マイお城Life 漫画家・黒川清作さん[前編]「城が好き!」という想いから始動したビッグプロジェクト

泰平の象徴として築かれたものの、大火によって失われた江戸城天守を再建するビッグプロジェクトが始動−−! 2019年6月からビッグコミック(小学館)で連載が開始、11月から第2部がスタートした『江戸城再建』。その作者・黒川清作さんの特別インタビューをお届けします! 前編では、連載がうまれたきっかけや城を描く上での苦労などを、黒川さんと担当編集者の夏目さんにうかがいます。



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『江戸城再建』第1話で江戸城天守の再建に懸ける熱意を語る主人公・堀川。普段は冷静な堀川がアツく語る「城が好き」という言葉には、作者・黒川さんの城への想いが代弁されている

小さい頃に遊んだ館山城が城の原点です

近年、「城ブーム」の影響もあり、全国で城郭建築の復元・再建をめぐる議論が活発化している。2019年6月に連載がはじまった『江戸城再建』(ビッグコミック/小学館)も、明暦の大火で失われた江戸城天守を現代によみがえらせようという、城の再建を取り扱ったマンガだ。

黒川清作
作者の黒川清作さん。大御所がひしめく『ビッグコミック』で、初回巻頭カラーを飾った期待の新星だ

『江戸城再建』の主人公・堀川は、前代未聞のプロジェクト「江戸城天守再建」に挑むデベロッパー。彼を天守再建に突き動かすのは「城が好き」というアツい想い。堀川の「城好き」の一面は、作者の黒川さんや担当編集者の夏目さんが、歴史好き・城好きであることに由来するという。歴史や城への想いはいつ頃培われたものなのか、お二人にうかがってみた。

(黒川)僕は千葉県館山の出身で近所に館山城があったため、小さいころから城は身近な存在でした。小学校のすぐ上が館山城だったので、よく帰りに寄り道して城跡で遊んだりしていましたね。その頃、館山城に天守が再建され「カッコいいなあ」と感動したことを覚えています。その後しばらくはあまり歴史や城とは縁がなかったのですが、十年ほど前から時代物や歴史物のマンガを読むようになり、歴史や城の魅力にとりつかれました。『江戸城再建』の連載開始前に何本か短編マンガを発表していますが、その題材も歴史物でした。

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黒川さんにとって城の原点である館山城。天守は1982年に再建されたもので、外観は丸岡城を模している

編集の夏目さんとは連載以前から一緒にお仕事をしていたのですが、彼も歴史好きでよく歴史や城の話に花を咲かせていました。『江戸城再建』連載も、そのご縁でお話をいただいたんです。

(夏目)僕は愛知県豊川市出身で、隣の市には岡崎城などがあり、黒川さん同様幼い頃から城を身近に感じていました。城めぐりにもよく出かけていて、「日本100名城」に選ばれた城はほとんど訪れていると思います。『江戸城再建』は僕が長年温めていた企画だったのですが、黒川さんと歴史の話をする内に、「この人に描いて欲しい!」という想いが募り、企画のお話をさせていただきました。

日々、城の描き方を研究しています

『江戸城再建』は、天守の再建をめぐるリアルな人間ドラマと城の細かな描写が見事にシンクロしている点が印象的だ。ここまで緻密でリアルな絵を描くにはアシスタントが何人いても足りなさそうなものだが、なんと黒川さんは人物から背景まで一人で描いているという。城を描くのにどのような苦労があるのだろうか。

(黒川)『江戸城再建』連載前に、時代物でもアクション系のマンガを描いていたこともあり、人物を描くのは得意な方だと思います。普段は人物だけなら1コマ5分、2日ほどで1話分を書き上げてしまいます。逆に建物は時間がかかりますね。建物は定規で丁寧に線を引きながら描いているので、1コマあたり1時間くらいかかります。第2話で江戸城の天守台を描きましたが、このコマはとても大変でした。写真を参考にしながら描いて…、確かこのコマだけで3時間はかかったはずです。

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第2話に登場する江戸城天守台。法面の石の形は簡略化されているが、隅部など重要な石材は忠実に再現されている

マンガ家を目指す場合、有名マンガ家のアシスタントをしたり専門学校に通ったりする人が多いですが、僕は独学でマンガの練習をしていました。マンガ家になる前はインテリアのアドバイザーをしていて、図面を利用することもありました。建物の描写にはその頃の経験が役立っているなと感じています。ただ、インテリアと城は違いますから、まだまだ手探りですね。どうすれば迫力のある城が描けるのか、日々研究しています。城はパーツの大きさが少し違うだけで印象がまったく違ってしまうので、奥深いですよね。

前職の経験は、キャラクターづくりにも活かされています。デベロッパーや工務店などと仕事をする機会が多く、その時に知り合った人たちの言動が登場人物にリアリティを持たせる上で、とても役に立ちました。

また、建築に関わる法律などの知識を身につけられたのも前職のおかげです。江戸時代なら将軍の「天守を建てよ」という一言で天守が建てられますが、現代は「建築基準法」や「都市景観法」などのルールに則らなければいけないので、物語にリアリティを出す上で専門知識は欠かせません。連載開始前には、千代田区役所の建築指導課で建築に関わる法律について取材をしたこともありました。

黒川清作、手書き
特別に『江戸城再建』の原画を見せていただいた。黒川さんの原稿は手描き。人物はもちろん、建物や背景まですべて1人で描いているのだ

誰も見たことがない天守を描いてみたい

『江戸城再建』には、江戸城以外にも多数の城が登場する。第1話〜3話では熊本城、豊臣期大坂城、姫路城、大洲城…などが出演したが、今後はどのような城が登場するのだろうか。黒川さんに、今後描いてみたい城についてうかがってみた。

(黒川)僕は、誰も見たことないモノを見せられるのがマンガの魅力だと思うので、失われた天守はぜひ描いてみたいですね。喪失した天守は、不明な部分を描き手の想像力で補うことができる。そこに僕はロマンを感じます。その点では、江戸城はとても描いていて楽しいです。江戸城以外だと安土城(滋賀県)。八角堂が載っていたり、階層ごとに色が異なっていたり、現存している天守とは全く異なる外観が資料に記載されていて、とても興味深いです。安土城は絵画資料がほとんどないので、想像できる幅が広いことも創作意欲をかき立てますね。

安土城天主台
安土城天主台。さまざまな研究者が復元案を発表している安土城だが、黒川さんはこの天主台の上にどのような天主を描くのだろうか

創刊50年の伝統を誇る『ビッグコミック』の次代を期待される黒川さん。まだまだお話を聞きたいところだが、今回はここまで。後編では、『江戸城再建』の重要なテーマである、城の復元・再建についてうかがっていこう。


黒川清作
1981年生まれ、千葉県館山市出身。「ビッグコミック&オリジナル合同新作賞」で入選受賞後、「ビッグコミック増刊号」(小学館)にて読み切りの掲載を経て、2019年6月より「ビッグコミック」にて連載デビュー作となる『江戸城再建』の連載を開始。単行本第1集は2019年12月12日頃発売。


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執筆・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・小関裕香子)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。

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