お城ライブラリー vol.2 後藤徹雄著『城壁〜石積みの肖像』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、ひたすら石垣の勇壮と畏怖を追及した写真集『城壁~石積みの肖像』。



「城の魅力」と「石の魅力」の両立

「石垣(著者の言い方では石積み)の写真集」、一言でいえばそれだけの一冊だ。ページをめくってもめくっても、石で築かれた「城壁」の写真ばかりが登場する。興味がない人にとってはただそれだけなのだが、城跡を訪れて高石垣の迫力に興奮と畏敬の念を抱いたことがある人ならば、または先人の果てしない作業量に思い至ったことがある人ならば、さらには実用の産物である石の組み合わせに美的な何かを感じたことがある人ならば、写真集をめくる手はどこかのページで止まり、その石積みを注視してしまうことだろう。

職業写真師である著者はあとがきで、「はじめは名所旧跡を訪ねるごく普通の旅でした。しかし、数を重ね、城のことを知るにつれ、視線は『石積み』に引きつけられていったのです。そしてついには石の写真ばかり撮るようになってしまいました」と語っている。「城の魅力」から「石の魅力」へ。確かに掲載された石垣の写真はすべて、石材一つ一つが際立っている。本書は写真に城名を記すキャプションが記載されていない。巻末の一覧表を見れば何城かはわかるのだが、写真に城名を記載しないというのは、本書のコンセプトをよく表している。城本として、地域順や時代順に並べたくなるところだが、読者にとっては順不同。著者の矜恃を感じられる。

著者は「旅先で出会った城石は、実に様々な表情で私を迎えくれました」とも記している。日本中に城は無数にあれど、同じ石材を使ってまったく同じ積み方をした石垣は一つたりともない。悠久の歴史を経たことで、痛み、風化し、苔生し、自然と調和し、さらに味わい深くなっていく。この写真集の石垣の表情に触れたあとで実際の城を訪れたら、これまでとは石垣の見え方と城の風景が、多少なりとも変わっているはずだ。
 
主役はあくまでも城ではなく「石」。そんな城鑑賞があってもいい。

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[著 者]後藤徹雄
[版 元]エイアールディー
[刊行年]2017年


執筆者/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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