2019/07/29
デジタル復元で蘇った「大坂冬の陣図屏風」
豊臣軍と江戸幕府が対峙した大坂冬の陣を描いた「大坂冬の陣図屏風」。現在は、東京国立博物館に模写と考えられているものがあるだけで原本は所在不明、そのため本来の姿を見たことがある人はいません。今回、凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)が、学術調査と監修に基づくデジタル彩色と、専門家による金箔や金銀泥を手加工で施し、色鮮やかな「大坂冬の陣図屏風」をデジタル想定復元しました。2019年7月末からは徳川美術館・名古屋市蓬左文庫で開催される特別展「合戦図ーもののふたちの勇姿を描くー」にて初公開されます!
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2019年開催の「お城EXPO 2019」で、デジタル想定復元された「大坂冬の陣図屏風」が関東で初展示。完成当時の鮮やかさが再現された屏風から、大坂の陣の戦いの詳細を読み解きます。
「大坂冬の陣図屏風」デジタル想定復元 制作:凸版印刷株式会社
「大坂冬の陣図屏風」とは?
慶長19年(1614年)に豊臣家と江戸幕府が対峙した合戦「大坂冬の陣」を描いた屏風。屏風には、大坂冬の陣の陣立てや大坂城、戦場の様子が詳細に描かれています。原本の所在は不明で、現在は、模本(模写)と考えられるものが東京国立博物館に所蔵されているのみです。そのため、いまだ誰もその本来の姿を見たことがありません。模本は1886年に木挽町狩野家から東京国立博物館に寄贈されたもので、従来の説では、1616年に狩野興以から公家の中院通村へ届けられたといわれていますが、作者や屏風が描かれた時代、描かれた理由はわかっていません。
「大坂冬の陣図屏風」復元プロジェクトの概要
原本所在不明なだけでなく、作者も、描かれた時代も、理由も不明な「大坂冬の陣図屏風」。そのため、 城郭考古学の観点を奈良大学文学部教授 千田嘉博先生、美術史学の観点を徳川美術館、絵画技法の観点を東京藝術大学からそれぞれ監修を得て推進、①学術的調査、②デジタル彩色、③専門家による手仕上げ、と大きく3つのステップで復元を進めました。
①学術的調査
手がかりとなるのは、東京国立博物館に所蔵されている模本(模写)のみ。模本に書き込まれている指示をもとに、専門家が調査と監修を重ねて時代性や作者を考証。
②デジタル彩色
模本に書き込まれた色指示を手掛かりに、「六」は「緑青」、「にはん」は「二番緑青」というように使用された絵具や表現を推定。色の辞書を作り、色見本を作って、学術的考証に何度も照らし合わせながら彩色を施しました。
③専門家による手仕上げ
模本に書き込まれた金箔や金銀泥の指示をなぞるべく、実際に専門家が手作業で金箔や金銀泥を施し、屏風として完成させました。
「大坂冬の陣図屏風」デジタル想定復元。人物だけでも2300人が描かれている 制作:凸版印刷株式会社
「大坂冬の陣図屛風」デジタル想定復元
・図像部: インクジェットプリント 金箔金銀泥
・サイズ: 図像部 各約2986mm×1656mm
・制作: 凸版印刷株式会社
・監修: 千田嘉博(奈良大学文学部教授)、東京藝術大学、徳川美術館、
佐多芳彦(立正大学文学部教授)
・協力: 大阪城天守閣、京都市立芸術大学芸術資料館、東京国立博物館
※JSPS科研費JP17102001(立正大学)の助成を受けた研究成果を活用しています。
(凸版印刷ニュースリリースより)
「大坂冬の陣図屏風」復元後の動き
このように一大プロジェクトで甦った「大坂冬の陣図屏風」。一般公開にさきがけて、2019年6月20日(木)に東京都千代田区のNIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHIで行われたお披露目イベントにて報道関係者に披露されました。
イベントでは、凸版印刷 文化事業推進本部の木下悠氏による想定復元の解説があったほか、徳川美術館館長の徳川義崇館氏や奈良大学文学部教授 千田嘉博先生から「大坂冬の陣図屏風」デジタル復元の意義や今後の展開について語られました。城郭考古学面の監修を担当した千田先生と凸版印刷の木下悠氏によるトークセッションでは、最大の激戦であった真田丸に鹿の角の兜姿の真田信繁(幸村)の姿があることや、3か月にわたる長期の戦いだったため餅を売りに来ている人など、武功をたたえるだけでなく戦場のリアルまで描かれていること等を解説。屏風の見解や疑問点などについても話があり、復元の難しさ、奥深さ、面白さを改めて感じさせられる内容でした。
一般向けの初公開は、2019年7月27日(土)から9月8日(日)まで、公益財団法人徳川黎明会 徳川美術館・名古屋市蓬左文庫の夏季特別展「合戦図 ―もののふたちの勇姿を描く―」です。同特別展では、彩色復元過程を紹介する映像も上映されるとのこと。くわしくは蓬左文庫のHPをご覧ください。
またNHKテレビ番組、歴史秘話ヒストリア「よみがえる大坂の陣 幻の金屏風 誰が描かせたのか?」でも本プロジェクトが紹介されました。2019年7月30日(火)に再放送が予定されています。
番組内容の詳細や再放送についてはNHKのHPをご覧ください。
執筆/城びと編集部
協力/凸版印刷株式会社