理文先生のお城がっこう 城歩き編 第24回 安土城の石垣1

加藤理文先生が小・中学生に向けて、お城のきほんを教えてくれる「お城がっこう」の城歩き編。24回目のテーマは、安土城の石垣。果たして誰がどのようにして積んだのかを、城内に現存する石垣とその積み方に注目しながら考えてみましょう。

城全体にわたって石垣(いしがき)を使用した最初の城が安土城(滋賀県)でした。安土城では、平成元年(1989)から20年計画で、発掘調査(はっくつちょうさ)と環境整備(かんきょうせいび)を行い、城跡(しろあと)を訪(おとず)れる人々に分かりやすく示(しめ)しながら、保護(ほご)して安全に見学できるようにしています。

20年にわたった発掘調査で、主要部だけではなく、周辺部に築(きず)かれた石垣のようすまでもが解(わか)ってきました。安土城の石垣については、穴太衆(あのうしゅう)と呼ばれる近江の石工集団(しゅうだん)が積んだ穴太積(あのうづみ)と言われてきましたが、穴太衆が関わった記録はありません。また、発掘調査で確認(かくにん)された石垣は、まとまりに欠ける石垣で、特定の石工集団によって積まれたとは思えないのです。では、安土城の石垣は、誰(だれ)がどのようにして積んだのでしょうか。今回は、それについて考えてみたいと思います。

石垣の高さと長さと角度

石垣は、主要部(天主台(てんしゅだい)・本丸・伝二の丸・伝三の丸)と、主要部に続く大手道(おおてみち)、百々橋口(どどばしぐち)、七曲口(ななまがりぐち)、搦手道(からめてみち)周辺にほぼ集中しています。天主や御殿(ごてん)のある主要部が城の中心で、そこまで続く通路の周辺も石垣で積み上げ、ここを通る人々は圧倒(あっとう)的な規模(きぼ)の石垣を見ることになります。しかし、すべてが石垣によって新たに設(もう)けられた曲輪(くるわ)ではなく、もともとの地形を変えないで、そのまま利用して曲輪としている部分もかなり見られます。

安土城、石垣
大手口東側虎口石垣。立石を規則的に配置し、その間の石材は横置きにする見せるための石垣で、高さは一間以下です

安土城は、10m以上の高石垣(たかいしがき)で囲まれたイメージがありますが、実は石垣の約7割が一間(1.8m)以下の高さでしかありません。三間(5.4m)以上の高石垣は、全体の約3%でしかないのです。それも、ほぼ天主や御殿のある主要部の周りを囲む位置に集中しているのです。城の中で、最も高い石垣は、台所郭(だいどころくるわ)石垣の14mです。

安土城、伝前田邸石垣
伝前田邸前面の段積みの石垣。石材は、比較的小型ですが、3m程の高さの石垣を2段で積み上げています

長さを見てみましょう。最も長い石垣は、馬場平(ばばだいら)の北側の約33間(約60m)で、全体の約半分が三~四間(5.4~7.2m)の石垣です。

石垣の角度も確認しておきましょう。勾配(こうばい)(水平面に対する傾きの度合いのことです)は、(そ)の見られない直線的な勾配で、90度から45度以下までと非常(ひじょう)にバラエティが見られますが、全体の約70%が70度程(ほど)以上のかなりの急な勾配となっています。

安土城、伝羽柴邸石垣
伝羽柴邸南面の石垣。様々な高さや角度の石垣で構成されています。隅角部は、算木積を目指しています。出隅、入隅を取り合わせて曲輪を構成しています

石垣の隅角の造り方と積み方、石材

城壁(じょうへき)が折れ曲がる石垣の隅角部(すみかどぶ・ぐうかくぶ)は、崩(くず)れやすくなるため、最も丁寧(ていねい)に築く必要があります。安土城では、石垣が他の石垣と接(せっ)して繋(つな)ぎ合う時、外側に凸状(とつじょう)に出っ張(ぱ)った「出隅(ですみ)」にしたり、反対に内側に凹(へこ)む「入隅(いりすみ)」にしたり、あるいは地山(ぢやま)(自然のままの地盤のことです)や石垣などへすり付かせる(そのまま上手く接続(せつぞく)させる)ことが行われています。全体の約25%と最も多いのが、片(かた)側が出角で反対側の角が地山等へすり付く形です。

横長の石材を短辺と長辺を交互(こうご)に組み上げていく算木積(さんぎづみ)は、ほぼ初めて積むことになりますので、試しにやったという程度(ていど)です。算木積のような隅を持つ石垣の多くは、天主や御殿のある主要部と旧摠見寺(そうけんじ)周辺の石垣に集まってはいますが、城のあちこちに散らばって見ることができます。石垣の隅角が直角ではなく、直角より大きい鈍(どん)角となるしのぎ積みは、主郭(しゅかく)部の外周りに多く見られます。

安土城、石垣
二の丸南西隅と西面の石垣。自然石や粗割された石材を積み上げた石垣で、主要部に近づくほど、大きな石が目立つようになります

石垣の積み方は、全体の90%以上が自然のままの石を積み上げた、いわゆる野面積(のづらづみ)です。石材と石材の間に出来た隙間(すきま)を埋(う)める間詰(まづめ)は、小さい自然のままの石を利用し、思った以上に丁寧に詰(つ)めています。石の材質の90%以上が湖東流紋岩(ことうりゅうもんがん)(滋賀県の湖東地域のどこでもある特有の石です)で、さらにそのほとんどが安土山で採(と)ることができる石材を使っています。

『信長公記』には「安土山の大きな石を使って、石垣を築き始めた」、「観音寺(かんのんじ)山・長命寺(ちょうめいじ)山・長光寺(ちょうこうじ)山(近江八幡市)・伊庭山(いばさん)(東近江市)など、あちこちの大きな石を引き下ろして、これを千人とか二千人、あるいは三千人がかりで安土山に引き上げた」と記録されています。主要な門や通路の見えやすい場所に、見せるための巨大(きょだい)な石を配置しています。また、五輪塔(ごりんとう)(供養塔(くようとう)・墓として使われる塔の一種です)宝篋印塔(ほうきょういんとう)(墓塔(ぼとう)・供養塔などに使われる仏塔(ぶっとう)の一種で、塔の中に宝篋印陀羅尼経(ほうきょういんだらにきょう)を納めることから出たといわれています)などと云(い)う本来は違(ちが)う目的のために加工された石材だったものを、石垣の石材として使用しています。これは、石材が不足していたからでしょう。

安土城、伝黒鉄門跡石垣
伝黒鉄門跡の石垣。主要部の入口の門跡のため、正面・側面共に、極めて大きな石材を積み上げています。見せるための配置になっています。昭和35年(1960)~50年(1975)にかけて修復工事が実施されています

安土城の石垣はあまりにバリエーションが多く、特定の関係を持った石を積む集団が、品質(ひんしつ)・大きさ・形状(けいじょう)などについて定められた標準によって積んだとは思えません。各地に居(い)たいろいろな石工の集団が、品質・大きさ・形状などについて基準だけを守って積んだことによって、全体的なバランスとして見た場合、統一(とういつ)がとれているように見えるだけなのです。

今日ならったお城の用語

穴太積(あのうづみ)
野面積(のづらづみ)を指して昭和初期以降(いこう)に用いられるようになった正式の名称(めいしょう)ではありませんが、世間一般(いっぱん)に言い慣(なら)わされるようになった名称であり、穴太衆が手がけた野面積の石垣のことを言います。

※高石垣(たかいしがき)
高さが約5mを越(こ)える石垣のことを言います。

反り(そり)
石垣の面の角度を、扇(おうぎ)の開いた形に湾曲(わんきょく)させた石垣のことです。

※隅角部(すみかどぶ・ぐうかくぶ)
石垣が他の石垣と接して形成される角部(の壁面が折れ曲がっている部分)のことです。曲輪側に対して外側に折れている隅角を「出隅」(ですみ)と言い、内側に折れている隅角を「入隅」(いりすみ)と言います。

出隅(ですみ)
二つの石垣の壁が外向きに出あってできる角の部分(凸になっている角)のことです。

入隅(いりすみ)
二つの壁が内向きに入りあってできる角の部分(凹になっている角)のことです。

※算木積(さんぎづみ)
石垣の隅部で、長方形に加工した石材の長辺と短辺が、一段(だん)ごとに互(たが)い違いになるように組み合わせて積む積み方をいいます。天正(てんしょう)年間(1573~92)頃に始まりますが、積み方として完成したのは慶長(けいちょう)5年(1600)の関ヶ原合戦後のことです。

しのぎ積み(しのぎづみ)
石垣の隅角が直角ではなく、直角より大きい鈍角のものを呼びます。石垣が積まれ始めた頃は、直角に積む技術が発展(はってん)していなかったためこのような鈍角の石垣が多く見られます。

野面積(のづらづみ)
自然石をそのまま積み上げた石垣のことです。加工せずに自然石を積み上げただけなので石の形や大きさに統一性がなく、石同士がかみ合わず、隙間が空いてしまいます。そこで、その隙間に中型から小型の石材を詰めることもありました。

間詰(まづめ)
石材と石材の隙間を埋めるために詰められた石のことです。古い段階では、自然石を使っていましたが、割石(わりいし)や隙間に合わせて加工された石材が使われるようになっていきます。

※印は再掲です

次回は「安土城の石垣2」です。

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加藤理文(かとうまさふみ)先生
加藤理文先生
公益財団法人日本城郭協会理事
(こうえきざいだんほうじん にほんじょうかくきょうかい りじ)
毎年、小中学生が応募(おうぼ)する「城の自由研究コンテスト」(公益財団法人日本城郭協会、学研プラス共催)の審査(しんさ)委員長をつとめています。お城エキスポやシンポジウムなどで、わかりやすくお城の話をしたり、お城の案内をしたりしています。
普段(ふだん)は、静岡県の中学校の社会科の教員をしています。

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