萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第49回 滝山城 全国屈指の秀逸な縄張!東京の隠れた名城

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届けする「萩原さちこの城さんぽ~日本100名城と続日本100名城編~」。49回目の今回は、東京都内にある戦国時代の城・滝山城。城初心者でも気軽に楽しむことができる立地にあり、さらに上級者をも唸らせる築城技術の高さを堪能できる、訪れるべき名城たるゆえんについて見ていきましょう。

滝山城
二の丸南側の横堀と土橋

東京都内に残る、全国屈指の奇跡の名城

滝山城は、東京都内にある戦国時代の城のなかでも、初心者から上級者まで満喫できる名城です。山城初心者におすすめできるおもな理由は、①標高がさほどない、②公園として整備されていて歩きやすい、③山を要塞化した痕跡がよく残り、戦国時代の城の醍醐味が存分に味わえる、の3つです。

そのうち③が、滝山城が名城たる理由。ダイナミックな横堀や土塁、土橋などの防御施設はかなり良好かつ膨大に残っていて見ごたえがあります。公園にこれほどの城の痕跡が残っているのは奇跡といってもいいでしょう。滝山城の縄張(設計)は全国的にみても秀逸で、縄張を読み解ける城ファンも唸るほどの技巧性を誇ります。さすがは北条氏照の城です。

城は谷地川を境にして南北に分かれる加住丘陵の北丘陵の突端付近にあり、本丸はその標高約169メートル地点。南麓には鎌倉道が通ります。北側は多摩川に面し、急崖や侵食谷を巧みに取り入れています。

滝山城、横堀
小宮曲輪下の横堀

長大な横堀、虎口と馬出の連動、戦国屈指の設計の妙に注目

城域は広大で見どころは語りつくせませんが、ポイントを2つ挙げるなら、「縦のライン=高低差」「横のライン=屈曲」を意識してみるといいでしょう。

滝山城は、比高のなさをカバーすべく、長大な横堀を執拗に這わせて城を囲い込んでいるのが大きな特徴です。高低差に着目すると、すさまじい土木工事量が感じられるはずです。しかも、折れや張り出しを駆使することで道筋を複雑化し、敵を効率的に迎撃できる設計になっています。几帳面なほどに折れがつけられ、横矢掛かりが徹底的に意識されています。

最大の特徴は、枡形虎口と馬出を多用していること。これぞ、戦国屈指の築城技術が評価される、北条氏の城の真骨頂といえるでしょう。北条氏の角馬出は、虎口とセットで機能させることをはじめから想定して設けているように感じられます。これらを絶妙に配置することで、敵を集約して横矢を掛けるのがこの城の防御方法といえそうです。構造パターンとしてはシンプルで整然とした縄張ですが、実に巧妙に仕上がっています。

もっとも唸らされるのは、二の丸周辺です。3つの尾根の収束点にあり、緻密な設計が集約された防御の要といえるでしょう。三方向の尾根上にある曲輪のほか、城を取り囲む長大な横堀とも連動していて、いずれの方向から侵入されても必ず二の丸南側の細長い曲輪に集結させる構造。通路と横堀のハブターミナルのような存在です。このエリアは、馬出を階層的に設置した、全国的にも類を見ない秀逸な縄張。連携させた馬出の威力を思い知らされます。

滝山城、二の丸
二の丸南側

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)、「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)など。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。

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