萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第8回 祝・世界遺産登録!潜伏キリシタン始まりの地 原城

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届け!今回は、6月30日に世界文化遺産に登録が決定された原城をご紹介します。

原城、本丸、二の丸、湯島、談合島
右が本丸で、左が二の丸。中央は、島原半島と天草との間に位置する湯島。天草四郎率いる一揆軍が作戦会議を行ったことから談合島と呼ばれる。

世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」

2018年6月30日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されることが決まりました。潜伏キリシタンとは、キリスト教が禁じられていた17〜19世紀、地域独自の形態で密かに信仰を続けた人々のこと。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、250年に及ぶ潜伏キリシタンの伝統の証となる、12の遺産で構成されます。

潜伏キリシタンの歴史が始まる契機が、寛永14(1637)年に勃発した天草・島原の乱の終焉です。悪政とキリシタン弾圧、さらに大飢饉や残虐な拷問に耐えかねた天草と島原の領民が、次々に蜂起。キリシタン大名の旧家臣も加わった約3万7000人の一揆軍が原城(長崎県南島原市)に結集し、3ヶ月の籠城戦の末に12万余に及ぶ幕府軍の総攻撃を受けて落城しました。一揆軍のほとんどが殺されるという、最悪の結末でした。

原城を舞台にしたこの戦いは幕藩体制を揺るがす大事件となり、日本は海禁体制を確立して鎖国へと突入します。教会は破壊され、宣教師は殉教。こうして、潜伏キリシタンの歴史がはじまることになるのです。

原城、本丸櫓台、石垣、三重
徹底的に破却された本丸櫓台の石垣。文献などから三重の櫓が建っていたと推察される。

掘り起こされた、壮絶な戦いの真相

一揆の鎮圧後、幕府は反乱の拠点として使われるのを防ぐため、原城を徹底的に破却して一揆軍の遺体とともに埋め尽くしました。こうして原城は長らく姿を消していましたが、近年の発掘調査によって、城の構造や籠城の実態が明らかになってきています。

城内の石垣がかなり崩れているのは、破却の痕跡です。隅角部の崩れは、人為的に壊された証。本丸の櫓台は隅角部がほぼ残っておらず、執拗なまでに破却されたようすがうかがえます。すさまじく破壊された本丸正門付近では、焼けた門の瓦や石垣の石材のほか、刀傷が入った人骨が土をかぶせて埋められていました。一揆軍は極めて組織的で統制のとれた籠城生活を送っていたようで、等間隔で区画化された半地下式の住居も発見されています。ガラス製のロザリオや祈りの象徴であるメダイのほか、鉛の弾を溶かしてつくった十字架も多く出土。遺物は遺体の顔付近から発見され、死を覚悟したキリシタンたちが命を落とす直前に握りしめたり、口に含んだものと思われます。

原城は南蛮貿易で財を成したキリシタン大名の有馬晴信により、慶長4(1599)年から築城されました。晴信は朱印船貿易では大名として最初に朱印状の発行を受けるなどの優遇を受けた人物。原城以前の居城である日野江城(長崎県南島原市)で豊臣秀吉が使用に権限を与えていたと思われる金箔瓦が見つかっているなど、秀吉政権下である程度の地位にいたことがうかがえます。原城にも秀吉政権の城と共通する概念や技術が見られ、たとえば本丸大手門も京間の寸法で、当時最先端だった近畿地方の技術に基づいて築城された可能性があります。

島原湾に突き出す標高約31メートルの平山城で、地形を取り込んだかなり壮大な城です。東・南・北面は有明海に面し、西側は低湿地に守られた理想的な立地。本丸からはどこまでもおだやかに有明海が広がり、壮絶な戦いがあったとは思えない平和な景観が望めます。城の周囲は約4キロにも及び本丸だけでも見学にかなりの時間を要しますが、ぜひ時間をたっぷり取って、広大さを体感するのがおすすめ。城の西側には、幕府軍が原城攻撃のために掘らせた甬道も残ります。

原城、本丸門跡、石塁、外桝形虎口、瓦、陶磁器
本丸の虎口となる本丸門跡。石塁を張り立たせた外枡形虎口。大量の瓦、陶磁器、人骨などで完全に埋め立てられていた。

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)など。「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)2018年9月14日発売、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)2018年9月18日発売。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

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