クリス・グレンの お城へGO! ~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~ 2. Keep Ornamentation 天守の装飾は英語でいうと、どうなるの?

第1回の「天守」から反響が大きかったクリス。グレンさんの連載、待望の第2回をお届けします! 今回のテーマは「天守の装飾」。天守を飾るものって何だろう? と思いつくのが、屋根まわりの「しゃちほこ」や「破風」…え? これって一体どう訳せばいいの!? 教えてください!クリスさん!!

Let’s Talk Castles!Welcome to「クリス・グレンのお城へGO!~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~」。どーもどーもどーも! お城好きラジオDJのクリス・グレンです。日本のお城を英語でどう表現するのかを紹介するこの連載。前回はKeep, Tower Keep, Castle Keepをはじめ「天守」のさまざまな英語表現を取り上げました。

今回は「天守」をさらに深掘り! 天守の装飾について紹介していきます。

クリスグレンさん

天守の装飾、英語で言うとどうなるの?
What do you call the keep ornamentations in English?

鯱(しゃちほこ)は、Dolphin?それともTiger-fish?

先陣を切るのは、「鯱(しゃち、しゃちほこ)」です。
外国人ツーリストからも「あれは、何?」と、よく聞かれます。

鯱は、頭は虎、身体は魚で、龍のようなするどい尾ひれや棘を持つ想像上の動物です。一文字で、シャチとかシャチホコと読みます。口から水を吹くと言われているため、火災除けの守り神とされていました。(「理文先生のお城がっこう城歩き編 第50回 瓦葺建物と鯱」(加藤理文「理文先生のお城がっこう」)より引用)

松本城
松本城 乾櫓の鯱

日本城郭協会理事の加藤理文先生の説明にもあるように、鯱は虎でも魚でも龍でもない想像上の生き物ですから、どう訳すかは英語ネイティブの僕でも悩みます。

鯱に該当する英訳はないので「これが正解!」といえるものはありませんが、ときどき目にするDolphin(ドルフィン)=イルカという英訳には、さすがにビックリ! Dolphinには鱗(うろこ)がないし、あの可愛らしいイルカと鯱は似てもにつかない…。それなのに、なぜDolphinと英訳されてしまうのかはよくわかりませんが、もしかすると巨大な白黒の哺乳類「シャチ」がイルカ科であることが理由かも!? 

ただ、哺乳類の「シャチ」は英語でKiller Whale(キラーウェル)やOrca(オルカ)なので、Dolphinとは程遠い…。鯱の英訳がDolphinとなった理由は、やはり今も謎です。

じゃあ、鯱は英語で、なんていうの?

僕が英訳するときには、Tiger-fish(タイガーフィッシュ)としています。

頭が虎、体が魚…と、ここまではいいとしても「龍の部分がないじゃないか」というツッコミが聞こえてきそうですが(笑)見た目のイメージとしては、ほぼこれで理解できるとは思います。

ただ、無理に英訳をせず Shachihoko とするのもアリ! 日本語を覚えたい、覚えて使ってみたいと思っている海外ゲストも多いので、あえてShachihokoとするのも良いですね!

A Shachihoko is an imaginary creature with the head of tiger, the body of a fish, and a tail like a dragon.
しゃちほこは、頭が虎、体は魚、龍のような尾びれを持つ想像上の生き物です。
It was believed that in times of fire, water would spout from its mouth, and so Shachihoko were placed on the castle’s roof as a guardian against fire.
口から水を吹くと言われているため、火災除けの守り神として天守の屋根などに飾られています。

「破風(はふ)」は英語でいうと、どうなるの?

天守の装飾の代表格といえば、やはり破風ですね。

破風は、英語でGable(ゲイブル)やPediment(ペディメント)と言います。なんとなく破風って日本の建築独自のものだと思われがちですが、洋風建築にも破風はあります。

ただし、唐破風のようなスタイルは欧米にはないし、天守のように一つの建物に対してあれだけ多くの種類の破風が装飾されている建造物は、他にはありません。これは日本の城の天守独自のユニークなポイントだと言って良いでしょう。

名古屋城
さまざまな種類の破風が見られる名古屋城天守

入母屋破風、千鳥破風、切妻破風、唐破風などの名称や構造上の特徴などについての詳細な説明は、ひとまずあまり気にしなくて大丈夫。ごく一般的な外国人ツーリストは、そこまでの説明を求めていないことが多いです。

それよりも「なぜ、天守には多くの破風が装飾されているのか」について紹介する方が喜ばれますよ。

The tower keep features many types of gable.
The gables make the keep, a symbol of authority, look more luxurious than other buildings.
天守は、多くの種類の破風で装飾されています。
これは破風をつけることによって、権威の象徴である天守をどの建物よりも豪華に見せるためです。

と、こんな感じ。
もちろんほかにも理由はいくつかありますが、まずは、わかりやすい説明を一つ覚えておくと安心です。

クリスグレン

軍事施設である天守のエレガントな装飾「華頭窓」

天守の装飾、最後に紹介するのは華頭窓です。

彦根城
多くの華頭窓が装飾された彦根城天守

軍事施設である城の天守には、本来、必要のないはずの華頭窓。それなのに、格式や美しさへのこだわりから天守の装飾に採用するところ、天守をだたのビルにしないところが、サムライたちの美的センスの素晴らしさだと思います。

華頭窓(火灯窓)を直訳するとFlower Head WindowFire Light Windowになりますが、さすがにこれはわかりづらい…。

クリスグレンさん
僕ならCusped Window(カスプト ウィンドウ)と訳します。Cuspedというのは、まさに華頭窓のような形状のこと。これは教会などの建築でもよく見られる形(*写真)なので、海外の人でも理解がしやすいです。同様に、華頭窓の形を釣鐘=Bell(ベル)に見立てれば、Bell Shaped Window(ベル シェイプト ウィンドウ)という英訳でもいいですね! あなたは、どちらがお好みですか?


Hikone Castle‘s keep has 18 cusped windows.
彦根城天守には、合計18の華頭窓があります。

「クリス・グレンのお城へGO!~日本のお城、英語でいうとどうなるの?~第2回 天守の装飾」いかがでしたか? 次回もお楽しみに! Enjoy castle studies, see you next time!

【コラム:外国人も興味津々!? 破風のウラ側】

「破風の間」のある城の場合、天守の装飾としての破風の役割だけではなく、破風のウラ側の説明もしてあげると、海外の人にも喜ばれます。

破風の間は、敵を攻撃するためのスペースですので、必ず鉄砲狭間が切られました。破風の間は、屋根の端に位置し、すぐ下の屋根の軒先近くまで突き出ているため、屋根が邪魔をして見えない死角が少なく、敵と向かい合う最前線の陣地の役目を担っていたのです。
理文先生のお城がっこう城歩き編 第45回 破風の間と懸魚(げぎょ)」(加藤理文「理文先生のお城がっこう」)より引用

松本城
松本城 破風の間

「美しい装飾のはずの破風のウラ側が、まさかの攻撃スペースになっているなんて!すごい!見たい!」と大興奮する人や「もしかして、そこにはニンジャが隠れていたの?」という質問をする人もいます。

こうした「美しさ」と「機能性」の共存も、日本の城の素晴らしさの一つ。ぜひ、その魅力を伝えましょう!

The space within the gable is for attacking the enemy. 
Gables are features with both function and beauty. 
破風の間は、敵を攻撃するためのスペースです。
破風は、美しさと機能と両方を兼ね備えています。

参考:加藤理文「理文先生のお城がっこう」(https://shirobito.jp/article/rensai/15

※この連載で取り上げる英訳、英文は、あくまでも一例です。前後の説明や文章によって使用すべき単語が変わる場合があります。

クリスグレンさん
執筆・画像/クリス・グレン
オーストラリア・アデレード市出身。93年より名古屋在住。ラジオDJのほか、テレビプレゼンター、ナレーター、翻訳者、ライターとしても活躍。インバウンド観光アドバイザーとして、自治体や観光施設に対するアドバイスなども行う。日本全国550箇所以上、名古屋城にいたっては850回以上、訪れるほどの城マニア。お城好きラジオDJとして、各地の城イベントにも出演。「城バイリンガルガイド」(三浦正幸著・小学館)、「Japanese Castle-24 Best Castles Stamp Rally-」(日本城郭協会監修)などの翻訳も手掛けるほか、城郭に関する翻訳やアプリの監修なども行っている。NHK WORLD 「SAMURAI CASTLES」ではナビゲーターもつとめる。2023年公益財団法人日本城郭協会理事就任。

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