名城を支えるボランティア〜滝山城の下草刈りボランティア体験記〜

滝山城の「下草刈り」に参加

雲ひとつない快晴となった4月22日(日)。朝9時30分だというのに、長袖を着ているとうっすら汗ばんでくる陽気の中、まだ訪城者が少ない滝山城の小宮曲輪前に20名ほどが集まりました。これはいったい何の集まりなのでしょうか。城にいるのだから城めぐりのグループ? いいえ、彼らはこれからはじまる、滝山城の整備活動のために集まった人々なのです。

活動を主催するのは「滝山城跡群・自然と歴史を守る会」(以下、「守る会」)。「守る会」は、滝山城の環境保全や広報活動を目的として立ち上げられたNPO法人で、定例活動として毎月第3日曜日(雨天の場合は翌週に順延)に滝山城整備活動「下草刈り」を行っています。今回はこの「下草刈り」に、城びと編集部が参加!どのような作業が行われるのか、体験した様子をレポートします。

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滝山城に集まる「守る会」会員とボランティアたち

この日は「守る会」メンバー16名とボランティアが5名の計21名での作業となりました。ボランティアの一人、大学生の永見さんはなんと!「城びと」の特集記事「名城を支えるボランティア〜滝山城がよみがえるまで〜」を見て参加を決めたのだそうです。

まずは「守る会」理事長の尾熊治郎さんからあいさつがあり、本日の作業場所や作業内容の確認がありました。「下草刈り」には草刈りだけでなく、木や竹の伐採など危険な作業も含まれているので、事前説明はしっかり聞いておかないといけません。作業内容を確認した後は、準備体操。しっかり体をほぐしておかないと思わぬ怪我をすることもあるので、準備体操は入念に行います。

安全第一!間伐作業では声かけが大切

事前説明と準備体操を終え、いよいよ作業に入ります。

この日行われたのは、小宮曲輪の横堀内に群生している竹の間伐でした。小宮曲輪をめぐる堀の中は竹林になっており、堀の斜面だけでなく堀底まで竹に覆われています。この竹を間引いて、訪城者が快適に遺構を観察できるようにするのが今回の作業の目的。小宮曲輪は「守る会」が毎年のように伐採作業を行っている場所ですが、竹は成長が早いため定期的なメンテナンスが必要になるのです。

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今回、作業を行ったのは小宮曲輪西側を走る横堀の一部(縄張図=中田正光作図)

作業はベテランである「守る会」のメンバーが鉈やチェーンソーで竹を伐り、ボランティアが伐った竹や堀の中に落ちている枝などを片付けていくという流れで進みました。この間伐作業、一見適当に竹を伐っているように見えますが、きちんと遺構を守ることを考えながら伐る竹を選んでいます。この日の作業では、主に枯れてしまった竹や密集していて堀の景観を損ねてしまう竹を間引きました。生えている竹を伐りすぎると、土塁や堀の中に張られていた竹の根がなくなってしまい、降雨などで遺構が崩れてしまうことがあるので、間引く竹は皆で話し合いながら慎重に選びます。

竹は中が空洞なので一見軽そうですが、大きく成長した竹はかなり重く、倒れてくるスピードも速い! 倒れてきた竹に直撃したら一大事です。そのため、参加者は必ずヘルメットを着用し、伐った竹が倒れる時には、周囲に声をかけたり、笛で合図するなど注意を促さなければいけません(ヘルメットは「守る会」から貸し出されます)。この日も「倒れるよー!」、「そこ危ないよ−!」などの声がひっきりなしに飛んでいました。

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竹が倒れる様子。重い上によくしなる竹は、想像以上の勢いで倒れてくる

倒された竹は剪定ばさみなどで枝を切り落とされ、堀の端につくられた集積場所にボランティアたちが積み上げていきます。片付け作業は一見簡単な作業ですが、長く重い竹を運ぶのは見た目よりも重労働。二人がかり、時には三人がかりで運びます。

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集積場所は竹や枝が散らばらないように杭を打って区画分けされている。綺麗に積み重ねることも重要

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この日の最高齢参加者は、「守る会」会員の原田さん(91歳)。手慣れた手つきで竹を伐っていく

途中1回の休憩時間をはさんで作業は終了。作業前にはあちこちに散乱していた竹や木の枝がスッキリと片付き、堀の中はすっかりきれいになりました。

この日は「守る会」の理事で、長年滝山城の研究をしている中田正光先生もいらしていたので、作業終了後、実際の遺構を見ながら、滝山城の堀や歴史についてお話をうかがうことができました。こうした城講座を聞く機会があるのも、滝山城ボランティアの魅力の一つです。

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中田先生による滝山城講座。自分たちで整備した遺構を見ながら、滝山の歴史をうかがう

中田先生によると、滝山城など関東の城は城主が持つ兵力に見合わないほど曲輪などの規模が大きい城が多いのだとか。これは、合戦が始まった際に城が領民の避難場所になっていたからだ、と先生は考えているそうです。

城を守るための苦労とは…?

下草刈りや伐採などの整備活動といえば、行政が行うものというイメージがあります。なぜ「守る会」が滝山城の整備をすることになったのか、尾熊さんと中田先生にその理由をうかがいました。

滝山城跡は現在、都立公園になっていますが、すべてが都の土地というわけではなく、城跡の中に私有地や市有地が混在するなど権利関係が非常に入り組んでいます。そのため、十年ほど前まで城跡の整備はお世辞にも進んでいるとは言い難い状態だったそうです。

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昨年、作業が行われた本丸の出丸周辺は、すでに草がのびはじめている。下草を放置してしまうとすぐに遺構を覆ってしまうため、定期的な草刈りが重要だ

「僕は小学校の教員をしながら城の研究をしていて、1970年前半頃に滝山城に惹かれて一番近い学校に赴任しました。日曜日になると生徒たちを連れて滝山城めぐりをしていたんですが、30年前頃の滝山城は、都が持っている土地以外整備が全くされていなくて草がのび放題。これはどうにかしなければいけないと思っていた時に紹介されたのが、滝山城の整備活動をはじめたばかりの「守る会」でした」(中田先生)

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千畳敷跡。「守る会」の「下草刈り」はこの千畳敷からはじまったそうだ

元々は「郷土を知る会」として2006年頃から活動していた「守る会」。尾熊さんたちは、地域の歴史や自然について啓蒙する活動をしていくなかで滝山城の環境保全の重要性を感じ、NPO法人「滝山城跡群・自然と歴史を守る会」を立ち上げました。しかし、権利関係が入り組んだ滝山城での整備活動は想像以上の苦難の道だったといいます。

「「守る会」は都が整備できない私有地の草刈りを行っているのですが、地権者の理解を得るのは大変です。それこそ、活動をはじめたばかりの頃は、滝山に城があることを知らない人の方が多かったので、「あんなところ本当に城だったの?」とか「何の建物も残ってないんだから整備したって人は来ないよ」など懐疑的な声が多かったです。最近は、整備が進み訪城者が増えたため、地権者も私たちの活動に協力してくれる方が多くなりました」(尾熊さん)

土地の権利以外にも、「下草刈り」では滝山の動植物を守る自然保護団体との協調が欠かせません。滝山城内には貴重な植物が繁殖しているため、それらの植物を誤って刈ってしまわないように事前に自然保護団体に連絡をして、刈ってはいけない植物をテープで囲んでもらうなどの対策をしてもらうそうです。

 初めてのボランティア活動もこれを守れば大丈夫!

こうした地道な活動が実を結び、今や滝山城は城ファンなら誰でも知っているまでの城に成長しました。しかし、「守る会」の会員は多くが年配の方。人手不足と後継者の育成が緊急の課題となっています。現在はボランティアを含めて、毎回20名程度で定例活動を行っていますが、1日で整備できる遺構の範囲は十数メートルといったところ。上記の縄張図を見てもらっても、ほんの一部であることがわかります。

「伐った木や落ちている枝を片付けてくれる人が増えるだけで、1日に作業できる範囲は格段に広がります。はじめてだと不安なことも多いかも知れませんが、難しい作業ではないので滝山城に興味がある人はぜひ参加してもらいたいです」(尾熊さん)

ボランティアに参加する場合は、必ず汚れてもよく動きやすい長袖・長ズボンで行きましょう。切り倒された竹や木の枝は、切り口が鋭くなっていることも多いので、軍手も必須です。これから、夏に向けて気温もドンドンあがっていきます。飲物は多めに持っていき、水分補給はしっかり行いましょう。また、遺構の中は長年かけて積もった落ち葉により足場が不安定になっている場合があるので、トレッキングシューズなどを履いていくと安心して作業ができます。

竹運びの作業は普段の運動不足もたたってかかなり体力を消耗しましたが、きれいになった横堀を見るとそんな疲れもふっ飛び充実感がわきます。城めぐりとは違った城への関わり方として、城跡ボランティアの輪が広がっていくとよいですね。

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作業前の小宮曲輪の堀。堀底には枝や竹が散乱しているため歩きにくく、鬱蒼とした竹藪は枯竹が混じっていて景観を損ねている

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作業後の堀。落ちていた枝が片付けられて歩きやすくなり、竹が間引かれたことにより遺構も見やすくなった

執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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