お城ライブラリー vol.1 宮城谷昌光著『風は山河より』

お城のガイドや解説本はもちろん、小説から写真集まで、お城に関連する書籍を幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、中国古代小説の大家・宮城谷昌光氏が郷里の城と城主を題材にした『風は山河より』をご紹介します。



三河出身の宮城谷昌光が郷里を題材に採った作品

古代中国小説の書き手として右に出る者がいない宮城谷昌光が、初めて日本史を題材に採った小説が、奥三河の野田城を本拠とした野田菅沼家三代の物語である。菅沼定則・定村・定盈と三代にわたる一族と家臣団の物語を表の軸として、松平清康・広忠・家康の松平三代の悲劇と躍進を裏ストーリーに据える構成。今川・織田という大国に挟まれながら、小国の松平家はどう生き残るのか。その松平家に賭けた菅沼三代の活躍と葛藤を、三河地方に点在する城郭を舞台にしながら描き、武田信玄の猛攻を受けながら寡兵で守り抜いた「野田城の戦い」をクライマックスとする。

宮城谷作品は、現代人の感覚で登場人物を動かすのではなく、丹念に史料をあたり、可能な限り当時の人びとの考えを推測し、名前の呼び方、言葉遣い、挙措の隅々までを再現する。そのことは日本を舞台にした本作でも変わりなく、土地や言葉に馴染みがある分、戦国時代の三河の風土、臭いが濃厚に感じられる作品となっている。

武田信玄の西上作戦で武田の精鋭3万に囲まれ、わずか400の兵で約1か月守り抜いた野田城の戦いには、ある伝説が伝えられている。毎夜、奏でられる美しい笛の音に誘われた武田信玄が、城内から狙撃されて致命傷を負ったというエピソードであり、映画『影武者』の題材となった。菅沼勢の抵抗に手を焼いた武田信玄は、力攻めを避けて金堀りを仕掛け、水の手を断つ作戦で城を落とした。現在でもその穴の跡を見ることができる。

宮城谷氏は執筆のために三河地方の城跡を多く取材しており、それについては『古城の風景』(新潮文庫)というエッセイにまとめている。改めて、こちらの書籍も取り上げたい。

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[著 者]宮城谷昌光
[書 名]風は山河より(一)~(六)
[巻 数]全6巻
[版 元]新潮社(新潮文庫刊)
[刊行年]2009年(単行本は2006〜7年刊)


執筆者/かみゆ歴史編集部(丹羽篤志)
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなどを中心に、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける。城関連の最近の編集制作物に、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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