日本100名城・続日本100名城のお城 【続日本100名城・若桜鬼ヶ城】破城跡と六角石垣が残り、歴史的町並みに溶け込んだ城

2021年8月に重要伝統的建造物群保存地区に選定された「若桜」の町並み。その歴史的町並みを守るように、そびえていたのが若桜鬼ヶ城です。山頂には近世城郭の石垣群と破城の跡が混在し、街道を見わたせる絶好の眺望も広がります。ローカル線として人気の若桜鉄道を組み合わせて、山城ハイキングと町並み散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。


若桜鬼ヶ城の歴史

標高452mの鶴尾山(つるのおやま)に築かれた若桜鬼ヶ城(鳥取県八頭郡)。播磨国(兵庫県南部)と但馬国(兵庫県北部)に通じる街道が合流する、因幡国(鳥取県東部)の重要拠点として栄えました。

若桜鬼ヶ城、鶴尾山
若桜鬼ヶ城が築かれた鶴尾山

「若桜」の名の歴史は古く、ヤマト政権の時代にさかのぼるとされています。鎌倉時代に入ると、有力御家人・梶原景時の追討による功績によって、矢部氏が因幡国に入部しました。しかし、若桜鬼ヶ城が築かれた時期はよくわかっていません。

戦国時代には、尼子氏・毛利氏・織田氏などの有力大名が激しい攻防を繰り広げました。羽柴(豊臣)秀吉が因幡を平定した後は、木下氏や山崎氏(のちに丸亀城主となる山崎家治など)が城主を務めますが、一国一城令によって元和3年(1617)に廃城となりました。

勾配と電気柵を乗り越える登城道

若桜鬼ヶ城に登城するためには、町並みの中心部に近い「第1町民体育館裏登山口」または「八幡広場登山口」から、山頂の本丸を目指すことになります。案内板によると、登城の目安は徒歩約50分(公式パンフレットでは約45分)です。

若桜鬼ヶ城、登城口、第1町民体育館裏登山口
登城口の一つ、第1町民体育館裏登山口

登城口から15分ほど登ると、「尾根経由」と「六角石垣経由」に分かれる分岐にあたります。どちらも本丸へつながっていますが、より急峻な尾根経由が登り専用(公式パンフレットによる)となっています。

行きは尾根経由、帰りは六角石垣経由をたどると、無理せずにくまなく遺構をめぐることができます。また、登城道は少し谷側に傾いていますので、登城の際にはくれぐれもご注意ください。

若桜鬼ヶ城、遺構
山頂の遺構には電気柵を開けて入る

城郭の中枢である山頂の遺構の目印は、鳥獣対策用の電気柵です。昼間は通電していないとのことですが、慣れない方が多いと思います。心を落ち着かせてフックを開けて入城してください。

破城の跡が生々しい山頂部

若桜鬼ヶ城、枡形虎口
三の丸の出入り口に築かれた枡形虎口

石垣で囲まれた枡形虎口を抜けると、三の丸、二の丸、本丸が連続します。天守台付近からは、但馬方面と播磨方面に街道がのびる様子が一望でき、若桜鬼ヶ城の立地の重要性がよくわかります。

若桜鬼ヶ城、天守台
天守台付近からの眺望。向かって右上が播磨方面、左上が但馬方面

山頂の遺構は、戦国時代から江戸時代初期にかけて、木下氏や山崎氏によって整備されたと考えられています。往時の建物の様子はわかりませんが、天守台をそなえた本丸を中心とし、二の丸や三の丸などに石垣が残っています。また、廃城の際に石垣が壊された状態が残り、「破城」の歴史を物語っています。

若桜鬼ヶ城、石垣
隅角部まで徹底的に破壊された石垣

六角石垣は中世の名残

山頂の遺構を堪能した後は、再び電気柵を開閉して下山します。帰路は六角石垣経由のルートを選び、六角石垣を見逃さないようにしてください。

若桜鬼ヶ城、六角石垣
案内板が立つ建物の下に六角石垣がある

六角石垣は、徹底的に破壊された山頂部の石垣とは対照的に、ほぼ完存した状態で残っています。

若桜鬼ヶ城、六角石垣
角を鈍角にして積まれた六角石垣

石垣の積み方から、六角石垣は山頂の遺構よりも古い時代に築かれたとされ、土塁の一部も残っているため、中世に利用された可能性がうかがえます。敵を見張るための物見として、使われたと考えられています。

若桜鬼ヶ城の起点と町並み散策

若桜鬼ヶ城、若桜駅
国登録有形文化財に指定されている若桜駅

若桜鬼ヶ城への起点は、「若桜鉄道」の若桜駅です。若桜鉄道は、鳥取駅からおよそ南に10㎞の位置にあるJR因美線郡家駅から、南東に向かってのびるローカル線です。その終着駅である若桜駅は昭和5年(1930)に開業し、当時の姿をとどめる木造駅舎や、機関車を方向転換させるための手動式転車台など、SL時代の設備が残されています。また近年、駅舎を利用したカフェも整備されています。

若桜鬼ヶ城、若桜鬼ヶ城、重要伝統的建造物群保存地区、蔵通り
白壁の土蔵が並び立つ蔵通り

若桜駅を出ると、まもなく重要伝統的建造物群保存地区に選定された歴史ある町並みが広がります。旧家の白壁土蔵群が約300mにわたってのびる「蔵通り」は、かつての城下町の名残がよく感じられます。

心地よい水の音にも、ぜひ耳を傾けてみてください。若桜鬼ヶ城の外堀の役割を果たすように流れる、八東川(はっとうがわ)から取水した用水が町の中を流れ、現在も生活用水として利用されています。

若桜鬼ヶ城、若桜橋
若桜橋の背後に若桜鬼ヶ城がそびえる 

若桜駅から約15分(約1㎞)歩くと、旧城下町の主要部を抜け、八東川に架かる若桜橋に到着します。若桜橋は、昭和9年(1934)に完成した鉄筋コンクリート造の3連アーチ橋で、国登録有形文化財に指定されています。若桜鬼ヶ城は、3連アーチ橋越しに見える、全国でも珍しい城でもあるのです。

山頂の石垣群や破城跡、2本の街道を見わたせる眺望、登城道上にある六角石垣など、見どころが多い若桜鬼ヶ城。趣のある若桜の町並みとともに、じっくりと見学することをおすすめします。

住所:鳥取県八頭郡若桜町若桜・三倉
電話:0858-82-2213(若桜町教育委員会)
アクセス:若桜鉄道「若桜」駅から徒歩約10分で登城口

執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。著書『講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200』(講談社、2021)。『地図で旅する! 日本の名城』(JTBパブリッシング)や『1日1ページ、読むだけで身につく日本の教養365歴史編』(文響社)などで執筆。城めぐりツアー(クラブツーリズム)の監修・ガイドを務める。
※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています。