萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第3回 金森長近が築いた、石垣と湧水の城下町 越前大野城

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届け!今回は、名水の町に築かれた越前大野城(福井県)。本丸を累々と取り囲む石垣は・・・。

越前大野城、再建、土井利忠
天守は1968年(昭和43)年に再建された。名君として知られる7代藩主の土井利忠をはじめ、天守内には土井家ゆかりの品が展示されている。天守最上階からの絶景もたまらない

せせらぎに癒される、達人がつくった城下町

越前大野城(福井県大野市)のある大野は、名水の町。現在でも、8割の家庭が地下水で生活しているというのですから驚きです。大野では湧水を「清水(しょうず)」と呼び、城下町のいたるところに湧水地が点在します。大野の原点ともいえる清水が、本願清水。大野城の築城時に、ここから城下町に湧水を導いて生活用水や防火用水としたといわれます。武家屋敷が建ち並んだ一帯には、城主のご用水としても使われた御清水があります。小さな城下町にもかかわらず江戸時代から続く酒蔵が4軒もあるのも、名水の町である証でしょう。

湧水地をめぐるだけでも楽しめる城下町ですが、城下町そのものの構造に見ごたえがあるのが大野の魅力です。大野城と城下町を築いたのは、織田信長の初期親衛隊“小姓衆・赤母衣衆”として知られる金森長近。後にかの有名な飛騨高山の城下町をつくる、城下町づくりの達人でした。

城の東側に武家屋敷、町人屋敷(町人地)、寺町(寺社地)が並び、町人屋敷は東西・南北それぞれ6筋の通りによって碁盤の目のように整然と区割りされます。城の東山麓にある百間堀が外堀の一部で、ここが城と武家屋敷との境目です。芹川用水は武家屋敷と町人屋敷との境で、ここから城に近い西側が武家屋敷、東側が町人屋敷となります。

驚くのは、江戸時代の『諸国当城之図』に描かれた区割りがそのまま残ること。明治時代に防火対策として拡張された六番通りと石灯籠通り以外は、道幅も現在とほぼ変わりません。

城へ続く大手道として栄えた七通りには、今も和菓子屋や醤油屋、民家など古い建物が並びます。古い町家の特徴ともいえる下屋庇が連なる、ほっとする光景に心が落ち着きます。城下町にめぐらされた背割り水路と呼ばれる下水道は、今もなお現役。各家の背中合わせの境を流れることからそう呼ばれ、江戸時代から変わらぬ人々の営みを、今でも感じることができます。

越前大野城、御清水、貯水槽、階段状
御清水は、かつて城主のご用水として使われたことから殿様清水とも呼ばれる。いくつかの貯水槽が階段状に連なっているのは、常に清水を清潔に保つための工夫。上流から順番に飲料水を採る場、果実などを冷やす場、野菜などを洗う場と取り決めて利用した

安土城と同時期に築かれた石垣が見もの

長近が信長から大野を与えられたのは、越前一向一揆の収束後のこと。この地は、越前と美濃を結ぶ美濃街道が通り、本願寺勢力がもっとも発展した北陸諸国と、本願寺が勢力を誇った美濃・三河・尾張など東海諸国とを結ぶ要地でした。そもそも美濃街道は古代以来、白山修験の道。戦国大名や一向一揆軍には北陸道の裏街道として使われていたようで、さかのぼれば縄文時代から、東海・北陸・飛騨を結ぶ文化交流があったとみられています。

つまり大野城は、越前一向一揆を平定した信長にとって、戦略上の要衝でした。組織化された一向一揆に対する一揆の再発防止、安定支配拠点としての役割を担っていたのです。城下町を歩いていると目隠しになるよう鉤の手に設計された場所がありますが、美濃街道との関係を考えれば納得です。

大野城の見どころは、なんといっても本丸を累々と取り囲む石垣です。大野城が築かれた1576(天正4)年は、信長が安土城(滋賀県近江八幡市)の築城を開始した年。本格的な城の石垣は安土城からはじまりますから、同時期に築かれた大野城の石垣は、最新の技術が投じられているといえます。長近が信長に近しい存在であった証ともいえるでしょう。

かなり改変されてしまい多くが近代の石垣ですが、本丸周辺には築城時のものらしき石垣が残っています。野面積の石垣を、注意深く観察してみてください。隅角部の算木積みも未発達で、天正期の石垣であることがわかるはず。この希少な石垣を目にするだけでも、登城する価値があります。

越前大野城、本丸周辺、石垣、野面積
本丸周辺の石垣。近代に積まれた石垣が多いが、築城時のものとみられる野面積の石垣も残っている

▼「萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜」その他の記事はこちらから

alt
執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)など。「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)2018年9月14日発売、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)2018年9月18日発売。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

関連書籍・商品など