2021/09/01
明智光秀とその周辺|小和田哲男 第9回 安土城下の明智邸はどこにあったか
本能寺の変で織田信長を討った武将として知られ、2020年・2021年放送のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』では主人公として描かれた明智光秀。連載講座「明智光秀とその周辺」では、ドラマの時代考証を担当される小和田哲男先生が、光秀の生涯に影響を与えた人々や出来事に全12回でスポットライトを当てていきます。第9回は、安土城下にあったとされる織田信長の家臣団屋敷がテーマ。光秀の屋敷はどこにあったのか、数々の資料を紐解きながら迫ります。(※2020年12月23日初回公開)
安土城下の家臣団屋敷
天正4年(1576)正月、織田信長は丹羽長秀に命じて安土城の普請にかからせているが、『信長公記』に「御馬廻御山下に各御屋敷下され、面々手前々々の普請申付けらる」とあるように、同時に馬廻衆の屋敷づくりにも取りかかっている。信長が自身の居城である安土城の築城と城下町づくりをセットで考えていたことがうかがわれる。
信長の時代、兵農分離がかなり進んでいたため、重臣たちだけでなく、全家臣団の城下への集住が可能であり、家臣団の多くが岐阜から安土へ移住することになった。
では、その家臣団の屋敷はどこにあったのだろうか。安土城へ行かれた方は、大手口から入ってすぐ、左右に曲輪があるのに気づかれたのではないだろうか。左に「伝羽柴秀吉邸」、右にそれよりかなり規模は小さいが「伝前田利家邸」という石柱が建てられている。多くの方は、「伝」とあるのを不思議に思いながらも、「ここに秀吉や利家の屋敷があったのだ」と考え、中には、柴田勝家・丹羽長秀・明智光秀の屋敷がないことに疑問を抱く人もいる。秀吉はともかく、前田利家よりこれら三人の方がランクは上だからである。
実は、この「伝羽柴秀吉邸」「伝前田利家邸」は全く根拠がなく、貞享4年(1687)に描かれた「近江国蒲生郡安土古城図」をもとに後の人が書き入れたものだったのである。あったはずのない徳川家康邸が書きこまれているのもそのためであった。加藤理文氏は『織田信長の城』の中で、「伝羽柴秀吉邸」は織田信忠邸ではないかと推測されており、その可能性は高いように思われる。
おそらく、安土城内には、信長の一族と、小姓の森蘭丸・堀秀政や右筆の武井夕庵といった側近たちの屋敷があった程度と思われる。では、他の家臣団屋敷はどこにあったのだろうか。
このことをみていく上で注目される記述が『信長公記』にある。同書天正8年(1580)閏3月16日条に、「御馬廻・御小姓迄御普請仰付けられ、鳥打の下江を塡めさせられ、町を立てさせられ、西北海の口に舟入所々にほらせ、請取の手前手前に木竹を植ゑさせ、其上江堀を塡めさせ、各御屋敷下され候。人数、稲葉刑部・高山右近・日禰野六郎左衛門(以下略)」とみえる。
つまり、琵琶湖(西の湖)を埋め立て、そこに家臣団屋敷を建てさせたというのである。実際、埋め立てられたと思われる場所に、高山・川尻・金森といった家臣名を髣髴(ほうふつ)させる地名も残っている。
明智光秀屋敷を推定する
安土に「池田町」と「佐久間町」という町名がある。おそらく「池田町」は池田恒興の屋敷があったところで、「佐久間町」も佐久間信盛の屋敷があったところと思われる。「明智町」という町名があれば問題はなかったが、残念ながらそうした町名は残っていない。
推定していく材料は全くないのかと思っていたところ、安土町在住の木戸雅寿氏から耳よりな情報をいただいた。一つは、昭和15年(1540)、安土青年学校自治会学芸部部長国源一・遠藤正信・木俣弥太郎編『安土地名伝記』で、上豊浦のところに、
明智氏邸趾
坂本七万石、天正七年丹波・丹後三十五万石を併、四十二万石を領せし明智氏が安土登城に際し設けし邸を小字八日堂辺に建てしと伝ふ。附近に塚あり。
と記されていた。長国氏らが何を根拠にそこを推定地としたかはわからず、また、現在はその塚はないという。概略の場所を地図 中1⃣で示しておいた。

安土城下にあったと推定される明智邸の候補地(数字1と2)
もう一ヵ所の候補地は、地元の郷土史家の方が推定している場所で、概略の場所を地図中2⃣で示しておいた。
信長の安土城下は、まだはっきりした士庶別居住区分とはなっていないので、商人・職人居住区の町屋の中に武家屋敷が交じっていた可能性はあるのではないかと考えている。ただ、残念ながら安土城下の明智邸の場所は確定するに至っていない。
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執筆/小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会 理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。
著書 『戦国武将の手紙を読む 浮かびあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
『明智光秀・秀満』(ミネルヴァ書房、2019)ほか多数
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