2019/06/17
超入門! お城セミナー 第70回【歴史】濠で囲まれた古代の城「環濠集落」ってどんな施設なの?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。第70回は、古代の人が造った城がテーマ。一般的に城というと、中世山城や近世城郭が思い浮かびますが、実は古代にも濠で囲まれて防御を固めた“城”が存在していました。今回は、そんな古代の城・環濠集落について解説します!
古代のムラも濠で守られていた!
今回は、日本の城の起源といわれる、古代のムラにあった城のお話です。「古代人と城って何だかピンとこないけど…」と思う人も多いでしょう。という訳で、まずは城とは何か? をおさらい。──城とは、軍事的防御施設です。外敵から身を守るために工夫を凝らした、戦うための施設。つまり、争いごとのある社会でなければ発生しません。
ということで、大陸から稲作文化が伝えられて集住生活がはじまり、水や土地・食糧などの奪い合いから、ムラとムラの間で戦いが行われるようになった弥生時代に、「環濠集落」が登場するのです。この新しい集落の形が日本における城の起源とされますが、これは日本オリジナルではなく、稲作と一緒に大陸から伝わったもののようです。さてさて、古代の日本人が築いた城とは、一体どのような構造だったのでしょうか。
縄文末期〜弥生時代の集落である板付遺跡(福岡県)。集落のまわりには壕がめぐらされている(福岡市提供)
環濠集落の構造は字のごとく、集落の周りに濠(ほり)をめぐらせたもの。ちなみに、水堀と空堀で「濠」「壕」と漢字を使い分けることもありますが、一般的には「環濠」と書きます。大まかに、水田に近い平野では用水路と排水を兼ねた水堀、台地や高地では空堀となっていたようです。
南北朝時代に造られた環濠集落・姉川城(佐賀県)。集落全体に濠をめぐらせる防御方法は、佐賀平野独自のものだ(国土地理院提供)
当初の環濠集落は、堀で囲っただけのシンプルな構造だったでしょうが、次第に防御の工夫も凝らされていきます。土塁に柵を設置したり、物見や横矢用に一部を張り出させたり、朝日遺跡(愛知県)や大塚遺跡(神奈川県)に見られるように逆茂木でバリケードを作ったり。これらを超えて侵入しようとする敵には、弓矢や石礫(いしつぶて)などで攻撃したのです。これらは中世城郭以降の日本の城と共通するものばかりですが、弥生時代の土塁の多くは環濠の外側に築かれたようで、これは後の城とは逆の構造。これは、土塁に柵を設置して壕との高低差を大きくし、壕内に侵入しにくくするためとみられています。
弥生時代の大規模集落である吉野ヶ里遺跡。村全体を囲む壕の他に、祭事や政治を行う中枢部を守るための壕も築かれていた
全国に残る環濠集落
こうして環濠集落は稲作とともに日本全国に広がりますが、ムラのリーダーの力が強大になっていくにつれて、集落の規模も大きくなっていきました。やがて「クニ」ができ、その支配者はムラを出て特別な場所に拠点を移すようになります。そして古墳時代には、力を持った豪族は濠で囲まれた自分の館(豪族居館)を持つようになり、環濠集落はほとんど消滅してしまったのです。
在りし日の環濠集落の姿は、遺跡が物語ってくれます。物見櫓や祭殿があった吉野ヶ里遺跡(佐賀県)、楼閣風建物が復元されている唐古・鍵遺跡(奈良県)などは有名ですね。他にも、3重の環濠があった伊場遺跡(静岡県)、多い場所で8〜9重もの濠があった下之郷遺跡(滋賀県)、大きな祭殿があった池上・曽根遺跡(大阪府)、といった大規模な遺跡もあります。
弥生時代の集落遺跡・唐古・鍵遺跡では楼閣風建物の他に、大型建物の柱や環濠が復元されている
遺跡では物足りない人は、現存遺構へ。実は日本全国にたくさんあるのです。ただし、道幅が狭くて車の進入ができなかったり、完全な住宅街だったりと、見学自体が困難な上に住民にも知られていないような所も多いとか。
比較的整備され、案内板などがあって観光や見学にも対応している環濠集落は奈良県に多く、有名なのは大和郡山市の稗田(ひえだ)の環濠集落。この集落が造られた時期は不明ですが、室町時代には現在の姿が完成していたそう。喰い違いや斜めの道、行き止まりなど防御設備の数々が完存していて、歩くと何度も討死気分が味わえます。美しい環濠の風景は奈良県の景観遺産にも指定されています(詳細は「お城紀行」の大和郡山編で説明されています)。
室町時代には現在の姿に形成されていた稗田の環濠集落。外郭を濠で、集落内を道に幾重にも折れをつけることで守っている(国土地理院提供)
稗田集落の環濠。『古事記』に携わった稗田阿礼(ひえだのあれ)の出身地と言われており、集落の入口には稗田阿礼を祀る神社が建っている
その他にも奈良県には、若槻環濠集落(大和郡山市)、番条環濠集落(同)、保津環濠集落(田原本町)などが、またお寺を中心とした寺内町の環濠集落として有名な今井環濠集落(橿原市)、三重県にも一身田寺内町(津市)があります。
お城ファンなら、やっぱり城の起源はしっかりチェックしたいところ。意外に身近にあるかもしれないムラの城・環濠集落も、ぜひ訪れてみて下さいね!
執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。