萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第62回 鬼ノ城 圧巻!断崖絶壁にそそり立つ古代の城壁

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届けする「萩原さちこの城さんぽ~日本100名城と続日本100名城編~」。62回目の今回は、桃太郎伝説ゆかりの古代山城・鬼ノ城(岡山県)です。山頂を取り囲むように築かれた壮大な城壁など、古代山城ならではの見どころを紹介します。

鬼ノ城、角楼跡
角楼跡から見渡す西門と総社平野

桃太郎伝説が残る「古代山城」

かつて吉備と呼ばれた岡山には、吉備津彦命が温羅(うら)という鬼を退治した伝説が語り継がれています。昔話・桃太郎のもとになったといわれる説話です。鬼ノ城は、その温羅の居城とされる城。古くから伝わる吉備津神社の縁起にもその名が登場し、大軍を率いて吉備に降り立った吉備津彦命は吉備の中山に陣を構えたと伝わります。

鬼ノ城は、7世紀後半に九州北部から西日本にかけて築かれた古代山城のひとつです。天智2年(663)に朝鮮半島で起きた白村江(はくすきのえ)の戦いで、百済と同盟を結んだ日本(倭)は唐・新羅連合軍に大敗。すると、大和政権は亡命した百済貴族を登用し、国防のための城づくりを指導させました。

「日本書紀」などに記載されている古代山城は「朝鮮式山城」、鬼ノ城をはじめ文献に記載のない城は「神籠石(こうごいし)系山城」と区分されます。神籠石系山城はいつ誰がどのような目的で築いたのか不明ですが、近年では朝鮮式山城と同じ目的で築かれたとされています。

鬼ノ城、版築土塁と西門
復元された版築土塁と西門

版築土塁と敷石、迫力ある石塁が見どころ

古代山城の特徴は、山頂を取り囲むように城壁が築かれていることです。鬼ノ城の見どころも、石塁と土塁が一体化した壮大な城壁です。折れ曲がりながら4つの谷を包摂して鉢巻き状に続きます。城のある鬼城山はすり鉢を伏せたような形状で、城壁はなだらかな斜面から急斜面へと変わる山の8〜9合目あたりの傾斜変換点付近に築かれています。城壁の全長は約2.8キロ。9割が版築土塁や自然地形を利用したもの、残りの1割は石塁です。

とにかく、城からの眺望が見事です。登城口となる鬼城山ビジターセンターから5分も歩けば、角楼跡や復元された西門に着きます。ここから望むパノラマ風景を見るだけでも、訪れた甲斐があるというものです。鬼ノ城は、吉備高原南端の標高約400メートルの鬼城山に位置し、かつて官衙(かんが)や寺院などが造営されていた総社平野が一望できます。東西に往来する船を見張ることもできたでしょう。総社平野の南端には古代山陽道が通り、吉備の津から瀬戸内海への海上交通も便利。古代山陽道の背後を守るように位置するこの城は、政治・経済・文化・交通の要地を一望できる場所だったと想像できます。

城の面積は約30ヘクタールに及ぶため、時間に余裕を持って訪れるのがおすすめです。見どころを絞るなら、版築土塁と敷石、そして迫力ある石塁です。防御上の正面にあたる総社平野に面する城壁の中でも、城の東側に突き出す「屏風折れの石垣」と呼ばれる高い石塁は必見です。

鬼ノ城、石垣と敷石
西門から第0水門の方向に向かって続く石垣と敷石

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)、「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)など。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

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