2019/04/01
超入門! お城セミナー 第60回【鑑賞】城門などに巨大な石が置かれているのはなぜ?
お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは、近世城郭の出入口である虎口に使われていた巨石について。この巨石は「鑑石(かがみいし)」と言われていますが、なぜ置かれるようになったのか?虎口の石垣に巨石が使われた理由と、全国にある個性豊かな巨石をご紹介します!
日本で最も巨大な鏡石・蛸石。大阪城本丸への入口である桜門に置かれている。その推定重量は約130t。いったい何のためにここまでの巨石を運んできたのだろうか?
城主の権力を示すために置かれた巨石たち「鑑石(かがみいし)」
石垣と門でガッチリ固められた近世城郭の虎口(出入口)。城の規模によってその大きさは様々ですが、入り口である虎口を固める門周辺の石垣に、驚くほど大きな石がドーン!と使われていることがよくあります。これらの石は「鏡石(かがみいし)」と呼ばれていますが、何か意味があるのでしょうか? 今回は、近世城郭の虎口でよく見かける巨石「鏡石」について、実例をご紹介しながら解説していきましょう。
城の出入口である虎口は、城の守りの最重要地点であるため、「横矢掛かり」や「枡形」といった様々な仕掛けが凝らされています。でもその仕掛けが発動する前に、攻めてくる敵に対してまずは心理的に揺さぶりをかけたいところ。
また、戦がなかったとしても、権力の象徴である近世城郭には、城主の権力や財力を目に見える形で示すために「見せびらかしポイント」を随所におきました。
城への通路である門は、訪れる者に城主の威厳を示すための重要な場所。そのためのツールとして使われたのが、鏡石なのです。
大阪城大手門枡形の鏡石。門に足を踏み入れた先に鎮座する3つの巨石は、非常に威圧感がある
目立つところにシンボル的にドンと配置された、周りよりひときわ大きな石は、なんともいえない威圧感。鏡石を据えることは、石の大きさで驚かすだけではなく、その石を切り出してそこに据えた石工の技と、その技術集団を抱えている城主の権力を見せつける効果もあるのです。
一般的に「鏡石」とは、鏡のように姿が映るような表面が滑らかな石のことを言いますが、城の鏡石は、必ずしもスベスベの石ばかりではないようです。大きさも、形も見せ方も、お城によって個性があります。
訪城したら必ず見たい! 全国のお城の鏡石
近世城郭の祖といわれる安土城(滋賀県)。主要部への入口となる伝黒鉄門の石垣は、城内一大きい威圧的な巨石群で構築されています。安土城の巨石といえば、1万人余りで三日三晩かけて山上まで運んだという「蛇石(へびいし・じゃいし)」が有名ですが、こちらは鏡石ではなく重要な基礎部分に使用されたのか、残念ながらいまだに行方がわかっていません。
フロイスの『日本史』によると、蛇石を運んだ際、石が横滑りし100人以上の人足が轢き潰されたという。二の丸には蛇石ではないかとされる巨石が残っているが、真偽やいかに…
日本一大きな鏡石は、大阪城(大阪府)本丸の桜門を入った正面にある、通称・蛸石。なんと約36畳もの大きさです。その周囲も城内で最大クラスの巨石があり、徳川幕府の威厳を比類ないスケールで示しています。
大阪城には蛸石以外にも多数の巨石が使われている。写真は、城内2位の大きさを誇る「肥後石」。肥後領主だった加藤清正が運んだとされる石だが、実際には清正は無関係
桜門の両脇にも、龍石と虎石という四角い巨石がありますが、門の両脇に鏡石を据える例は他に、浜松城(静岡県)天守門、彦根城(滋賀県)太鼓櫓門など。比較的縦長の巨石が門の堅固さを強調しています。松本城(長野県)太鼓門は片側だけですが、こちらも抜群の存在感を放つ巨石です。
松本城太鼓門脇に据えられた玄蕃石。城主・石川玄蕃頭康長(いしかわげんばのかみやすなが)が、自ら音頭を取って運んだという
門の両側というわけではありませんが、縦長の巨石を隅の部分に使っているのが、多様な石垣が見られることで有名な金沢城(石川県)の尾坂門や、城内最大の鏡石よりも目立つ長〜い隅石が見事な岡山城(岡山県)の内下馬門など。
また、名古屋城(愛知県)の「清正石」も有名ですね。東二之門を入ったところにある巨石で、加藤清正が自ら音頭を取って曳かせたと伝わる石です。実際の東二之門普請担当は黒田長政なので、どうやらこの逸話はあくまで伝説のようですが、その石の存在感はさすがです。
名古屋城の清正石を枡形の入口から見る。遠目からでもわかる圧倒的な存在感は、出入りする人物に城主の権威をアピールしている
上田城(長野県)の「真田石」も、真田昌幸が運んできた石で、息子の真田信之が運び出そうとしても動かなかったという言い伝えがあります。(こちらも実は後の城主・仙石氏が置いた石かもしれないとか……)さらに、竹田城(兵庫県)南千畳の鏡石のように、触ると幸せになるといわれ、流行のパワースポットになっているものもあります。
上田城の真田石。縦横共に約3mで、本丸東虎口門の石垣に据えられている
この他、富山城(富山県)の鏡石は、いくつもの巨石が並び、まるで屈強な門番が次々と現れるようです。岡城(大分県)や丸亀城(香川県)の枡形にも、複数の鏡石がにらみをきかせています。
いかがでしたか? 城主の威厳を示すものながら、その個性やセンスが垣間見える、多種多様な城の鏡石。門の近くに行ったら、ぜひ注目してみて下さいね!
▼ではこんな大きな石をどうやって運んだの?詳細はこちら
執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。