【日本100名城・岡城】曲線のデザインや石垣群に魅了される全国屈指の山城

唱歌『荒城の月』で知られる作曲家・瀧廉太郎は、少年時代を竹田で過ごし、登城して印象深かった岡城(大分県竹田市)が歌のイメージになったといわれています。そして今もなお当時と変わらない石垣群が残り、阿蘇山やくじゅう連山などの大自然も一望することができます。岡城の代名詞である石垣群の美しさと迫力を堪能するだけでなく、曲線を多用したデザインも圧巻です。「曲線美」に注目して岡城の魅力をご紹介します。(※2019年4月22日初回公開)



ヨーロッパの古城を想わせる大手道の曲線美

岡城、大手道
石垣にも通路にも曲線が駆使された大手道

登城口から大手道に足を踏み入れようとすると、目前には波打つように積み上げられた石垣群。まるでヨーロッパの古城を思わせるような独特なデザインの城郭が広がっています。

クネクネと曲がりくねった「大手道」、さらに足元の石をよく見ると半円形に加工された「かまぼこ石」が手すりのようにずらりと並んでいます。大手道を登る途中に背後を振り返ってみると、曲線が駆使されたデザインが一目瞭然です。

カマボコ石
全国的に珍しい大手道の「カマボコ石」

ちなみに岡城は、世界最大級の旅行サイト「トリップアドバイザー」による「旅好きが選ぶ!日本の城 ランキング 2018」で5位に選ばれており、石垣やヨーロッパの古城のような雰囲気がコメントに挙げられています。

岡城、大手道
大手道途中から振り返ってみると、曲線的なデザインがよく分かる

曲線に魅了されながら大手道を登り切ると大手門に到達。ここにも岡城ならではのこだわりが見られます。石垣に注目すると3カ所の大きな凹型が確認できますが、これは横木を通していた珍しい構造。さらに石垣の後ろに回り込むと、アーチ状に石が積まれているのが確認できます。

大手門石垣
大手門石垣。上部の凹部分から横木を渡した珍しい構造

家老屋敷の「バルコニー型」曲線

中川但見屋敷跡
大手門付近に設けられた中川但見屋敷跡

大手門を抜けると、家老屋敷のひとつ「中川但見(なかがわたじみ)屋敷跡」の脇道に当たりますが、ここにもバルコニーのような曲線状に積まれた石垣が「見せつけるように」積まれています。このように、家臣団の屋敷群が設けられているのも岡城の特徴。現在の岡城は、文永3年(1594)に播磨(兵庫県)から移ってきた中川秀成(なかがわひでしげ)が総石垣の城へと改修。中川家は、明治維新までの約270年間もの間、岡城を居城として使い続けました。断崖絶壁の地で、近世大名と家臣が居住したのです。

圧倒的な石垣群に隠された曲線の石積み

三の丸高石垣
崖の上に築かれた三の丸高石垣

岡城のハイライトのひとつ、三の丸高石垣が見えてくるといよいよ岡城の中枢です。この高石垣は、防御的機能はもちろんのこと空間を広げる役割も果たしていました。岡城は巨大な岩上にあるため面積が限られています。そのため、面積を広げるために石垣を利用した工夫の跡が随所に見られます。

太鼓櫓の石垣
太鼓櫓の石垣。六角形に加工された石を中心に、円のように石が囲んでいる

三の丸入口に当たる「太鼓櫓(たいこやぐら)」の石垣は加工がされ形が整っています。六角形に加工された石を囲むように円形に石が組まれている箇所があり、ここでも曲線へのこだわりが伝わってきます。

二の丸、瀧廉太郎像
二の丸に立つ瀧廉太郎像。背後にはくじゅう連山が広がる

石垣群だけでなく眺望も爽快です。岡城は豊後(大分県)にありながら、肥後(熊本県)と日向(宮崎県)と接する要衝でした。そのため、かつては見張りが目的ではありましたが、現在でも熊本方面には阿蘇山やくじゅう連山、宮崎方面には祖母山(日本百名山)の美しい眺めが楽しめるのです。

曲線美を可能にした石垣の秘密は阿蘇山にあり!?

西の丸、阿蘇山、夕景
西の丸から眺めた阿蘇山の夕景

山奥の豊後竹田でなぜこのような石垣造りの山城が築かれたのでしょうか。約12万年前と約9万年前に起きた阿蘇山噴火。火砕流が冷え固まってできた岩が地盤や石垣に活用されています。この阿蘇溶結凝灰岩(あそようけつぎょうかいがん)と呼ばれる岩は加工に適しており、山城ではありながら大量の石垣を積み上げ、さらに曲線美を可能にしたのです。

断崖絶壁
阿蘇山の噴火が生み出した断崖絶壁を利用している

岡城は阿蘇山の恵みを生かしている一方で、地震や水害、火事などの影響を受けてきました。そのため、築城当時の石垣は現在は残っていないとされています。築城から約270年間、石垣の築造を続けてくる中で独自の技術が発達。前述した大手門の凹んだ高石垣や、大手道で見られるかまぼこ石も、その結果だと考えられています。

下原門
「下原(しもばる)門」の修復工事により最近見つかった、石垣がずれないようはめ込まれた横石。築城術の発達と関係はあるのか?

城下町竹田とキリシタン洞窟礼拝堂

岡城と同様、城下町竹田にも石を生かした建造物や史跡が多く残っています。代表的なものとして、城下町にたたずむキリシタン洞窟礼拝堂(大分県指定史跡)が挙げられます。

キリシタン洞窟礼拝堂
城下町の中で人工的に造られたキリシタン洞窟礼拝堂

阿蘇山噴火によって生み出された、阿蘇溶結凝灰岩を掘って造られた全国でも珍しい史跡。さらに驚くことに、キリシタン洞窟礼拝堂を守るかのように、家老たちの屋敷が並ぶ「殿町(とのまち)武家屋敷通り」が通っています。そのため、藩ぐるみでキリシタンを隠した城下町として注目されています。

岡城への起点は豊後竹田駅

豊後竹田駅
阿蘇溶結凝灰岩が背後にそびえる豊後竹田駅

岡城や城下町へはJR豊後竹田駅(豊肥本線)が起点となります。大分駅からJRで約1時間10分、熊本駅からバスで約3時間20分(バス停竹田温泉花水木下車、そこから豊後竹田駅まで徒歩5分)など、公共機関でアクセスできますし、城下町にはゲストハウスや旅館、ビジネスホテルもあるので滞在におすすめです。

岡城は朝日や夕陽も美しく、四季折々の草花も目を愉しませてくれます。陽の当たる向きや天候によって、石垣の表情が随分と異なります。そしてとにかく広大ですので、何度訪ねても新しい発見が待っていますよ。


住所:大分県竹田市大字竹田2889
電話:0974-63-1541(観覧料徴収所)
アクセス:JR豊肥本線「豊後竹田」駅から徒歩約20分(タクシー約5分 ※約2km)

▶あわせて読みたい!


執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。異業種とコラボした城を楽しむ体験プログラムを実施。旅行雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)などを編集。

※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています

関連書籍・商品など