お城紀行〜城下と美味と名湯と お城紀行〜城下と美味と名湯と 第4回 |【津山城・前編】一二三段の石垣に守られた津山城へ

お城はもちろん、その城下町にある美味しいグルメや温泉を紹介する「お城紀行〜城下と美味と名湯と」。今回は、大手から搦手まで石垣でガッチリ固められた津山城(岡山県)。果たして無事に生還できるのでしょうか!? ※初掲 2018年1月11日。2022年10月5日更新




津山城、石垣、天守台、要塞
搦手側の石垣。左上が天守台。折り重なる石垣はまさに要塞! 

お城愛にあふれる町で早めのランチ

「とにかく石垣がすごい!」と噂に聞き、絶対じっくり見に行きたいと思っていた、岡山県の津山城。中国自動車道津山ICから、国道53号線を西へ。吉井川に沿って国道がカーブするあたりから、丘陵一帯に折り重なる高石垣が見えてきます。一二三段といわれる3段の縄張を囲む石垣は、遠くから見ても威圧感たっぷり。

吹屋町交差点の歩道橋の橋脚は、丁寧に積まれた切込接の石垣。もちろん現代のものですが、ビルの外壁にも石積みがあしらわれていたりして、地元の人たちの「お城愛」が伝わります。

さっそくお城へ!といきたいところですが、先に城下町で早めのランチをいただきます。今回はちょっと贅沢に、津山唯一の鰻屋さんへ。浜名湖産の天然鰻を炭火で焼いたうな重は、肝吸い・漬け物付き。鰻は炭の香りも香ばしくふんわり。タレの甘辛具合も絶妙です。

津山城、うな重
香ばしくフワフワの鰻に甘辛具合が絶妙のタレがかかったうな重。夢中で完食!

石垣にまみれながら天守曲輪を目指す

いよいよあの石垣群へ!津山城と城下町探訪の拠点には、大手側ふもとの津山観光センターがおすすめです。
さっそく大手口石段奥で、威圧的な打込接の高石垣がお出迎え。冠木門前で入園料を払い、枡形に足を踏み入れます。
この津山城、残念ながら明治の廃城令で建造物のすべてが取り壊されてしまいましたが、かつては櫓がなんと77棟(姫路城は61棟)も建っていたとか。枡形内はまさに袋のネズミということですね。

津山城、冠木門跡、桝形、石垣、櫓
冠木門跡の枡形。石垣の上に櫓が乗っている姿をイメージ。ここで討死?

冠木門から三の丸、そして城内最大の表中門に到着します。門の幅は30m以上あり、大阪城や名古屋城にも匹敵するほど。壮大な石垣は角に触れると切れそうで、石段の石材もひとつひとつが巨大。
石段を登ると四足門から二の丸に入りますが、ここは唯一の復元建造物「備中櫓」の足もと。張り出した櫓を支える石垣はキレイな扇の勾配で、ここまでの厳めしさとのギャップにやられます。
そして次は切手門。ここの複雑な石垣の連なりも格別の味わい。本丸が近づくにつれ道幅は徐々に狭くなっていきます。

津山城、備中櫓、石垣
築城開始から400年目の2004年に復元された備中櫓。石垣の曲線がキレイ

天守台を攻略してから搦手の石垣を堪能する

表鉄門から、ついに本丸へ。珍しい全室畳敷きの備中櫓の内部見学をして、五番門から天守曲輪に入ります。南側の石垣は積み直され、土塀・控え柱・雁木が復元されています。
それにしても、ここの閉塞感はただゴトじゃありません。ここまでさんざんグルグル回らされ、5つも門を抜けてきましたが、6つ目の門の先も‥‥やっぱりガチガチなのでした。
穴蔵の石段左側には、恋が成就するハート型の「愛の奇石」があるので、ぜひ探してみてくださいね。

そして、ついに天守台の石垣に到着。津山城主は森忠政(森蘭丸の弟)。築城当時、外様大名を警戒する幕府の監視が厳しかったそうですが、五重の天守が建ったと聞いて幕府のお役人がチェックに来ます。忠政さん、四重目の瓦を落とさせて「あれは庇(ひさし)でござる」と言い切ったという逸話が残ります。機転のきいた(?)ごまかしでお咎めを逃れた天守は、ここにそびえていたのですね。眺望は素晴らしく、神楽尾城という整備された山城跡も望めます。

津山城、天守台、神楽尾城跡
天守台からの眺め。右手のいちばん高い山の頂上が、神楽尾城跡。

津山城、四重五階地下一階建て、層塔型天守、穴蔵
四重五階地下一階建ての層塔型天守が建っていた、天守台穴蔵の入口。

津山城は築城に13年もかかっただけあって、色んな表情の石垣が見られます。穴太衆が関わったらしいですが、最も古いと見られるのが、本丸東側の石垣群。長〜い矢切櫓の石垣は武者走りの石段がいくつも付いていておもしろいのですが、私がまさに悶絶したのは、この裏側。通称「もみじの小道」の野面積は、古びた自然石の味わいにうっとりなうえに、急勾配な崖、そして足もとに天然の堀である宮川が流れるというロケーション。他には誰もいなかったけど、お城ロマンが凝縮されているスポットなのです。

津山城、矢切櫓、石垣
矢切櫓の石垣にはたくさんの武者走りの石垣が。ナイスデザイン!

津山城、石垣、苔、自然石
城内最古級の石垣。苔むした自然石の味わいにうっとり

そして小道を抜け粟積櫓跡に登ると、ここが盆地の真ん中で、築城に適した二川合流の地に建っていることがよくわかります。

最後は、搦手側から下ります。裏中門につづく石段は一段が異常なほど高く、ジャンプでもしないと降りられないほど。門跡から振り返ると‥‥西洋のお城かと見まがうほどの、石垣また石垣。ああ、ため息がもれます。

津山城、裏中門跡、城塞、搦手
裏中門跡から見た搦手。西洋の城塞を思わせるようなガチガチ感

もう間違いなく、名城です。
石垣でまたお腹がいっぱいになったので、この後は城下町をじっくり歩いてみるとしましょうか。


津山城(つやま・じょう/岡山県津山市)
津山城は織田信長の小姓として有名な森蘭丸の弟・忠政が築いた城。破風を持たないシンプルな五重の天守を持つ城だったが、廃城令により建物は全て取り壊されてしまう。2005年に築城400年事業として備中櫓が復元された。

執筆・写真/山本ミカ(やまもと みか)
兵庫県出身・歴史ライター。小4の時に歴史に目覚め、書店・大学出版会勤務を経てフリーライターに。現在の活動はもっぱら日本史関係書籍の執筆協力。石垣・巨石・製鉄が好物(鉱物?)。日本城郭協会に入会し、近ごろはお城にどっぷり。

※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています

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