「お城EXPO 2017」イベントレポート 【イベントレポート】お城EXPO 2017:1日目「お城ファンの祭典がスタート!」



お城EXPO 2017、パシフィコ横浜
記念撮影を撮っている人も多かったパシフィコ横浜前の案内看板

平日にもかかわらず開城を待つ大行列!

12月22日(金)、平日の午前中にも関わらず、パシフィコ横浜会議センターの前には長い行列ができていた。時折、コートの襟をたぐりよせたくなるような冷たい風が吹くが、人々の表情は明るい。「城のジオラマ、今年も出展するんだって」、「この前、彦根城行ったけど混んでたよ〜」。開場を待ちわびる人々の会話から漏れ聞こえるのは、城・城・城——。そう、お城の祭典「お城EXPO」が、今年もはじまるのだ。

「お城EXPO」は2016年に初開催され、1万9000人近い城ファンが来城した(「お城EXPO」では来「城」と表記され、訪れた人は「来城者」となる)。13時の開城を前にできた100人以上の行列は、「お城EXPO」に寄せられた期待の表れだろう。列の前方に並んでいた人は「今年も開催されるって聞いて有休とっちゃいました。去年は半日しか見られなかったから今年は存分に楽しみたい。それにしても、こんなに行列ができるなんて…」(30代・女性)と、後ろを振り返りながら目を丸くした。年配の夫婦から10代と思われる若者まで、老若男女が列をなす様子に、城ブームがすっかり定着したことを実感する。

お城EXPO 2017、行列
当日券購入を待つ行列

お城EXPO 2017、城びとロゴ、ネイル
気合い充分! お城EXPOとサイト「城びと」のロゴをネイルした城ファンも

13時の開城を前に、イベントステージではオープニングセレモニーが開かれていた。まずは、お城EXPO実行委員会 実行委員長の小和田哲男先生が登壇。昨年の様子を「若い人が非常に多く、皆さんがにこやかに楽しんでいる姿が印象的でした」と話し、「これは城好きのための3日間のお祭り。皆さん全力で楽しみましょう」と結ぶと、会場からは大きな拍手が鳴り響いた。

セレモニーが進むと、滋賀県彦根市のゆるキャラ「ひこにゃん」が登場。愛らしいひこにゃんと一緒に開会のテープカットが行われ、いよいよ「お城EXPO 2017」が幕を開けた。

お城EXPO 2017、テープカット
テープカットが行われると、会場からは大きな拍手が鳴り響いた

「厳選プログラムは全部聞きたい!」と意気込む人も

お出迎え武将が威勢良く声を張り上げる中、多くの来城者が向かうのは1階の大ホールだ。ここで行われるのが、城研究のスペシャリストたちの講演やトークショーを聞くことができる、城好きにとってはたまらない「厳選プログラム」。来城者からは「厳選プログラムは全部聞くつもり」という声も聞かれ、関心の高さがうかがえる。

2017年4月に「続日本100名城」が発表されたこともあり、新たに脚光を浴びたこれらの城について詳しく知りたいという来城者が多かった。その期待に応えるように、最初に登壇した中井均先生(滋賀県立大学教授)は「中世の続日本100名城について」、続く加藤理文先生(日本城郭協会理事)は「近世の続日本100名城について」と題した講演を行った。

中井先生が関西弁の軽妙な語り口で「私は小5から城が好き。女房や子供よりも城と付き合いが長いんです」と話すと、会場からは笑い声が漏れる。続いて続日本100名城の半数以上を中世城郭(山城や土の城)が占めることに触れ、地域ごとに城を紹介。講演後、「日本100名城」は踏破したという夫妻は、「山城の魅力がようやくわかってきたところ。続100名城のスタンプラリーがはじまる前に聞けてよかった」(40代)と語る。

お城EXPO 2017、中井先生
「続日本100名城だけにゾクッとするような良い城がたくさん」と、時に冗談を交えながら語る中井先生

続日本100名城に選ばれた近世城郭を解説した加藤先生は、近世城郭の見方や城のパーツごとの楽しみ方を丁寧に紹介。「意識していなかった細かいパーツの見方を知ることができた。城を見る目が変わりそう」(50代・男性)といった感想も。

「戦国の城の魅力と見どころ」をテーマに講演を行った小和田哲男先生は、縄張図や地積図など、さまざまな角度からの城の楽しみ方を解説。配布されたレジュメと壇上を交互に見比べながら、頷いたり、熱心にメモを取る人の姿が多く見られた。講演後、20代の女性は「城は何回も足を運んでみることが大切」という小和田哲男先生の言葉に触れ、「100名城を踏破するのもいいけど、一つの城をマスターするのも面白そう。地元の滝山城にまた足を運んでみようと思いました」と熱い口調で話してくれた。

お城EXPO 2017、小和田哲男先生
実行委員長である小和田哲男先生。「お城EXPOを訪れる若い人の中から、今後の研究者が生まれるかもしれない」とイベントの意義を語った

東京大学史料編纂所教授の本郷和人先生は、「戦国夜話~前田家の城・細川家の城~」と題し、戦国時代の城攻めを解説。本郷先生は大名の城を研究するうちに抱いた「なぜ城を攻めなくてはいけないのか」という疑問を解明するため、攻城戦を城の性質と城の攻め方に関する研究に取り組みはじめたという。その研究で得られた知見を前田家の城や高天神城の戦いなどを例にあげながら解説していた。

城の魅力が存分にピーアールされる「城めぐり観光情報ゾーン」

お城EXPOではパシフィコ横浜会議センターを借り切って、目移りしてしまうほど多彩なイベントや展覧会、セミナーなどが開催されたが、その中でも最大の会場で行われたのが「城めぐり観光情報ゾーン」だ。全国の自治体や団体のブースを立ち並び、趣向を凝らして地元の城がピーアールされている。ブースによってはクイズ大会や映像作品の上映、識者によるセミナーなども開かれた。おもてなし武将隊やゆるキャラがあちこちを行き交い、出展者と来城者の会話が絶えない最もにぎやかなゾーンとなった。出展者は一様に、その熱量の高さに驚いていた。「平日なのにこんなにたくさんのお客さんがいるなんてびっくり。みなさんとても勉強熱心で、こっちも負けていられない!」(出展者の男性)。

お城EXPO 2017、松江城
国宝松江城「松江は武者のまち!」ブース。武将診断や○×クイズなどが行われ、女性や子どもの参加者が多かった

お城EXPO 2017、毛利元就、甲冑、試着
毛利元就「三矢の訓」連携会議ブースで行われた甲冑試着体験。甲冑はとても本格的

お城EXPO 2017、彦根城、ひこにゃん
彦根城ブースにひこにゃんが登場すると、あっという間に何重もの人だかりができた。3日間で数十のご当地キャラが登場し、会場をにぎやかした

今年はVRや復元模型などを使い、立体的に城を体験できる展示も目立った。松本城や浜松城、株式会社ジーンのブースでは、実際にヘッドマウントディスプレイを装着してVR映像を体験。今では失われた遺構が画面内に蘇り、感嘆の声が漏れた。また、明石観光協会のブースには、お城ジオラマ復元堂作成の明石城の城ラマが展示され、集まった人々は食い入るように眺め、写真を撮っていた。現地に行くだけではない、さまざまな城の楽しみ方に触れられるのもお城EXPOの魅力である。

お城EXPO 2017、明石観光協会、城ラマ、ペーパークラフト
明石観光協会のブースでは、城ラマ展示のほかに、ペーパークラフトの作成体験も実施

お城EXPO 2017、パンフレット、名産
会場で配布されていたパンフレット類も団体ごとの趣向が凝らされていた。大和郡山市では金魚すくいのポイを配るなど、地元の名産をプレゼントする団体も多かった


多くの人が足を止めた「熊本城復興支援コーナー」

2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城は、昨年に引き続き「熊本城復興支援コーナー」が設置された。復興の様子を豊富な写真とともに説明したパネルや、本丸御殿の発掘調査で見つかった加藤家や細川家の家紋入りの瓦などが展示され、3日間で50万円を超える復興支援義援金が集まった。

ブースでは大勢の人が足を止め、熱心にパネルを眺めており、城好きの誰もが熊本城の復興を気にかけていることが伝わってくる。学校帰りに制服姿で訪れていた男子高校生は、一本石垣に支えられた飯田丸五階櫓のポスターを見ながらこうつぶやいた。「テレビで崩落した石垣を見たときは衝撃でした。いつか復興した姿を見るために、役に立つことがあれば何かやりたい」。

お城EXPO 2017、熊本城、復興支援
被災・復興状況をまとめた熊本城の復興支援コーナー。観光情報ゾーンの入口にあり、多くの人が足を止めていた

お城EXPO 2017、発掘調査、瓦
地震後の発掘調査では、天守や本丸御殿の貴重な瓦が発見された

ディープなセミナーと華やかなエンタメステージ

体験講座が行われた「ワークショップ&セミナー」や、バラエティ色あふれるプログラムが魅力の「エンタメステージ」も見逃せない。ワークショップ&セミナーの初日は、城郭復元マイスター・二宮博志さん、城郭写真家・畠中和久さん、「訪城数日本一の夫婦」ウモ&ちえぞーさんが登壇。

二宮さんは今年出品された明石城の復元ジオラマの制作にあたり、現地調査で分かった知見や制作秘話を発表。畠中さんの「お城撮影講座2017」では、長時間露光やドローンを活用した撮影技術が披露された。また、これまで5800以上の城を訪れてきたウモ&ちえぞー夫婦からは、山城巡りの事前準備や縄張図の描き方、山城歩きの注意点などのレクチャーがあった。

お城EXPO 2017、畠中さん
「そこまで話して大丈夫?」と聞いているこちらが心配してしまうほど、マル秘の撮影術を惜しげもなく語った畠中さん

お城EXPO 2017、歴ドル
この日はクリスマスイブの前々日。華やかなファッションに身を包んだ歴ドルたちがディープに城を語る

そうしたディープなセミナーの裏で開催されたのが、「お城ナイト〜お城好き女子大集合!〜」だ。夜景の見えるエンタメステージ会場には、女優の村井美樹さんや、歴ドルの小日向えりさん、美甘子さん、晴野未子さん、みーぽんさんが、サンタ帽をかぶったクリスマスムード満載の格好で登場。歴史ナビゲーター・長谷川ヨシテルさんの、さすがタレントというこなれた司会のもと、各々の推し城や「関東VS関西」といった議論が、熱くも軽やかに行われた。

戦国武将好きの人、天守に惹かれる人、撮影が趣味の人など城好きにもさまざまなタイプがいるように、お城EXPOの内容もド真面目からエンタメまでバラエティにあふれていた。コンテンツの多様さこそが、城ファンをここまで楽しませている秘訣だろう。「厳選プログラムを聞いているとブースをなかなか回れなくて。でも明日も明後日も来るのでじっくり見ます!」(40代・男性)という声もあったとおり、右も左も城にあふれるお城EXPOは、とても1日ですべてを見切ることができない。本記事でも、2日目・3日目のレポートの中で、さらにコーナーやプログラムを紹介していくことにしよう。

執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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