萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第31回 古宮城 驚異の空間デザイン力!シナモンロールのような竪土塁に悶絶

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届けする「萩原さちこの城さんぽ~日本100名城と続日本100名城編~」。31回目の今回は、武田信玄が東三河進出の拠点として築城したとされる古宮城(愛知県)。空間を最大限に活かす独創的な縄張によって実現した、見事なまでに絶妙な防御力に注目していきます。

古宮城、竪土塁
シナモンロールのように渦巻く竪土塁

横堀と土塁を駆使した独創的な縄張

コンパクトながら、上下左右の空間を最大限に生かしたプランに悶絶します。秀逸かつ、独創的でミステリアスな縄張といえます。

大きな特徴は、城の東側と西側で様相が異なること。丘陵の中央あたりで巨大な堀切によって東西に分断され、東西の構造が別の城のように違います。西側はキリッと巧妙で、東側はだらりと粗放。横矢がバリバリ掛かってエッジがシャープな西側に対して、東側はだらだら曲輪が並ぶ印象で、ソリッド感がありません。高低差と左右のズレが豊富な西側の縄張は秀逸。この縄張の妙を楽しむといいでしょう。

防御の主眼は丘陵続きの西側に置かれ、本来の大手は北西隅にあったようです。ぐるっと北側まで迂回し、そこから西側丘陵最高所の二の丸まで、つづら折れのような土塁の上を進んで2つの虎口を突破するのが最短と思われます。

現在の登城口を上がったところにある両袖枡形虎口は、主郭に通じる正面玄関。主郭側に入り込むようにして内枡形が設けられ、分厚い土塁で囲まれています。登城道をよく見ると、西側丘陵から主郭へ通じる通路を交差させ、櫓台も突出して枡形内に迫っています。両袖枡形虎口で敵を正面からがっちり囲んで迎撃しつつ、食い違う通路によって側面攻撃も食らわせる、抜かりないコンビネーションテクニックが見ものです。

古宮城、横堀
二の丸を囲む横堀

両袖枡形虎口や竪土塁、丸馬出の変則技も

古宮城のすばらしさは、空間デザイン力です。高低差がない分、横堀と土塁を駆使して、縦のラインではなく横のラインでデザインしていくイメージ。たとえるなら、渦巻くシナモンロールのようなフォルムです。

最高所の二の丸は、高い土塁と巨大な横堀をめぐらせてガードし、それらを横目に見せるようにして、土塁と横堀をめぐらせた直線道を進ませます。頭上から矢の雨を降らすというより、横から槍で突きまくるような印象でしょうか。高低差が少ないとはいえ、曲輪直下の切岸はかなり削り込まれてなかなかの高さでで、さらに進むと竪土塁まで登場し、まさにシナモンロールのような渦巻きフォルムになります。

二の丸の下に設けられた馬出のような空間が、悶絶ポイントです。気づかずに見逃しがちなほど、敵からも見えにくい馬出で、西側からの敵に向けた絶妙な射撃場となります。

さらに感嘆するのは、西側丘陵の迷路を攻略中、巨大堀切を隔てた東側丘陵西端の土塁からの援護射撃に晒されていることです。よく見ると東側丘陵のほうが高くなっていて、堀切を隔てて射撃できる設計です。土塁は高さも幅もあり、かなりつくり込まれた戦闘空間になっています。西側丘陵最高所の曲輪から東側丘陵へ連結する土橋も圧巻で、もちろん張り出し部からは横矢が掛けられ、折れを多用した設計になっています。

古宮城は武田信玄によって、築城の名手として名高い馬場美濃守信春の縄張で天正元年(1573)に築かれたと伝わります。徳川家康領である東三河進出の拠点として築城され、武田勝頼が天正3年(1575)に長篠の戦いに敗れた後は廃城になったとされています。両袖枡形虎口や二の丸の丸馬出のような構造が武田氏の城で見られることから、古宮城は武田氏の傑作ともいわれますが、1575年以降に徳川方の城として使用された近隣の亀山城(愛知県)とプランが類似していることなどから、西側丘陵は武田氏撤退後に家康が手を入れた可能性も指摘されています。

古宮城、馬出
二の丸下に設けられた馬出のような空間

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)、「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)など。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

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