熊本城の「いま」 第7回 殿様も魅了した「熊本のオアシス」水前寺成趣園を涼散歩

熊本地震から2年。復興に向かって進んでいる熊本城の「いま」をお伝えする企画。今回は熊本城主・細川家の歴史にふれながら、阿蘇の伏流水が湧き出る水前寺成趣園を名物ガイドさんに案内していただきます!庭園の美しい景色を『古今和歌集』の奥義が授けられた建物で、お茶とお菓子をいただきながら楽しめるというとっておきの場所もご紹介します。

水前寺成趣園、成趣園十景、熊本城
水前寺成趣園には「成趣園十景」と呼ばれる四季折々景色が広がる

暑い夏にはかつての熊本城主と同じように、凉を求めて庭園を訪ねてみませんか。熊本城から約4kmの位置にある水前寺成趣園は、阿蘇の伏流水が約20年かけて湧き出る熊本のオアシス的存在。この場所に目をつけて大名庭園にしたのが、熊本城主の細川家です。細川家は、再来年のNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・明智光秀とも深い関係があります。細川家の歴史にふれながら水前寺成趣園を堪能してみましょう。

夏目漱石の歌碑は熊本地震で倒れた鳥居

熊本城、夏目漱石、歌碑、くまもとよかとこ案内人、吉村徹夫会長
夏目漱石の歌碑。熊本地震で倒れた鳥居の石で造られたそう

熊本城を築城した加藤清正について連載第3回でご紹介しました。加藤清正の後、息子の加藤忠広が城主となりますが、その後、加藤家は領地を没収され、細川家が藩主となります。細川家と言えば、元総理大臣であり陶芸家でもある細川護熙氏のご先祖に当たります。

熊本城近くの「熊本城・市役所前」停留所から市電に乗り約20分、「水前寺公園前」停留所で下車して徒歩約5分で、水前寺成趣園入口へ。ここでも、熊本城のガイドでお世話になった、「くまもとよかとこ案内人の会」吉村徹夫会長のガイドでめぐります。

水前寺成趣園に入ってすぐ、向かって右側に夏目漱石の歌碑が目に入ります。

湧くからに 流るるからに 春の水

「まずはこちらをご覧ください。夏目漱石の句の中でも有名な句が詠まれていますが、実はこの石は鳥居でした」。

水前寺成趣園の中には、熊本藩の歴代藩主を祀る出水神社があります。その鳥居は、熊本地震の際に倒れてしまいました。現在は、水前寺成趣園内の歌碑や椅子に活用されているそうです。夏目漱石は明治29年(1896)、旧制第五高等学校(現在の熊本大学)の教壇に立つため熊本に赴任。水前寺成趣園近くには夏目漱石大江旧居があり、水前寺成趣園を好みました。当時、正岡子規の影響で多くの俳句を創作した時期でもあります。水前寺成趣園は漱石ファンにとって欠かせない場所ですね。

水前寺成趣園、熊本城、梛、神木
水前寺成趣園内の神木「梛(なぎ)の木」近くに置かれた椅子も鳥居を再利用している

殿様も文豪も魅了した清涼な湧水

熊本城、水前寺成趣園、神水、長寿の水
こんこんと湧き出る神水「長寿の水」

水前寺成趣園は、1万㎡の湧水池を中心に美しい景色が楽しめる庭園。成趣園池に架かる風情たっぷりの石橋を渡ると、勢いよく流れる神水「長寿の水」が。なめらかな味わいの神水は、「百薬の長」として親しまれています。

こんこんと清らかな湧水が湧く庭園の様子を、夏目漱石は「しめ縄や春の水湧く水前寺」と詠み、明治時代の文豪・徳富蘆花は「幸福のつく息ならで何だろう」と讃えました。

この清涼な湧水に目をつけ、茶の湯に最適ということで、肥後藩主・細川忠利が御茶屋(休憩用の施設)を設けたのが水前寺成趣園のはじまり。寛永13年(1636)、細川忠利は「国富の御茶屋」を設け、その後、寺を建立し御茶屋も寺の所属としました。そのため一帯は「水前寺の御茶屋」と呼ばれるようになり、3代80年間をかけて庭園を完成させ、中国の詩人・陶淵明の詩に由来する「成趣園」と命名されたといいます。

細川家の歴代藩主が祀られている出水神社

出水神社、守護神、熊本
主祭神は細川藤孝(忠利の祖父)・細川忠興(忠利の父)・細川忠利(初代藩主)、細川重賢(8代藩主)。他の藩主と細川ガラシャは後に合祀された

神水で身を清めた後、雰囲気のある鳥居へ向かいます。初代藩主の細川忠利はじめ、歴代藩主が祀られている出水神社です。明治10年(1877)の西南戦争で、熊本城下は焼野原となりました。旧藩主を慕っていた旧藩士たちによって、藩主の御霊を祀ることで、戦いで荒んだ人心を安定させ、熊本の町を発展させようという願いから、細川家に関係の深い水前寺成趣園の地に出水神社を創設したといいます。

水前寺に注目した初代藩主・細川忠利

細川忠利公銅像、細川藤孝公銅像、出水神社
初代藩主・細川忠利公銅像(左)と祖父・細川藤孝公銅像(右)

出水神社を過ぎ、ちょうど入園した正門から反対側の辺りに、2つの銅像が立っています。向かって左側が「細川忠利公の銅像」、右側が細川忠利の祖父「細川藤孝公の銅像」です。

初代藩主・細川忠利は、元々は小倉城(福岡県北九州市)の城主でしたが、熊本城主の加藤家が改易となり、寛永 9年(1632)に熊本城に入城しました。父は千利休の弟子でもあり文武両道に秀でた細川忠興、母はキリスト教の洗礼を受けたことで知られる細川ガラシャ。細川ガラシャの父こそが、2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・明智光秀です。そして、細川忠興の父が細川藤孝、つまり祖父である細川藤孝と、孫の細川忠利の像が並んでいます。その理由はなぜでしょうか?

織田信長・豊臣秀吉・徳川家康に仕えた細川藤孝

出水神社、境内、盆栽、
出水神社境内の松は細川忠利が育てていた盆栽。樹齢は400年を超える

「水前寺成趣園に関係の深い2人が銅像になっています。細川忠利公は水前寺に「御茶屋」を設けた人物。加藤家の後、熊本城主となり肥後を治めました。祖父(細川幽斎)や父(細川忠興)と同様に文武にすぐれた才能を備えていました」(吉村さん)。交友関係も広く、「二刀流」で知られる剣豪・宮本武蔵を客人として熊本に招き、晩年を過ごしたことで知られます。

古今伝授の間、茅葺き
ひと際存在感を放つ茅葺きの建物「古今伝授の間」

「細川藤孝(幽斎)公は、御陽成天皇の弟八条宮(桂宮)智仁(としひと)親王の古今和歌の師であり、学問に秀で、また産業振興にも力を尽しました。古今和歌集の奥義を八条宮智仁親王に伝えた『古今伝授の間』が、水前寺成趣園に復元されているため、水前寺成趣園を語る上で欠かせない人物です」(吉村さん)。

細川藤孝は、幼少期は母方の実家・清原氏で育てられました。清原氏は清少納言などを輩出した学者の家であり、学問的に大変めぐまれた環境でした。同い年の織田信長と出会い、強い信頼関係で結ばれ文武に活躍。織田信長が本能寺の変で亡くなった後に出家をし、細川幽斎と名乗りますが、その後も豊臣秀吉、徳川家康に仕えた数少ない人物です。

『古今和歌集』の奥義が伝授された建物でひと休み

古今伝授の間、座敷席、水前寺成趣園
「古今伝授の間」座敷席からの水前寺成趣園の景色は特に美しい

水前寺成趣園を一周したところで、茅葺きの風雅な建物に立ち寄ります。これが『古今和歌集』の奥義の伝授に使われた建物で、大正元年(1912)に移築された「古今伝授の間」。どこから見ても美しい水前寺成趣園ですが、この建物から見る風景が最も美しいとされています。

「後陽成天皇の弟君(八条宮智仁親王)に、細川藤孝(幽斎)公が『古今和歌集』の解釈の奥義を伝授された場所です。古今和歌集は、日本最初の勅撰和歌集(天皇の命により編集された歌集)であり当時の日本の学問の最高峰。口伝で継承されてきましたが、継承において大きな危機を迎えた時期があります。それが慶長5年(1600)の関ヶ原の戦いです」(吉村さん)。

細川幽斎は徳川勢についたため、石田三成軍に自身の居城である田辺城(京都府)を包囲されますが、古今伝授の断絶を恐れた後陽成天皇は、勅命(天皇の命令)により城の包囲を解かせました。いかに古今伝授が尊ばれ、細川幽斎の存在が重要であったかが、この逸話から知ることができます。文化を力にした稀有な存在だったのです。

水前寺成趣園、加勢以多、古今伝授の間
細川家秘伝の伝統菓子「加勢以多」(右)を抹茶と共にいだだく

この歴史ドラマの舞台で、なんと抹茶と和菓子をいただくことができます。表面に細川家の家紋が刻まれた「加勢以多(かせいた)」は、江戸時代、幕府への献上品にもなった細川家秘伝の伝統菓子を復元したもの。カリンで作った羊羹を餅粉で作ったおぼろ種ではさんでおり、ほのかな甘酸っぱさが味わえます。伝統と時代を感じさせる特別な味。座敷席(650円)と椅子席(550円)から選べます。夏季は冷やし抹茶も選べますし、加勢以多のほか、夏らしい季節のお菓子も選べますよ。

水前寺成趣園は熊本市民の「心のふるさと」

水前寺成趣園、すっぽん
現在動物園はないものの、タイミングがよければ白いスッポンが泳ぐ姿に出合える

日本を代表する庭園を堪能しながら、細川家の歴史にふれられ、おいしいお菓子までいただける水前寺成趣園。もうひとつ印象に残るお話があります。「水前寺成趣園は熊本市民にとって心のふるさとでもあります。私の幼少期には動物園があって、キリンやライオンを見によく来ました。記念写真も残っていますよ。熊本城よりもよく来ました」と目を細める吉村さん。

ただ見るだけでは気づかない水前寺成趣園の魅力や歴史は、ぜひ「くまもとよかとこ案内人の会」さんのガイドを利用して一緒に歩いてみるのがおすすめです。凉を求めてきたつもりが、ほっこりした気持ちになれますよ。熊本城と水前寺成趣園を合わせてめぐる、「熊本城と水前寺成趣園コース」がおすすめです。

水前寺成趣園、稲荷神社、能楽殿
稲荷神社や能楽殿など、水前寺成趣園にはほかにもみどころがいっぱい

<基本情報>
●水前寺成趣園
住所:熊本県熊本市中央区水前寺公園8-1
電話番号:096-383-0074
開園時間:7時30分~18時(11~2月は8時30分~17時)
※入園は閉園30分前まで
※北門は9時30分~16時まで
入園料:400円

●くまもとよかとこ案内人の会
住所:熊本県熊本市中央区二の丸1-1-1(桜の馬場 城彩苑 総合観光事務所)
電話番号:096-356-2333 ※対応時間9~17時(土・日曜、祝日は~16時)
受付時間:9~15時
料金:水前寺成趣園のみ、または「熊本城と水前寺成趣園コース」希望の場合は、現地までの交通費として2000円が必要(黄シャツ着用)※各自の交通費は自己負担。申し込みは3日前までに公式ホームページ http://www.k-yokatoko.com/より。

※毎週金・土曜の14~16時と日時は限定されるが、水前寺成趣園をめぐる「水前寺さるく」(一般財団法人熊本国際観光コンベンション協会主催)もある。詳細はホームページ https://www.kumamoto-icb.or.jp 参照

▼熊本城の「いま」の他の記事はこちら

執筆・写真/藪内成基(やぶうちしげき)
奈良県出身。30代の城愛好家。国内旅行業務取扱管理者。出版社にて旅行雑誌『ノジュール』などを編集。退職し九州の城下町に移住。観光PRやガイドの傍ら、「城と暮らし」をテーマに執筆・撮影。『地域人』(大正大学出版会)など。海外含め訪問城は500以上。知識ゼロで楽しめる城の情報発信を目指す。

※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています

関連書籍・商品など