日本城郭協会大賞 【インタビュー】飯盛城発掘調査の成果と新たな課題ー第1回日本城郭協会大賞受賞:大東市・四條畷市

日本城郭協会の公益財団法人移行10周年を記念して創設された、日本城郭協会大賞、日本城郭文化振興賞、日本城郭文化特別賞。城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する目的の賞です。前回は表彰式の模様をレポートしましたが、今回は受賞された2団体に各取り組みへの思いを伺いましたのでご紹介しましょう。

先日行われた第1回日本城郭協会大賞の表彰。その後にお時間をいただき、インタビューを行いました。今回は第1回日本城郭協会大賞を受賞された大東市生涯学習課学芸員の李さん、四條畷市教育委員会スポーツ・文化財振興課主任の實盛さんに、取り組みの背景やお二人の発掘調査への思いなどを伺いました。

▼「日本城郭協会大賞・城郭文化振興賞」って? こちらの記事をチェック
【お城TOPICS】日本城郭協会が城郭文化振興に関する賞を新設!大阪府大東市・四條畷市などが受賞

日本城郭協会大賞受賞:大東市・四條畷市 インタビュー

飯盛城(大阪府)概要】 
戦国大名・三好長慶が居城としていた飯盛城跡。大東市と四條畷市にまたがる山城で、2017年には続日本100名城に、2021年には国指定史跡に認定されました。
山頂と尾根筋の東西400m、南北700mにわたって114か所の曲輪や土塁、堀切が残っています。多くの曲輪で石垣が用いられており、城全体に石垣を使用したといわれている織田信長よりも早かった可能性も指摘されています。
  
日本城郭協会大賞・日本城郭文化振興賞受賞
左から:大東市生涯学習課学芸員の李さん、小和田哲男先生、四條畷市教育委員会スポーツ・文化財振興課主任の實盛さん

(編)この度はおめでとうございます。改めてご感想をお願いいたします。
(李さん)市長のコメントにあったように、これまで両市で国指定史跡に向けて協力して調査をしてきました。そういった行政の取り組みが今回のような形で評価いただいたというのが、非常にありがたく思っています。
また国史跡指定になったことにより保存活用計画の策定を両市で行なっています。市民のみなさまにいろいろお知らせをしないといけないのですが、この日本城郭協会大賞がいいきっかけになったと思っています。

(編)お二方は現場で調査をされていたのでしょうか?
(李さん)そうですね、調査担当者になります。
(實盛さん)発掘調査を現場でやっています。小和田先生もおっしゃっていた「宗教施設がある」というのは、四條畷市の調査範囲からわかりました。
仕事をしている中で、調査でわかったことをまとめたものを、成果として評価いただいたということはありがたいと思います。

飯盛城、御体塚郭
宗教施設で、三好長慶が仮埋葬されたとされる御体塚郭(四條畷市教育委員会提供)

2つの市が協力した調査結果を合わせたら「すごい成果」に

(編)2つの市で連携して、発掘調査…というのはあまり耳にしないですね。
(實盛さん)そうですね、両方で発掘までされているところは あまりないのではないでしょうか。
(李さん)そもそも2市にまたがっているのも、行政の都合でそうなってしまったので…。
(實盛さん)もともとはそんな境目はなかったはずが、別れてしまっただけ。両方にまたがっているし、これは一緒にやっていこうということになりました。

(編)2つの自治体で取り組まれるうえで、難しいところなどもありましたでしょうか?
(李さん)またがっているので、2市でやっていて助かる部分もあるんです。お互いにフォローしあえるところはありますし。
すごく助かるところはあるんですけど、やはり調整という点は大変といえば大変。もちろん1市でやっても大変だとは思うんですけど。
(實盛さん)うち(四條畷市)は大東市さんより財政規模が小さく、だいたい人口5万人くらいの小さな市になるんですね。それであれだけ大きいことができたことは、大東市さんと一緒に取り組んだおかげかなと思います。

(編)自治体の規模によっても動きが変わるんでしょうか。
(實盛さん)発掘調査自体は両市で別々の所をやるのですが、そもそも動き出すのもうちの市単体だと進めていただろうか、最初の「国史跡にしましょう」というのもどうなってなっていただろうか、と思います。

(編)連携したからこそ、国史跡の認定につながったのですね。
(實盛さん)2市の調査結果のよかったことを合わせたら、「ものすごい成果やな」と客観的に見ても思います。
(李さん)(大きくうなずく)

続日本100名城や、三好長慶と写真が撮れる!?アプリなど観光に向けて

(編)今年は三好長慶の生誕500年ということで、アプリ(*1)も作られています。観光面などについてお伺いしたのですが、まずは2017年に続日本100名城に制定されましたが、反響はどうでしたか?
(實盛さん)続日本100名城選定は大きかったですね。スタンプラリーが開始されて、訪れていただく方が結構増えています。コロナ前は海外の方も来られていたので、(コロナが収まったら)また来城者が戻ってくれればいいなと思っています。

*1:アプリ…大東市が2022年にリリースした『よみがえる飯盛城~「天下人」三好長慶 最後の居城』

アプリ『よみがえる飯盛城~「天下人」三好長慶 最後の居城』、飯森城
アプリ『よみがえる飯盛城~「天下人」三好長慶 最後の居城』の紹介(大東市ホームページより)

(編)飯盛城のアプリに、城郭研究の第一人者でもある中井均先生*2が監修されていると伺いました。
(李さん)そうですね、監修いただきました。アプリについては(李さんの所属する生涯学習課ではなく)都市魅力観光課の事業として行っているんですけど、中井先生に監修に入っていただき、私も打ち合わせには出席させていただいて、調査結果を反映させていただく、という形で。大東市側は遺構の残りがあまりよくなかったというところもあり、(アプリの)建物の復元などは推定も含まれています。山城だとちょっとやっぱり一般の方がわかりにくいと言われることも多いので、こういったアプリなどを使って「こういうものがあったんだ」と理解していただければと思います。

*2:中井均先生は令和4年から「大東市・四條畷市飯盛城跡の調査研究に関する専門委員会」会長を務められている

(編)記念写真も撮れますしね!
(李さん)三好長慶と松永久秀と写真も撮れます。ちなみに、現地で撮るとその場でしか見れない三好長慶のコメントがあるらしいです。
(實盛さん)大東市がリリースしていますが、四條畷市もまったく関わってないわけではなくて。アプリは測量のデータを使っているのですが、四條畷市の範囲については提供いたしました。
(李さん)両市飯盛城をイチ押しでやっていますしね。

山自体の現状も生かしたうえで、お城も見てもらえるような形にできたら

(編)国指定史跡に選ばれて、第1回の日本城郭協会大賞も受賞されました。すでに素晴らしい成果をあげられていますが、まだこの先何か目標をお持ちでしょうか?
(李さん)最終的には整備まで持って行かないといけない。いろんな問題があるので、そのあたりを今後どう解決していくかというのをみんなで考えていく形になります。
飯盛山は、レクリエーションとして山登りを楽しみにしている方もいらっしゃいますし。
(實盛さん)町からすぐ登れる山で、毎日登っておられる方もいっぱいいらっしゃるんですよ。
(李さん)城としてではなくて、山登りや、植物に興味があって行っておられるかたもいらっしゃいますし、オオムラサキなど昆虫を見に行っているという方も。「それを見るのが楽しみや」っていうね、そういうことも含めたうえで、今後飯盛山をどうしていくか。それぞれの楽しみ方を排除しない形で。

(編)お城でもあり、山でもあり…
(實盛さん)(飯盛城跡は)お城ですけど、一番理想的なのは山自体の現状も生かしたうえで、お城も見てもらえるような形にできたらいいのかなと思っています。あとはお城自体もまだわかっていないことがまだまだ残っているんですね。昭和40年くらいだとほとんど木がなくてお城の情報がよくわかったみたいですが、いまは森に覆われてわからない部分も多く。四條畷市も石垣の調査など、「ここだけはやっておきたい」けどできてないところもまだあるので、やっていきたいなと思っています。

(編)山好きな人が山城にも、山城好きな人が山にも、それぞれ興味を持ってもらえるといいですね。
(實盛さん)本当に思いますね、そうできれば、飯盛城のまさに裾野を広げられると思いますし。
(李さん)(広がるという意味では)私も山城専門でもなかったのですが、今回飯盛城を調査することになりました。
(實盛さん)僕も自分で好きで見てたのは古墳時代、銅鏡とかでした。

(編)お二人は専門など違ったけれど、こうやって行政の仕事で携わられて「お城って面白いなと」感じたということでしょうか。
(おふたり)そうですね。
(李さん)私はもともと山に分布調査に行くのが好きなんですよ。とりあえず山に分け入る…みたいな。
(實盛さん)どこかに何かが残ってないかを探していく、という。
(李さん)分布調査は仕事でないとなかなか行くことができないですからね。
(實盛さん)僕も古墳探したいんです(笑)。今は盛り土みたいになっててわかりづらいですが、それを見分けるのがたまらないんですよ。誰も知らなかったのを見つけるのはすごい楽しいですね。
(李さん)すごいテンション上がりますよね! なかなか仕事でないと調査できない所もありますし。
(實盛さん)山は民間の方がもっている土地というのが多いんです。なので行政の調査でしか入ることができない場所もありますね。

「山城はスルメ」のよう。何度行っても発見がある

(編)最後に、城びとの読者にぜひ伝えたいことがあればお願いします。
(實盛さん)去年、特別展を四條畷市立歴史民俗資料館でやっていて、もう終わってしまったんですけど展示の図録「天下の支配者三好殿」をインターネットで公開しています。こちらで三好長慶のことを見て、知って、現地にも来てもらえたらいいですね。

(李さん)そのようなところも含めて、やっぱり現地が一番ですし、ぜひ来ていただきたいですね。大東市では、秋ごろの予定になるのですが、大東市立歴史民俗資料館での特別展とシンポジウムを予定しております。今いろんなところに発信している調査の成果を、改めてお知らせしたいと思っています。
山城はスルメみたいで何回行っても新たな発見があって、ずっと味が出てくるので何回行っても楽しいと思います。(事前知識のない)わからない状態で行って、ちょっと知識をつけていくと、より楽しくなってくると思います。没頭すると途中でどこかしこも城の遺構に見えてくる時期もありますが(笑)そこまで行かなくても、シンポジウムなどに参加したり、ちょっと調べてみようとなればうれしいですね。
(實盛さん)新しいものを発見できて楽しいかもしれません。
(編)ありがとうございました!

李さんと實盛さんへのインタビューはとても和やかで、お互い協力し尊重しあって調査に取り組んだのだろうなという背景、そして「ぜひ取り組みを地元の方、全国の方に知ってほしい」という思いが伝わってきました。調べて、訪れて、現地の方と交流して。「ずっと味が出てくる」山城の魅力をぜひ飯盛城で感じていただきたいなと思います。

なお、第1回日本城郭文化振興賞を受賞された「番場の歴史を知り明日を考える会」の泉さん、酒井さん、宮川さんにもお話をお伺いしました。インタビューは後日公開予定です。お楽しみに!

執筆・写真/城びと編集部
協力/公益財団法人日本城郭協会

関連書籍・商品など