お城紀行〜城下と美味と名湯と お城紀行〜城下と美味と名湯と 第7回 |【大洲城・後編】幕末から湧き続ける伊予の秘湯・小薮温泉へ

お城はもちろん、その城下町にある美味しいグルメや温泉を紹介する「お城紀行〜城下と美味と名湯と」。今回は、愛媛県の大洲近くにある閑静な温泉宿・小薮温泉へ、命の洗濯に行きましょう。

鹿野川大橋、停留所
鹿野川大橋の停留所でバスを降りた。ここから歩きだ

バス停から、のんびり歩いてお目当ての温泉をめざす

「寅さん」の映画でも有名な大洲城の見物を終え、お腹も落ち着いたところで、近くのバス停へ。ここから鹿野川行きのバスに乗り込み、鹿野川大橋のバス停で降りた。ここが今宵の宿「小薮温泉」(おやぶおんせん)の最寄りの停留所だ。宿は山の中にあるため、ここから2kmの登りを歩いて向かう。

大洲城、建物
古い建物。看板のロゴが外れ、読めなくなっている感じがなんともいい

山道といっても舗装された広い道なので、道に迷ったりとか、雨がぬかるんだりするとかは無い。ただ街灯がないため、夜は真っ暗になる。自然の風景を眺めながら登っていくと、やがて民家が見えてきた。

小薮温泉
「小薮温泉」に着いた。なんだかホッとする

ここが、伊予の一軒宿「小薮温泉」だ。大正時代に建てられた木造三階の建物で、遠目には普通の民家にしか見えないが、今どきなかなか得難い雰囲気がある。

2階の大広間は、気持ちよく風が吹き抜けて、心の底から寛げる。「温泉しかないところですけど、ゆっくりしてね」と女将さん。娘さん夫婦と一緒に宿を切り盛り。家族みんなで一所懸命がんばっている。愛媛には「道後温泉」という全国的に有名な温泉があるが、常に観光客でごった返している。それに比べ、小薮温泉はキャパ20~30人規模の宿。隅々までじっくり堪能でき、宿泊できるという点では、こちらのほうがずっと親しみやすい。

小薮温泉、木枠の湯船
ツルツルした温泉に満たされた木枠の湯船

すべすべした肌触りの湯に身を沈める

さっそく風呂へ向かう。日帰り入浴も可能のようで、気持ち良さそうに浸かるおじさんがいた。やはり地元愛媛の人で、あちこち温泉に行くけれども、ここが一番のんびりできて好きなのだという。温泉は幕末の文久の頃から湧く自噴と汲み上げのブレンドだそうで、17度の鉱泉を40度ぐらいに沸かしてドボドボと注いでいる。無色透明の湯は、浸かってみるとぬめり感があり、肌の上をすべる感じがする。渓流沿いの木々を眺めながらの湯浴みに、身体がとろけそうだ。

小薮温泉、夕飯、囲炉、
夕飯は素朴な山と川の幸。囲炉裏で焼いた鮎などを味わった

夕飯には囲炉裏端で岩魚の塩焼きなどをいただいた。小薮温泉は伊予の一軒宿。周りは民家がポツンポツンとあるだけで、食堂などは皆無。1泊2食付きで宿泊したが、お値段1万950円と非常に良心的だった。夕食後、また2階の大広間で、ただボーっとして過ごす。

小薮温泉、貴重
温泉地の少ない愛媛では貴重な存在である小薮温泉

心の洗濯とは、まさにこういう時間の過ごし方をいうのだろう。関東に住んでいると、なかなか来られないところだけに噛み締めるようにして堪能した。また大洲へ来ることがあったら、城とともに寄ってしまうだろう。


大洲城(おおず・じょう/愛媛県大洲市)
大洲城は文禄4年(1595年)に藤堂高虎によって近世城郭へ整備された城。江戸時代は大洲藩の藩庁となり、明治維新後も天守や一部の櫓は保存された。その後老朽化により天守は解体されるが、2004年に木造復元される。

執筆・写真/上永 哲矢(うえなが てつや)
神奈川県出身。歴史文筆家・トラベルライター。日本史・三国志や旅を主な生業として雑誌・書籍などに寄稿。歴史取材の傍ら、名城や温泉に立ち寄ることが至上の喜び。著書に『高野山 その地に眠る偉人たち』(三栄書房)『三国志 その終わりと始まり』(三栄書房)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)がある。

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