萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第19回 郡上八幡城 清流に心洗われる城下町と、激戦の舞台にもなった城

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届けする「萩原さちこの城さんぽ~日本100名城と続日本100名城編~」。19回目の今回は、郡上八幡城(岐阜県)をピックアップ。現在では郡上市の有形文化財、そして日本100名城にも選定されています。関ヶ原合戦の前哨戦では、激戦の舞台にもなっていました。

吉田川、郡上八幡城、天守
吉田川に沿った遊歩道から見上げる郡上八幡城の天守。吉田川では鮎釣りの光景が見られる。郡上八幡は天然の鮎のほか、湧水を使った蕎麦、鰻もおいしい

令和のはじまりにも催された「郡上おどり」と、情緒あふれる城下町

平成から令和へ元号が変わった2019年4月30日から5月1日、郡上八幡で約1万5000人が夜通し踊り続けるようすがニュースで取り上げられ話題になりました。「郡上おどり」と呼ばれるこの催しは、国の重要無形民俗文化財に指定されている伝統的な盆踊り。本来は7月中旬から9月上旬にかけて催され、お盆の4日間には徹夜で踊る「徹夜おどり」が行われます。諸説ありますが、江戸時代に郡上八幡城主の遠藤慶隆が、領民の親睦を深め人心の懐柔をはかるために奨励したのが発祥といわれます。

江戸時代の風情を残す郡上八幡は、城下町が大きな魅力です。碁盤の目のような町割に沿って縦横に流れる水路は、寛文年間(1660年頃)に城下町を整備した郡上八幡城主の遠藤常友が、防火対策として築造したもの。主幹水となって城下の下御殿や家老屋敷にも水を供給したことから、御用用水と呼ばれます。柳町、大手町、職人町、鍛冶屋町などで見られる清冽な水が家々の軒先の下を洗うように流れる景観は、思わず立ち止まってしまうほど。国の伝統的建造物保存地区に選定された、情緒あるスポットです。

郡上八幡は長良川の上流に位置し、奥美濃の山々から流れ出た吉田川、小駄良川など3つの川が出会う場所にあります。吉田川沿いの遊歩道を歩きながらエメラルドグリーンやコバルトブルーに色づく川底を覗けば、小石まで見えて吸い込まれそうになります。清流が雑念を洗い流し、清らかな水の音が時間を忘れさせてくれます。

やなか水のこみち
やなか水のこみち。玉石は長良川と吉田川の自然石で、八幡の名にちなみ8万個が敷き詰められている

関ヶ原合戦の前哨戦では激戦の舞台に

郡上八幡城のはじまりは、永禄2年(1559)に遡ります。13世紀前半からこの地を支配していた東氏13代・常慶の子の常堯が遠藤胤縁を殺害したのをきっかけに、胤縁の弟・盛数が常慶を攻撃して東氏は滅亡。郡上八幡一帯の支配権を手に入れた盛数が、新たな拠点として八幡山に築いたのが八幡城です。城を大改修したのは、天正16年(1588)に4万石で入った稲葉貞通だと考えられます。関ヶ原合戦後は遠藤慶隆が城主の座に返り咲き、その後は遠藤氏により城や城下町が整備されました。

山内一豊の妻・千代は、二説あるものの郡上説では遠藤盛数の娘といわれています。本丸跡に山内一豊と千代の像があるのはこのためです。山頂よりかなり低いところに本丸跡があるのは、宝暦9年(1759)に入った青山幸道が旧二の丸を本丸、旧本丸を桜の丸・松の丸と改めたから。居館が城下の殿町に築かれていることからも、太平の世になったこの頃には山上の城は不便となり、政庁を山麓に移したのでしょう。

八幡城の複雑な歴史の中でよく知られるのは、関ヶ原合戦の前哨戦のひとつ、慶長5年(1600)の八幡城の戦いでしょう。東軍についた稲葉貞通・遠藤胤直と遠藤慶隆・金森可重との間で行われた攻防です。城の搦手にある「首洗い井戸」で、討ち取られた金森家家臣の首を洗ったのかもしれません。

城は小規模で、設計もどちらかというと単純です。駐車場になっているところは巨大な堀切の跡で、北側からの侵入の遮断線になっています。天守は、昭和8年(1933)に当時現存していた大垣城天守を参考にして再建されたました。大垣城天守は空襲で焼失したため、それを模した郡上八幡城天守は価値あるものとなり、現在は郡上市の有形文化財に指定されています。

郡上八幡城、天守
昭和8年(1933)に再建された天守。大垣城天守を参考にしている


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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)、「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)など。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。


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