全国規模のお城イベントのパイオニア「お城EXPO」はこうして生まれた

今年7回目を迎える「お城EXPO」は、今やお城ファンにとって恒例の一年を締めくくる日本最大級のお城イベントとなっています。毎年横浜(神奈川県)で開催されますが、2020年からは、滋賀県や広島県など「出張!お城EXPO」として「出張版」が開催されるようになり、ますます盛り上がりをみせています。今回はそんな「お城EXPO」誕生当時のお話と未来への展望をお城EXPO実行委員会の皆さんに取材しました。

城びとは「お城EXPO」の公式メディアです。同時に、主催する「お城EXPO実行委員会」のメンバーでもあるので、イベント出展時等に、「どうしてお城EXPOって始まったんですか?」「なんでいつも横浜で開催しているの?」というような質問をお城ファンの方からいただくことが少なくありません。そこで今回、2016年の初開催時を知るお城EXPO実行委員会のメンバーに「お城EXPO」が誕生したきっかけや今後の展望などを取材しました。

お城EXPO2022,城びと
開催第1回から関わっている猛者たち! お城EXPOを主催するお城EXPO実行委員会は、(公財)日本城郭協会、 城びと〈(株)東北新社〉、(株)ムラヤマ、パシフィコ横浜という4つの企業・団体から構成。今回は、荒川正樹さん(日本城郭協会)、仙田志保さん(城びと(東北新社))、藤田博樹さん・山野井健五さん(ムラヤマ)、馬鳥誠さん(パシフィコ横浜)に取材

ビジネスの場で偶然お城好きが出会ったことが「お城EXPO」誕生のきっかけ

実は、「お城EXPO」誕生のきっかけは、お城とは何も関係のないビジネスの場で、お城好き同士が出会ったことから始まりました。

「お城の話をし始めた荒川さんの『あそこの堀切がすばらしいよね!』の“堀切”という単語に、『同類だ!』と分かりました」(馬鳥さん)

馬鳥さん(パシフィコ横浜)は子どものころからお城好き、今でも旅の目的はお城!と言い切るガチ勢だそう。お城めぐりが趣味の荒川さん(2015年当時:ムラヤマ、現:日本城郭協会)とすぐに意気投合。

「当時は日本全国のお城を集めた大型のお城イベントはなかった。お城好きである自分達にしかできない、お城ファンの理想が詰まったお城イベントを開催しようと誓い合いました」(荒川さん)

荒川さんは、お城ファンに向けたコンテンツを充実させるべく、コンテンツ制作やPRを含めて、仙田さん(東北新社)に参画を呼びかけました。

「私自身は、当時はお城に関する知識はありませんでしたが、弊社がお城番組の制作をしていたほか、当時は歴史系の衛星放送チャンネルが関連会社にあったことなどもあり、魅力的なコンテンツにぜひ一緒にやりたい!と思ったことを覚えています」(仙田さん)

さらに、どのようなコンテンツにしていくのか打ち合わせを進める中、お城に関する啓蒙活動も重要と考えていた日本城郭協会もその趣旨に賛同し、参画することになりました。

目指すは「今までにないお城ファンのためのイベント」

「お城EXPOは今までにないお城ファンのためのイベントにしたい!」
ということで、理想としたのは、お城の情報を入手できるだけでなく、文化的価値や地域での存在意義などを包括した「全方位型お城イベント」。専門家による講演はもちろんのこと、日本各地のお城の「出城」的なブースエリアをつくって現地にしかないお城の情報を入手できるようにし、お城について学べる展示や企画展示もする。「お城」だけでなく、お城がある土地の歴史やお城に関する文化含めて、あらゆる方面の「お城の魅力」を詰め込んだ内容を目指したのです。
 
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お城EXPO 2021の様子(画像:たけ◎曲輪衆さん)。イベントの模様はこちらの記事をどうぞ!➡「お城EXPOを楽しむヒントも!参加5回目の城びとアンバサダーが当日をレポート」https://shirobito.jp/article/1502

本当は「夏」に開催予定だった!?

2016年1月にお城イベントの立ち上げをし、開催日は休みの期間がいいということで、当初は夏休みに開催したいと準備を始めました。…が、さすがに新規のイベントを準備するには、期間がなさすぎるとのことで、開催予定を夏休みから冬休みに変更し、2016年の12月の3連休に定めました。

志高く、思いは熱く開催に向けて動き出したものの、クリアしなければならない課題は山積み。たとえば、各地のお城のブースにしても、募集に対して応募してくれたお城は2城だけだったのです。
 
お城EXPO2022,城びと

「2城だけではイベントは成り立ちません。『待っているだけではだめだ』と実際にお城に赴いて、お城EXPOについて思いも含めて説明。イベント参加をお願いすることを繰り返し、最終的にはなんとか15城の出展を確保しました」(藤田さん(ムラヤマ))

コンテンツについては、お城の専門家の方々による講演やワークショップと、お城の模型の展示や日本100名城のパネルを制作して展示をすることまでは決まりましたが、他にどんな展示がいいか悩んだそうです。
 
お城EXPO2022,城びと
お城ファン憧れの専門家が次々と登壇する厳選プログラム。これを目的にお城EXPOに参城するファンも多い

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日本城郭協会主催「小・中学生 城の自由研究コンテスト」の優秀作品を展示し、大人顔負けの力作を紹介(画像:小城小次郎さん)

学術的な面とはまた違った角度でお城文化を伝えるため、地元のお城でPR活動に励む武将隊にもステージ出演を依頼しました。

お城EXPO2022,城びと
普段は名古屋城でお城を盛り立てている名古屋おもてなし武将隊®もこの日は横浜に出陣!

また、2016年は熊本地震があった年。お城のイベントをやるならば、被害甚大な熊本城を応援する企画がやりたいということで、熊本城復興支援コーナーを設けました。

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 2016年のお城EXPOに設けられた熊本城復興支援コーナー。崩れた石垣の石が雄弁に被害の甚大さを伝えました

「熊本城の石垣の石が崩れているということもニュースになっていたので、その石を展示して、復興支援を呼び掛けてはどうかと考え、実施しました」(仙田さん)

「ただ、これは運送費がものすごくかかってしまった面もありましたね。でもこれが縁となって、大人気のご当地キャラ「くまモン」の出演が決まりました」(藤田さん)
 
お城EXPO2022,城びと
お城EXPOのブースでは、個性豊かなご当地キャラやおもてなし武将隊に出会えるのも魅力。右は名古屋おもてなし武将隊®(画像:たけ◎曲輪衆さん)

その後、お城のご当地キャラで人気絶大の「ひこにゃん」にも来てもらえることに! 実はこの時より昨年の6回目まで、くまもんとひこにゃんはお城EXPO皆勤賞! お城EXPO立役者の一角を担っているのです。
(今年の参城は…? と気になる方も多いかと思いますが、今後の発表をお待ちください!)

「お城EXPO」じゃなかったかもしれない!?

お城EXPO2022,城びと

コンテンツの準備を進めるのと同時に、そもそものイベント名やロゴの準備も進めていきます。当時の資料を見せてもらうと、「城CON」「城フェス」・・・・10個以上の名称がズラリと並んでいますが、「お城EXPO」の文字は・・・あ、リストのはじっこに小さく手書きメモが「城EXPO」の文字が!

「色々考えていた中で最初は「城CON」かな思っていて、資料も仮で「城CON」と入れていました。CONはコンベンション。でも、最初の実行委員会で「お城EXPO」がいいんじゃないの、と」(荒川さん)

名称が決まると、次はロゴです。城の石垣を模した中に「城」の文字が浮かび上がる「お城EXPO」のロゴは、本当に色々な方にそのデザインを誉めていただくことが多いです。
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「ロゴも色々候補がありました。弊社には複数のデザイナーがいるので、それぞれにデザインを考えてもらって。その中で選ばれたのが、現在のロゴです。そのロゴをデザインしたデザイナーによると、アイデアが降りてきて5分もかからずに完成したという話をしていました」(仙田さん)

また、現在ではお城EXPOといえば、「EXPO城」といわれるお城のイラストがシンボルですが、このイラストは実は2回目の開催のために制作したそう。
「どこのお城にも似せられないから、架空のお城をつくるのが大変でした!」と、実行委員会の皆さんは声を揃えます。

「実際にはありえない構造と言われます(笑)。特定のお城ではなく、どこにもないお城にしなくてはならないから、『この欄干は●●城のものになってしまう』とかいろいろ大変でした」(仙田さん)

「いわゆる墨絵のような絵にすることもできましたが、開かれたイベントとして、いろいろな人に来てもらいたいという思いから、荘厳なイメージではなく、やわらかい感じのデザインにおちつきました」(藤田さん)
 
お城EXPO2022,城びと
「お城EXPO 2022」のメインビジュアル。実は2020年からマスクをしています

そのイラストを見ていると印象的なのが大きな門です。

「門はね。初年度は、もんのすごい気合の入った門を異なるデザインで複数作りました。その時の名残です。その分かなり費用がかかってしまって。その分を他のコンテンツにということで、門が一番立派だったのは、実は初年度なんです」(藤田さん)

 
お城EXPO2022,城びと
願いがこもった歴代ポスター。この中に見られる門が初年度の立派な門。イラストの中に生き続けています(『日本城郭協会史1955-2022 昭和・平成・令和のあゆみ』より)

「お城EXPO」にしかできない、水平視点のテーマ展示を

お城EXPO2022,城びと

お城EXPOではテーマ展示も毎年実施しています。「熱心なお城ファンやお城に関連する文化財課などの人たちに恥ずかしくないテーマ展示をしなくてはいけない」と語るのは、展示部分を中心になって手掛けている山野井さん(ムラヤマ)です。

「見てくださるお城ファンの方に、お城に真剣に向き合っていることが伝わるものでなくてはいけないと考えています。展示もある一点に注目しただけのものではなく、俯瞰的にとらえることができるような、そんなものができないか、模索しています」(山野井さん)

これといったお城ファンの反応なく迎えた初日、行列に一同感動

手探りながらもできる限りの準備をして、なんとか「お城EXPO」と言ってよい形に完成させた当日。実は、イベント間近になっても、お城ファンの反応はあまり感じられない上、チケットの売れ行きもよくなく、不安の中で初日を迎えたそうです。
 
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ところが!
当日の朝、実行委員会メンバーが目にしたのは、開城を待つ人の行列。しかも、電車が到着する時間ごとに、その数はどんどん増えていきます。

「行列なんて、夢にも思っていなかったので、本当にびっくりした。続々と増えていくお城ファンの皆さんの姿に、始まる前にイベントの成功を確信できたほどです」(全員)

蓋を開けてみれば、開催3日間で約1万9千人の来城者が!しかも、「お城EXPO」がツイッターのトレンド1位になったほど、反響は大きいものでした。各地のお城ブースでは用意したチラシが初日の午前中ですべてなくなってしまい、慌てて印刷を手配する嬉しい悲鳴であふれたそうです。
当日の様子をレポートした記事はこちら➡https://shirobito.jp/article/197

お城EXPOの一番の思い出は?

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コロナ蔓延防止策の一つ(2020年)、首里城応援メッセージ寄せ書き(2019年)、インターナショナルラウンジの様子(2019年)、赤色立体地図と模型(2020年)。(画像:小城小次郎さん、たけ◎曲輪衆さん)

お城のフォトコンテストや、首里城復興応援企画、外国の方向けのインターナショナルラウンジや、講演会のオンライン配信、赤色立体地図と模型のコラボなど、「お城EXPO」は工夫をこらしながら回を重ねています。これまで関わってきた中での一番の思い出を伺うと、「なんといっても初年度の行列が忘れられない」とみなさん口をそろえます。さらにこのような思いも…

「2020年のコロナ禍での開催ですね。感染拡大防止にできる限りの対策をして、なんとか開催できたのは大きかったと思います。」(馬鳥さん)

「毎年会場に1日中いて、最後までパンフレットを丁寧に整理しているお客さん方の姿です。来てくれる人の大事な思い出に関われるのがいいなあ、と毎年思います。」(仙田さん)
 
お城EXPO2022,城びと
事前に約束をしてお城EXPOで集まるお城ファンたち(画像:たけ◎曲輪衆さん)

これからどうなる?「お城EXPO」未来への展望

会場や開催日数の変更、コロナ禍などさまざまな課題をクリアしながら2022年で7回目を迎える「お城EXPO」。最後に今後の「お城EXPO」に対するみなさんの展望を伺いました。

「『年末にお城EXPOに行って一年を締めくくる』というありがたい言葉も多く聞かれるようになりました。一定程度、存在を確立できたかなと思っています。今後は外国のお城ももっと積極的に紹介していきたいですね。逆に外国に日本のお城を紹介していくのもいい」(馬鳥さん)

「ヨーロッパ100名城の紹介をちゃんとやりたい。それから、来城者参加型の要素をもっと増やしたいですね」(荒川さん)

「エンターテイメントとの融合を進めていきたいです。ゲームコンテンツ性との融合。あとは、ほかの方と同じく、海外に対して日本の文化としてお城を紹介していきたい」(藤田さん)

「多くの要素があるイベントだからこそ、テーマ展示はそれぞれをつなげる内容にすることを心掛けています。コアなお城ファンも、あまりお城の知識がない人も来るイベントだからこそ、それぞれのレベルにあわせて横のつながりを感じられる内容にしたい。お城を理解するのにさまざまな視点があることを伝えていきたいです」(山野井さん)

「コアなお城ファンと、そこまで詳しくなく単純に興味があるくらいの層と、今後ますます来城者が二極化していくと思います。特に後者に対して、お城についてさらに知ってもらえるような要素を、子どもたちに向けては教育的要素をもっと入れていきたいと思います」(仙田さん)
 
お城EXPO2022,城びと

長い年月、さまざまな苦難を乗り越えて今に残るお城たち。実行委員会のみなさんのお話を伺い、「知恵と技術と情熱で、本物のお城のように今後ますます充実しながら続いていくに違いない!」と確信しました。
今年の「お城EXPO」は12月16日(金)~18日(日)。みなさんもぜひ、城熱(じょうねつ)を燃やしにいらしてください!

最後に、余談ですが初回のお城EXPOのお城ファンの熱量を目の当たりにして、何かお城ファンの皆さまとつながれるようなことができないか…と立ち上がったのが、「城びと」です。「お城EXPO 2017」でデビューしました!! 城びとのアイコンやシローくんのデザインは、「お城EXPO」のロゴのデザイナーが生みの親なのです。というプチトリビアで締めくくります!

執筆/城びと編集部 画像提供/お城EXPO実行委員会

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