PR 時代ミステリー小説『はぐれ鴉』舞台となる岡城の魅力とは 著者・赤神諒さんが語る

戦国大名・大友家の物語<大友サーガ>など、戦国時代の生身の人間ドラマを骨太に描く小説で注目を浴びる気鋭の小説家・赤神諒さん。2020年3月には、岡城(大分県竹田市)を舞台にした時代ミステリー小説『はぐれ鴉(がらす)』の連載が、『小説すばる』(集英社)で始まりました。今回は、新連載『はぐれ鴉』への想いや、舞台となる岡城や城下町の魅力、小説家目線でのお城めぐりなどについてうかがいました。

赤神諒
小説家・赤神諒さん。デビュー作をはじめ、九州の戦国大名・大友家の物語を書き続けている。2019年に大分県竹田市の文化大使に任命。2020年3月から竹田を舞台とした『はぐれ鴉』の連載が「小説すばる」でスタート。撮影/藤澤由加

幼少期に親しんだ“悲劇”の感性で、豊後の大名・大友家に光を当てる

赤神諒さんは、戦国大名・大友氏に起こった政変「二階崩れの変」を、時の当主・大友義鑑の腹心、吉弘兄弟を通して描いた『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社)でデビュー。以降、『大友の聖将』(角川春樹事務所)、『大友落月記』(日本経済新聞出版社)、『戦神』(角川春樹事務所)、『妙麟』(光文社)など大友家の物語<大友サーガ>を書き続けています。弁護士、大学教授として活躍されているなかで、小説家としてデビューされました。

──弁護士であり、大学教授であり、小説家というユニークな経歴をお持ちですが、小説家を志したきっかけ、影響を受けた作家や作品を教えてください。

赤神:祖父が英文学者だったので、家には本がたくさんありました。学生時代に読んだ全集は、家にあった世界文学全集、シェイクスピア、チェーホフとドストエフスキー、シャーロック・ホームズなどでしょうか。歴史物は司馬遼太郎を半分強、三国志演義などを中心に読んでおりました。中でも悲劇が好きでしたね。

──『大友二階崩れ』でデビューされ、その後も大友家の物語(大友サーガ)を書き続けていますが、大友家のどんな点に魅力を感じたのですか?

赤神:有名な事件や人物を選ぶと、先行作品や研究を網羅するだけで膨大な時間がかかる上に、先行作品を何らかの意味で超えるものが要求されます。他方、マイナーな事件や人物を題材にすれば、読者も詳しく知らない話で、史実の空白も多いので、面白く作れば、どうなるか分からないワクワク感を持ってもらえるのではと思いました。 そこで、大友氏の家臣だった高橋紹運(たかはしじょううん)を主人公にした話を書いて、松本清張賞の最終候補に残ったのが『猛き名をとどめん』でした。作品の中で大友二階崩れ(※1)に少しだけふれており、この題材をもっと膨らませたいと思ったのが執筆のきっかけです。

(※1)天文19年(1550)に勃発した豊後の戦国大名・大友家のお家騒動。父・大友義鑑(よしあき)と子・大友義鎮(後の大友宗麟)の襲撃が居館(大友館)の二階で行われたことに由来し、「二階崩れの変(にかいくずれのへん)」と呼ばれる。

──大友家の中で気になる人物は誰ですか?

赤神:『戦神(いくさがみ)』で主人公とした、立花道雪(たちばなどうせつ)(※2)ですね。現代日本には、私も含めて軟弱な男が多いですが、圧倒的な強さと強烈な「父性」を持つ男でありながら、実は情に篤いキャラクターとして描いています。しかも彼は下半身不随になりながら、最前線で死ぬまで戦い続けました。稀有の武将だと思います。

ちなみに、『戦神』の最終盤で、ヒロインのお墓を津賀牟礼城跡(大分県竹田市)に立てて弔うラストにしたんですが、実は物語にカタシスを与えるために想像で書いたものでした。ところが、出版社に原稿を送った後に、城郭研究者の方からその場所に本当にお墓があることを教えてもらいました。その後、竹田市の皆さんと津賀牟礼城跡を訪れる機会があり、行ってみるとなんと本当にヒロインのお墓だったという、驚くべき体験をしました。事前によく調べれば、わかった話ではありますが(笑)。

津賀牟礼城跡
『戦神』の舞台となった津賀牟礼城跡で、姫墓や井戸跡、堀切などを見て回った赤神さん(画像提供:竹田市)

(※2)戸次鑑連(べっきあきつら)ともよばれる。大友家の重臣で、連戦連勝で「鬼」と呼ばれた猛将。体が不自由になっても輿(こし)に担がれて出陣し、主君である大友義鎮(宗麟)に諫言(かんげん)したとされる人物。

岡城を舞台にした歴史ミステリー小説『はぐれ鴉』の連載がスタート

大友家の物語以外にも、多彩なジャンルで執筆されている赤神さん。2020年2月から日本経済新聞にて、スペイン内戦をテーマにした連載小説『太陽の門』がスタート。そして『小説すばる』2020年4月号から、江戸時代の岡藩を舞台にした『はぐれ鴉』の連載が始まります。今回、岡城や城下町が小説の舞台として描かれるだけではなく、小説と地元方とのコラボなど、新しい試みも企画されています。

岡城大手門跡
岡藩士が行き交った、江戸時代と変わらない姿を残す岡城大手門跡

──3月から連載が始まった『はぐれ鴉』は、江戸時代の岡藩を舞台にしているそうですが、どういった物語なのでしょうか?

赤神:岡藩があった竹田市は、岡城はもちろんですが、城下町や長湯温泉、くじゅう高原、市内に点在するキリシタン遺物などが印象的です。『はぐれ鴉』は、江戸時代の岡藩の史実をモチーフに描いて、歴史小説のテイストを加えた時代ミステリー小説です。「エンタメ小説」としての完成度を目指しているので、あまりテーマ性は表には出しませんが、本当の意味での「縁の下の舞(※3)」を描きたいと思っています。我々はふだん無自覚ですけれども、今ある平穏なり幸せなりが、実は誰にも知られていない無名の人の努力や犠牲によって初めて支えられているのだ、というテーマを込めるつもりです。

(※3)① 昔、陰暦2月22日に大坂の天王寺で聖徳太子聖霊会(しょうりょうえ)に行われた舞楽。舞台の下で舞った。
     ② 〔① が舞台に上がらず人に見えないところで舞われることから〕 だれも見てくれないところで苦労すること。
   『大辞林 第3版』(三省堂)より引用
    *聖霊会は、聖徳太子の遺徳をたたえ供養する最も重要な法要    

長湯温泉
炭酸泉で知られる長湯温泉のある直入町。竹田市では歴史小説に出てきそうな原風景に巡り合える

赤神:岡藩がモデルの竹田藩は、一見平和で平穏に見えますし、物語でもそのように描いています。深刻な危機が誰も知らないままに回避されたような場合、実際には目に見える形で問題が起こっていませんが、それは誰も知らないところで、誰かが血と涙を流した結果として、維持されたのかも知れない。現代でも華々しく表で活躍している人ではなくて、テレビにも新聞にも出ないけれども、実は裏方でものすごい努力をされていて、多大な自己犠牲を払いながら、この社会を支えている人たちがいるはずです。物語の終盤で一挙に謎が解けて、はぐれ鴉がまさしくそういう一人であったのだと最後に伝わればと思っています。

また、タイトルに「鴉」を使っているように「鳥」のイメージにこだわっていて、生きている鳥はもちろんのこと、実在する石像などさまざまな鳥のモチーフを盛り込んでいます。そのあたりにも注目して読んでいただけると、さらに面白いと思います。

──岡城を初めて訪れたのは数年前とのことですが、最初に行った時は、どういう感想を持たれましたか?

赤神:正直に言って、甘く見ていました。これほど見事な城だとは思いませんでした。石垣がすごい城はほかにもたくさんありますが、岡城の石垣は高さのせいもあって「怖いぐらい」の迫力がありますね。

母の親孝行を兼ねて二人で取材旅行に行く事が少なからずあるのですが、母は足が悪いので、山城は私だけが行くことになります。岡城に最初に訪れた時は、『戦神』の取材の後だったので、16時頃に岡城に着いて「30分ほどで戻る」と言い残して、携帯も持たずに軽装で上がったんですね。ところがあまりに見事で、駆け足でも(※4)30分ではとても足りません。閉城ギリギリの17時まで見てから戻ったら、母が私のことを「どこかで倒れているんじゃないか」と心配して、受付の人に相談しているくらいでした。

小説で舞台にしているから申し上げるわけではないのですが、日本のお城で一つだけ挙げるとして、岡城という選択をすることは十分にあると思いますし、実はこの小説を書く前にもそのように言っていました。

(※4)山登りが好きだという赤神さんは、岡城を本当に「駆け足」で巡ったそう

岡城
夕暮れ時に一望する城下町と阿蘇山。健脚自慢の赤神さんも、岡城のスケールには驚いたという


──竹田で印象的な場所や、おすすめの景色を教えてください。

赤神:岡城は言うまでもないとして、有名すぎない場所で行きやすい所を挙げるなら、豊後竹田駅の裏手にある「下木石仏(したぎせきぶつ)」のあたりから眺める竹田が好きですね。少し遠くなりますが「上坂田(かみさかた)の磨崖仏(まがいぶつ)」もいいです。

竹田、下木石仏
JR豊後竹田駅裏の岸壁に彫られている「下木石仏」

竹田、上坂田の摩崖仏
城下町竹田郊外ののどかな田園地帯にひっそりとたたずむ「上坂田の摩崖仏」

──『はぐれ鴉』を通して地元の方とのコラボ企画なども動いているそうですが、どんな企画なのでしょうか?

赤神:アニメで聖地巡礼などいろいろなイベントをやっていますよね。以前から、その小説版のような「小説を使った町おこし」をできないかと思っていました。『はぐれ鴉』には竹田に現存するミステリアスな遺物などをたくさん登場させています。実物を知っていると「ああ、あれか」とより面白く読むことができるので、実際に竹田を訪れていただけるような企画にしたいですね。

また、せっかく連載をするので、読者に色々なアイデアを出してもらったりして、小説を作るという作業に参加いただくのはどうかと頭をひねっています。竹田市さんと協力しながら、いろいろと企画や仕掛けを考えているところですので、楽しみにしていてください(※5)

(※5)『はぐれ鴉』の挿絵や題字に、竹田市民の作品が採用されることが決定した。

竹田市、鳥の石像
鳥をかたどった石像など、ミステリアスな遺物が竹田市には多数残っている。写真右の一つ目鳥は赤神さんのお気に入り(画像提供:竹田市・後藤篤美)

作品のテーマ曲を決め、“面白さ”を追求し続ける

赤神さんは歴史小説を書くにあたって、作品のエンターテインメントとしての完成度を重視されています。またその創作活動には、音楽は欠かせないものとし、作品ごとにテーマ曲を決めているそうです。

──歴史小説の創作にあたって、史実と創作のバランスをどのように取っていますか? また、史実からどのようにフィクションのイマジネーションを膨らませているのでしょうか?

赤神:私はエンタメ小説を書いているので、歴史小説も面白くてナンボだと思っています。いくら正確でも、つまらなくなったり、読者がわからなくなったりしたら本末転倒ですから。小説を建物にたとえて、例えば「二階建てを建ててほしい」というオーダーがあったとします。史実ではこじんまりした戸建だったかも知れないのですが、私が妄想を膨らませた結果、二階建ての大御殿のようになり「二階建てとは言ったけど、ここまでデカイものを建てるとは…」という小説もあるはず。 平均すれば史実1:創作9のバランスかと思います。

発想法は小説教室などでもコツなど話ししていますが、一言ではとても言えません。一つだけ言えば、ひたすら24時間考え抜くということです。

城下町竹田
下木石仏から見渡す城下町竹田。赤神さんの目にはどのように映ったのだろうか

──小説を書くとき、1曲以上テーマ曲を決めているそうですが、テーマ曲はアイデアの段階で決められたりしているのでしょうか?

はい。構想段階から決めていないといけません。1000曲以上のプールの中から曲の雰囲気で選ぶやり方をしています。基本的には作品ごとに合計10~20曲ぐらい選んで、前奏曲や間奏曲のように順番を並べ、組曲として聴いたり、特定の曲ばかり聴いたりしています。もちろん、執筆に集中しているときは聴こえていませんよ(笑)。ちなみに一度使ったテーマ曲はその小説のイメージが付いてしまうので、その後の作品で再び使うことはありません。

一度テーマ曲の在庫を切らしたことがありまして、いろんな人に好きな曲を聞いて回っていたのですが、その曲を私がいいと思うとも限らなかったので、不愉快な気持ちをさせてしまったかも知れません。ですので、今はテーマ曲候補を常に探し続けてストックしています。

──『はぐれ鴉』のテーマ曲を教えてください。

葉加瀬太郎さんの「History of the future」です。元々はニュース番組か何かのテーマ曲だったそうですが、恐れ多くも勝手に使わせて頂いています。もう一つ、欲張りですが、宮本笑里さんの「Marina Grande」も締めくくりのテーマ曲になります。この2曲がなければ、とても執筆できなかったと思います。

山歩きで鍛錬した健脚で、時にはスーツ姿で山城を取材する

小説家になる前は、お城は観光スポットの一つでしか訪れたことがなかったという赤神さん。現在は、マニアしか行かないようなマイナーなお城を探索することのほうが多いそうです。

津賀牟礼城
『戦神』のラストシーンの舞台、津賀牟礼城に登城した赤神さんと竹田市の人々(画像提供:竹田市)

──戦国時代を描く上で城への取材は欠かせないと思いますが、実際にどのくらいの頻度で城をめぐっていますか?

赤神:私はメリハリをつけるタイプなので、城に行くときは行くし、書くときは書きます。よって、一度にまとめて10か所とか行くわけですが、そう考えると年間数十か所かな。取材ではよくレンタカーを利用するのですが、カーナビにも出てこない城跡や居館跡ばかり行っています。もともと山が好きで2000~3000m級の山を登ってきましたので、山城は山とは思っていません。講演後であれば、スーツ姿で山城に登っていますよ。

──お城はお好きでしょうか? お城がお好きでしたら、好きなポイント(石垣、眺望、天守など)を教えてください。

赤神:城は好きです。私がよく行くのはマイナーな城ばかりで眺望が得られないことも多いですが、もともと山歩きをやっていたので、城からの眺望は好きですね。当時から残っているのは石垣だけという城も少なくありませんが、そういう意味で思い入れがあります。あとやはりその城の周辺の地形とか、城の見え方とかも大事ですね。

大手門跡、岡城
岡城の大手門跡から日向方面を望む。雨に濡れた「黒い」石垣は、普段とは違った岡城の表情を見せてくれる

──取材などで城をめぐる際に、意識する視点やルーティンはありますか?

赤神:小説でどのように使うかを決めている場合は、描写内容や具体的な構想が本当に成り立つかどうか、ディテールを確認しに行きます。そこまでまだ決めていない場合は、何か小説に使えそうな特徴や事物がないか、情景描写に使えそうな五感を刺激する何かがないか、全身をアンテナにして探しています。花や動植物の描写も時どき必要なので、季節ごとの鳥の鳴き声や花の香りも意識す要素です

ルーティンとしては、地形や距離のほか「どこで何が見えるか」を確認しています。例えば関東であれば、そこから富士山が見えるのか見えないのか、またその城はどこから見えるのかなどですね。人間にとって視覚はきわめて重要な情報ですから。

岡城
稲葉(いなば)川を天然の堀とし、岩山を要塞化した独特な構造をした岡城の描写が楽しみだ

──今後テーマにしてみたいお城はありますか?

赤神:いっぱいあります。今後の予定は秘密なのですが、4月に出すものとして立花山城(福岡県)があります。大友家と毛利家との間で何度も争った筑前の要衝なのですが、1568年にこの城で「立花鑑載(あきとし)の乱」という知る人ぞ知る大きな反乱が起こりました。立花山城と城下町で展開される、笑いあり涙ありの青春群像劇を描きました。 

──仕事以外で、気になっている城はありますか?

赤神:だいたい仕事に関係してしまうので絞られますが、ヨーロッパの城でしょうか。日本の城とは違って、城が街を囲んでいるわけですよね。 今連載している『太陽の門』の舞台も元々は城壁にあったわけですが、ヨーロッパの中世を書いても小説として売りにくいと思いますので、残念ながら当面は仕事とは関係ないかなと思いますが。 ほかで最近気になる城といえば名古屋城でしょうか。木造復元計画をめぐって議論があり、文化財保護の面から色々考えさせられます。

赤神諒
小説への想いや、新作『はぐれ鴉』への意気込みを語ってくださった赤神さん(城びと編集部撮影)

知られざるお城をたくさん攻城されている赤神さん。その土地の立地を分析し、取材先では情景を鋭く観察、五感を研ぎ澄ませて執筆に向かうスタイルは、さながら戦に臨む名将のよう。待望の新作、時代ミステリー小説『はぐれ鴉』は、すでに書きあがっているものを、現在はブラッシュアップしてますます面白くしているとのこと。現在発売中の『小説すばる』4月号から連載開始です!

赤神 諒(あかがみ りょう)
1972年京都市生まれ。同志社大学文学部英文学科を経て、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、UCバークレー校ロースクール卒、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。2017年『大友二階崩れ』(受賞時タイトル『義と愛と』)で、第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。2019年、『酔象の流儀 朝倉盛衰記』が第25回中山義秀文学賞候補、第1回日本歴史時代小説作家協会作品賞候補。2019年から竹田市文化大使。
2020年2月から日本経済新聞で「太陽の門」の連載開始。同年3月から「小説すばる」(集英社)で、竹田市を舞台にした『はぐれ鴉』の連載開始。


小説すばる4月号書影

 『はぐれ鴉』は、小説すばる4月号から連載開始!

 出版社:集英社
 


▶岡城や竹田城下町のことをもっと知るなら
2020年3月リニューアル!
岡城跡公式サイト https://okajou.jp/

執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影・ガイド。『JCB THE PREMIUM』(JTBパブリッシング)や『サライ.jp』(小学館)など。岡城(大分県竹田市)で修業後、各地を転戦している。

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