ナワバリスト西股さんと行く! ビギナー女子の山城歩き STEP5【深大寺城の壱】東京の隠れた観光スポットは広大な山城だった!

一見、ただの山と木しか見えないけど、山城って何が面白いの? どこに注目すればいいの? そんな迷えるお城初心者のために、実際に山城を歩きながら山城を学ぼう!という「ビギナー女子の山城歩き」コーナー第五弾。〝ナワバリスト〟西股総生先生を水先案内人に、今回は深大寺城(東京都調布市)へ。縄張図の読み方をおさらいしながら歩きます。



深大寺城、公園、山城
公園として整備されている深大寺城は、乗り継ぎが上手くいけば新宿から一時間足らずで到着できるアクセス良好な城跡

植物園・国宝仏像・美味しいお蕎麦!隠れた東京観光スポットにある戦国の城

——京王線調布駅からバスに揺られて約15分。たどり着いたのは江戸情緒あふれる深大寺の門前町だった。目的の深大寺城はこの門前町を通り抜け、水路に沿って進んだ先にある。

深大寺城、門前町、甘味屋、蕎麦屋、お団子
 門前町には調布市民の漫画家・水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』のショップや、甘味屋、蕎麦屋と思わず寄り道したくなる店が立ち並んでいる。甘い香りの誘惑に負けて、ついついお団子を買ってしまった一行

(中村蒐:以下中村)
「いやー!良いお天気!今日は絶好の山城日和ですね!」

(西股総生:以下西股)
「あれ?中村さん。今日はいつもより気合いが入ってますね」

(中村)
「ふふふ、深大寺と言えば昨年国宝認定された「釈迦如来倚像」が安置されているお寺です。今日は深大寺にも寄り道すると聞いていたので、もうテンションMAXです!」

(二川智南美:以下二川)
「中村さんは仏像マニアですからね。かくいう私も、美味しいお蕎麦を食べられると聞いて、朝ご飯は控えめにしてきました(笑)」

(西股)
「ここ、深大寺はお蕎麦が有名ですからね。せっかくなのでお昼に頂きましょう」

(中村)
「わーい!山城に仏像にお蕎麦と、今日は盛りだくさんな一日ですね!」

(二川)
「あ、水生植物園の入口に着きましたよ。たしか深大寺城跡はこの植物園の裏山にあるんですよね」

深大寺城、神代植物公園、水生植物園、
 深大寺城跡は神代植物公園水生植物園として整備されており、曲輪跡がある「城山エリア」と、湿地の植物を木道から観察できる「水生植物園エリア」に分かれている

縄張図、深大寺城
深大寺城の縄張図。右上には湿地を示す地図記号が書かれたエリアがあるが、ここが水生植物園である[作図・提供=西股総生(以下、縄張り図はすべて同)]

(中村)
「なんかこの縄張図妙ですね?右半分はちゃんと曲輪や堀っぽいのが描かれてるけど、左半分は今の町並みしか描かれてないような。ずいぶん偏ってるなあ」

(西股)
「その謎は実際に歩いているうちにわかりますよ」

(二川)
「植物園の門からまっすぐ進むと、林に入るんですね。きちんと舗装されてる道だから歩きやすいなあ」

(中村)
「道なりに進むと…、うわあ、ずいぶん急な坂道ですね」

(西股)
「この坂道を登り切れば第二郭です。さあ、2人とも頑張って」

深大寺城、第二郭、急坂
林に入り左折すると、第二郭に到る急坂にぶつかる。フェンスの向こう側には車が通るための舗装道路が通じている。

ものすごく広〜い深大寺城第二郭の虎口はどこだ?

——急な坂道を登りきると、だだっ広い第二郭に到着。中央には建物跡もあり、多くの兵士が駐在していたのであろう。

深大寺城、第二郭
第二郭中央部から、南西方向を見る。人の大きさと比べると十分な奥行きがあるのがわかる

縄張図、深大寺城
城山エリアの大部分を占める第二郭。その南側は土塁で、東側(第一郭との間)は堀で守られている。西側は生け垣やフェンスで囲われており、先へ進めない

(中村)
「縄張図だと、第二郭へ通じる道には楕円が連なってモコモコしたケバが付いてますね」

(西股)
「この“モコモコケバ”は、当時の遺構を削ったことを示しています。つまり、今歩いてきた道は後世に作られた新しいものです」

(二川)
「そうなんですね。確かに、いくら急坂と言えど道幅も広く単調な道でしたし、城なら防備がしっかりした虎口があるはずですもんね」

(中村)
「むむ!第二郭の一番南西に、土塁に挟まれたいかにも虎口っぽそうな狭い通路がありますよ。山城の入り口は狭いの法則、絶対あれに違いない!」

(西股)
「それでは行ってみましょうか」

(二川)
「はい…ん?先生ちょっと待ってください。縄張図をよく見てみると、この南西部の土塁だけ他の土塁と違う書き方になっている気がします」

(中村)
「え?どれどれ?本当だ!他の土塁はケバがびっしり描かれているけど、ここの土塁だけT字が連なってるようなケバで描いてある!」

(西股)
「二川さん、よく気付きましたね!その通り、この第二郭南東の土塁は、公園として整備される際、復元されたものなのです。復元した部分をオリジナルの遺構と区別するために、描き方を工夫してあるのです」

(中村)
「えーそうなんだー。全く気付かなかったなあ」

深大寺城、第二郭南西、土塁、T字ケバ
第二郭南西の土塁に挟まれた狭い通路。一行が歩く両サイドの土塁が縄張図内のT字ケバで示されている部分、公園整備の際に復元されたものだ

深大寺城、急勾配の下り坂
狭い通路の先はフェンスがあり行き止まり。フェンスの向こう側は急勾配の下り坂になっているようだが…

(中村)
「土塁に挟まれた通路の先はフェンスで行き止まりになっていて進めませんね」

(西股)
「中村さん、フェンスの先をちゃんと見てごらん。道が続いているでしょう。この坂道は麓までずっと続いているんですよ」

(中村)
「おお!じゃあやっぱりここが第二郭に入る虎口だったわけですね!」

(西股)
「うーん、残念。縄張図をもう一度よく見てください。土塁から続くように2本の破線があるでしょう?」

(二川)
「本当だ。なんだか中途半端な位置にある破線ですね。これって何か意味があるんですかね」

(西股)
「この破線は、かつて第二郭西側を守っていた堀の堀底を示すラインです。ほら、この急坂道から、復元土塁、舗装された北側の車道まで繋いでみると……」

(二川)
「おお!第二郭の東・南・西、三方が土塁にしっかり囲まれましたね!」

(西股)
「第二郭の西側はもともと城の南北を行き来できる通路だったのです。そして、この通路の途中に第二郭内に入る虎口があったと考えられています」

縄張図、深大寺城
図のように、第二郭の西側は土塁で守られていた。土塁に挟まれた通路は、実際はもっと深い堀になっており、堀底道を通って城の南北を行き来することが可能だった

(西股)
「ほら、この生け垣の前あたり。なんとなく土が膨らんでるのがわかりますか?土塁を造る時はまずしっかりと基礎固めを行います。なので、後々土塁を崩しても、基礎だけは崩れず残ってしまうんですよ」

(中村)
「うわー。こんなのきちんと調べておかないと気付かずスルーしちゃいますよー!」

深大寺城、土塁、
写真左側がかつて土塁があった場所。2人が立っている所より、少し土が高いようだが、その高低差はわずか。知らないと気付かない

代表的な堀の種類「箱堀」と「薬研堀」をマスターしよう!

——第二郭の調査を続ける一行、今度は東側(第一郭側)の土塁へ向かった。

(二川)
「縄張図の実線は土塁や切岸の頂上、点線は堀底を表すんだから、土塁の先にはきっと堀があるはず…」

(中村)
「うわあ!第一郭との間にあるこの土塁、今まで見てきた中で一番頂上がとがってるかも!これ、勢いで登ったら、反対側の堀に落ちちゃいますよ!」

(西股)
「お、それはなかなか良い着眼点ですね」

(中村)
「本当ですか!これはやはり、上に乗って戦うための土塁と、そうじゃない土塁の違いってやつですか?」

(西股)
「では、“そうじゃない土塁”ってどういう土塁のことか、わかりますか?」

(二川)
「攻め手から第一郭が見えないようにする目隠しのための土塁ではないでしょうか?」

(西股)
「その通り。この高さなら、第一郭の様子はもちろん、深い堀があっても、攻め手からはわからないでしょうね」

深大寺城、堀、第二郭、土塁
写真左側が堀、右側が第二郭。土塁の頂上は鋭くとがっており、第二郭から勢いを付けて駆け登ったら、そのまま堀へ真っ逆さまだ

(西股)
「中村さん、深大寺城の堀にはちょっと面白い仕掛けがあるんですよ」

(中村)
「え?パッと見、そんな工夫があるようには見えないけれど…」

(西股)
「まず代表的な堀の種類として「箱堀(はこぼり)」があります。文字通り、箱のように堀底を平らにした堀です。メリットとしては堀幅を取りやすいこと、堀底を通路としても利用できるというのがありますね」

(二川)
「さっきの第二郭西側にあった堀は、通路として利用できる箱堀ですね」

(西股)
「そして、もう一つが「薬研堀(やげんぼり)」。薬研とは、薬草を粉引きするときに使う道具のことです」

(中村)
「ああ、両手でゴリゴリするローラー状のアレですね」

(西股)
「薬研のように、堀底が逆三角形の堀を薬研堀と言います。その利点は堀底がとがっているので落ちたら身動きが取れなくなること。そして箱堀に比べて掘る土の量を節約できることが挙げられます」

(二川)
「第一郭との間にある堀は、堀底が平らではないから、きっと薬研堀ですね」

(西股)
「この堀は薬研堀をさらに進化させた特殊な堀です。図で示すとこのように漏斗状になっており、堀底をさらに窮屈に、かつ土木量を最低限に抑えているんですよ」

(二川)
「ええ!土塁の向こう側にこんな危険な仕組みがあったなんて!これで第一郭をしっかり防御するわけですね」

(西股)
「この漏斗状の堀は、公園として整備される際に、あまりにも危険すぎるということで埋め戻したんですよ」

(中村)
「なるほど、それで見た感じ他の城の堀と変わりがないんですね」

深大寺城、箱堀、薬研堀、漏斗状
 代表的な堀の種類として挙げられる箱堀と一般的な薬研堀。そして漏斗状の薬研堀。深大寺城ではこの危険すぎる堀が第一郭=本丸を守っていたのだ

深大寺城、堀、埋め戻し、経年劣化
現在の堀の様子。経年変化や埋め戻しのため、当時の姿を知ることは難しい

(中村)
「よし!第一郭に向かうぞ!やっぱり本丸の虎口というだけあって、両側を土塁でしっかり防御していますね」

(西股)
「第二郭から見て土橋の右側には櫓台の跡があり、ここから第二郭、“さらにもっと先”の様子も見ることができます」

(二川)
「ん?さらにもっと先?もしかして、第二郭の西側通路の先にも城は続いてるってことですか!?」

(西股)
「そうですね。その答え合わせは次回にしましょう!」

——土橋を渡っていよいよ第一郭=本丸へ!次回は深大寺城がなぜ調布市に築かれたのか、その謎に迫ります。

▶「ナワバリスト西股さんと行く!ビギナー女子の山城歩き」その他の記事はこちら

[城名]深大寺城(東京都調布市)
[アクセス]京王線調布駅からバス約15分で深大寺参詣道前
[駐車場]なし。少し離れた神代植物公園の駐車場か、近隣の有料駐車場を利用しよう
[見学時間]1時間くらい
[服装]公園として整備されているので普段着・スニーカーで大丈夫。ただし腰曲輪は整備されていないので、長袖長ズボン推奨。
[トイレ]入口に1つ有り。
[その他]城域内にはベンチが多数、麓の水生植物園にもある。深大寺参詣道にはレストランや売店もたくさんあるので、昼食には困らないだろう

西股総生(にしまた・ふさお)
1961年、北海道生まれ。城郭・戦国史研究家。学生時代に縄張のおもしろさに魅了され、城郭研究の道を歩む。武蔵文化財研究所などを経て、フリーライターに。執筆業を中心に、講演やトークもこなす。軍事学的視点による城や合戦の鋭い分析が持ち味。主な著書に『戦う日本の城最新講座』『「城取り」の軍事学』『土の城指南』(ともに学研プラス)、『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』『首都圏発 戦国の城の歩き方』(KKベストセラーズ)、『杉山城の時代』(角川選書)など。その他、城郭・戦国史関係の研究論文・調査報告書・雑誌記事・共著など多数。

執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・二川智南美・中村蒐)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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