、城を訪れたあとに本書を見返して、「ここはこうなっていたのかぁ」と復習するのにも役に立つ。本書は城ファンにとって、反復して何度も楽しめる生涯の“宝物”となる1冊なのである。

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[イラスト]香川元太郎
[版 元]学研プラス
[刊行日]2018年


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執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。最近の編集制作物に『今みるべき日本の名城』(洋泉社)、『カラー版戦国の名城50』(中井均監修/宝島社)、『テーマ別だから理解が深まる日本史』(山岸良二監修/朝日新聞出版)、『御朱印めぐりと寺社巡礼さんぽ』(廣済堂出版社)、『教養として知っておきたい地政学』(神野正史監修/ナツメ社)などがある。

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