お城の現場より〜発掘・復元最前線 第32回【鳥取城】地域に誇りをもたらす復元大手門

城郭の発掘・整備の最新情報をお届けする「お城の現場より〜発掘・復元・整備の最前線」。第32回は、大手登城道の復元が進む鳥取城(鳥取県)について、鳥取市教育委員会文化財課の岡垣頼和さんが紹介します。

鳥取城、復元
棟梁の発声に合わせ紅白綱を引く上棟式参列者

伝統工法でよみがえる大手門

鳥取城が羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)の兵糧攻めの舞台となったことは、あまりにも有名だが、江戸時代300余藩あるなか上位12番目の石高を誇る居城であったことは、地元住民、とりわけ若年層を中心にあまり浸透していない。まして、鳥取池田家藩祖である池田光仲(いけだみつなか)が徳川家康の血を引く曾孫であったことは、歴史好きでもなければ日々の暮らしのなかで知る由もない。

現在、本市は一層の郷土愛の醸成や地域の魅力向上を図るため、二ノ丸三階櫓の復元を盛り込んだ「史跡鳥取城跡附太閤ヶ平保存整備基本計画(平成18年策定)」に基づき、第一段階として大手登城路の復元整備にあたっている。平成30年(2018)に竣工した国内最長クラスの城郭復元木造橋「擬宝珠橋」に続き、令和元年(2019)11月より鳥取城の大手門にあたる「中ノ御門表門」の復元に着手し、令和3年(2021)3月の竣工を目指して現場はいよいよ大詰めを迎える。

鳥取城、大手門、大手登城路
左:櫓門さながらの門構えをみせる鳥取城大手門(CG提供:戸田建設株式会社)/右:慶應2年~明治4年撮影の鳥取城大手登城路

鳥取城大手門最大の特徴は、桝形虎口の利用方法にある。大手門の創建は元和7年(1621)と推測され、「武家諸法度」が施行された直後となる。よって、厳しい規制のなか幕府から32万石を賜った鳥取城は、大手門に最大の個性を持たせる工夫を凝らしている。

同年代に築城された大手門といえば、桝形虎口中央に高麗門を配し両脇に袖塀が掛かる例が散見されるなか、鳥取城のそれは、桝形虎口幅いっぱいに高麗門を構え、袖塀となる土塀はというと、高麗門の大屋根と棟を揃えて桝形石垣天をめぐる。高麗門が虎口を満たすことから、寄掛柱が桝形石垣に取り付くわけだが、櫓門さながらの門構えは、大手門として堅牢な印象を持たせる。

鳥取城、瓦
左:鳥取城出土瓦/右:復元瓦

復元の根拠となるのは、平成21年(2009)より続く発掘調査と、明治4年(1871)以前に撮影された大手登城路古写真、絵図文献史料等による。なかでも10年以上にもおよぶ大手登城路の発掘調査では、鳥取城ならではの成果を数多く挙げており、とりわけ中ノ御門周辺から集中して検出された葵紋の軒丸瓦からは、外様大名の居城でありながらも徳川幕府に厚遇された鳥取藩の繁栄ぶりが偲ばれる。

鳥取城、大手門
鳥取城大手門遺構検出状況(右:近代以降の排水整備による攪乱)

大手門周辺の遺構保存状況は良好で、近代以降の攪乱は一部にとどまる。被熱を受けた主要礎石のほぼすべてを検出したことから、享保5年(1720)の大火によって焼失し、同年中に再建された大手門が創建時の平面形を踏襲していることが明らかとなった。本復元整備においてはオリジナルの礎石を使用し、江戸期の遺構面直上で整備を行うことから、基礎部等に現代工法を用いることなく江戸時代の伝統工法を基調とすることで、遺構の保護に努めている。

実に300年ぶりに行われた大手門の上棟式

鳥取城、大手門
「槌打の儀」により棟木を固めるとともに鳥取の繁栄を祈願

去る令和2年(2020)10月25日、鳥取城大手門は実に300年ぶりの上棟式を迎えた。秋晴れのなか、一昨年度竣工した擬宝珠橋を式典会場とする抜群のロケーションで行われ、コロナ禍にもかかわらず、堀端には県内外から棟上げを祝おうと約600名の観覧者が集まった。大手門棟木中央には幣串(へいぐし)が立ち並び、両端に色彩豊かな破魔矢が天地を睨む。大手門の軒高まで組み上げられた祭壇には伝統装束を身にまとった工匠が袖を連ね、古式にのっとり「曳綱の儀(ひきつなのぎ)」、「槌内の儀(つちうちのぎ)」、「撒餅・撒銭の儀(さんぺい・さんせんのぎ)」が行われ、大手門の永久堅固と本市の繁栄を祈願した。

来春には鳥取城登城路に全長10.2m、全高4.9mの大手門がひらかれる。軒先には出土瓦に基づき精巧に復元された葵紋瓦が連なり、32万石を誇った鳥取藩の栄華を未来に伝えることとなる。


鳥取城(とっとり・じょう/鳥取県鳥取市)
「日本にかくれなき名山」と称えられる久松山に築かれた堅城。羽柴秀吉の兵糧攻め「鳥取飢え殺し」の舞台として知られる。江戸時代には姫路城大天守を築いた池田輝政の孫・光政が山麓部を整備し、「姫路城の弟城」とも言われる大城郭に改修された。

執筆/岡垣頼和(鳥取市教育委員会文化財課 主任(建築技師))
写真提供/鳥取市教育委員会文化財課

関連書籍・商品など