明智光秀とその周辺|小和田哲男 第10回 安土の左義長から京都御馬揃えへ

本能寺の変で織田信長を討った武将として知られ、2020年・2021年放送のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公として描かれた明智光秀。連載講座「明智光秀とその周辺」では、ドラマの時代考証を担当される小和田哲男先生が、光秀の生涯に影響を与えた人々や出来事に全12回でスポットライトを当てていきます。第10回は、織田信長が天皇の御前で盛大に行った「京都御馬揃え」。いまだ謎に包まれているその目的と、光秀がどのような形で関わったかを、当時の資料から紐解きます。(※2021年1月27日初回公開)

光秀が中心になって準備した安土の左義長

左義長(さぎちょう)とはあまり聞き慣れない言葉であるが、字は三毬杖、三毬打、三鞠打などとも書かれる。小正月に行われる火祭り行事で、現在でも、どんど焼きや御幣(おんべ)焼きなどという形で残っている。

この左義長を、信長は天正9年(1581)正月15日、安土城下で盛大に催しており、その準備にあたったのが光秀だった。それは、左義長が終わったあとの正月23日付光秀宛の信長朱印状(「士林証文所収文書」『織田信長文書の研究』下巻)に、「先度は、爆竹諸道具こしらへ、殊きらびやかに相調え、思ひよらずの音信、細々の心懸神妙に候」とあることによって明らかである。

ここに「爆竹」とあるが、単なるどんど焼きとちがって、小さな竹筒に火薬を入れて、それをいくつか束ねて爆竹を作り、信長の馬廻りの家臣たちが馬に乗って城下に繰り出し、爆竹を鳴らしながら走りまわった様子がうかがわれる。『信長公記』にも「見物群集をなし、御結構の次第、貴賤耳目を驚かし申すなり」とみえる。

安土城下
左義長と呼ばれる火祭り行事が安土城下で盛大に催され、好評を博した

そして、この安土での左義長が人びとに好評だったことから気をよくした信長が、これを京都でもやりたいといいだしたのである。つまり、この安土の左義長が1ヵ月少しあとに行われる京都御馬揃えにつながっている。それは、『信長公記』に「正月廿三日、維((惟))任日向守に仰付けられ、京都にて御馬揃なさるべきの間、各及ぶ程に結構を尽し罷出づべきの旨、御朱印を以て御分国に御触れこれあり」とあることからもうかがわれる。安土の左義長を取りしきった光秀が京都御馬揃えの総括責任者に任命されたのである。

京都御馬揃えのねらいは何か

その信長朱印状には、京都で馬揃えを行う目的を、「京にてハ、切々馬を乗り遊ぶべく候。自然わかやぎ、思々の仕立有るべく候」としている。つまり、京都の公家や町衆たちに、織田軍団の面々が馬を乗り遊ぶ、その若やいだ姿をみせて喜ばせたいというのである。ただ、それだけでは、正親町(おおぎまち)天皇を臨席させるねらいはわからない。

この件について、従来は正親町天皇に織田軍団の威容をみせつけ、朝廷に対し、何らかの圧力をかけるのが目的とする考え方が主流だった。ところが最近は公武対立説ではなく、公武協調説を唱える研究者がふえてきている。

では、公武協調説だと、この年2月28日の京都御馬揃えのねらいは何だったと考えられるのだろうか。この点について堀新氏は「信長の動向―朝廷との関係を中心に―」(安部龍太郎ほか著『真説本能寺の変』)において、京都での誠仁親王生母新大典侍(しんおおすけ)の死にともなう沈滞ムードの中、三毬打の省略が続いたとき、「このような重苦しい雰囲気のなか、安土での馬揃の評判を聞いた朝廷側が、自発的に京都馬揃を望んだのであろう」と、朝廷側からのリクエストだったとする解釈を示している。

京都御所
信長は京都御所の東門外に馬場を設け、天皇の御前で馬揃えを行った

私自身は、最近の、信長と朝廷の協調とする考え方に賛成しつつも、この京都御馬揃えについては、「それだけではないのではないか」と、若干の異論がある。

その論拠は二つあり、一つは、この京都御馬揃えの日、信長が、正親町天皇や公家、さらに多くの町衆たちが見守る中、「きんしや」を身につけて馬に乗って現れたという点である。これは錦紗あるいは金紗と思われるが、中国の皇帝が身につけるもので、それをわざわざ着て出たということは、天皇に対する一種の圧力ではないかと考えている。

そしてもう一つは、この京都御馬揃えの行進に邪魔だということで、内裏東南隅の鎮守社を取り壊させている点である。天皇側のリクエストなら、こうしたことはしなかったのではなかろうか。

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執筆/小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会  理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。
著書 『戦国武将の手紙を読む 浮かびあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
   『明智光秀・秀満』(ミネルヴァ書房、2019)ほか多数
   ▶YouTube「戦国・小和田チャンネル」も配信中