明智光秀とその周辺|小和田哲男 第5回 足利義昭と織田信長を結びつけたのは光秀か

本能寺の変で織田信長を討った武将として知られ、2020年・2021年放送のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』では主人公として描かれた明智光秀。連載講座「明智光秀とその周辺」では、ドラマの時代考証を担当される小和田哲男先生が、光秀の生涯に影響を与えた人々や出来事に全12回でスポットライトを当てていきます。第5回は、いよいよ光秀が初めて歴史上の表舞台に現れたエピソード。足利義昭と織田信長の橋渡し役となった逸話の真実に迫ります。(※2020年8月19日初回公開)
「明智光秀とその周辺|小和田哲男」

足利義昭の「足軽衆」となる

足利義昭は、朝倉義景の力で、すぐ上洛の軍をおこし、自分を将軍の座につけてもらえると考えていたようである。ところが義景を頼って越前に転がりこんできたものの、義景は全く動こうとしなかった。

ちょうどそのころ、越前一向一揆との戦いが本格化し、動くに動けなかったのと、もう一つ、個人的理由というか、家庭の事情もあった。義景が寵愛していた小宰相(こざいしょう)が亡くなり気落ちしてしまったのである。

そこで、義昭・藤孝主従は義景を見限り、新たな庇護者を捜すこととなった。目をつけた相手が織田信長である。信長には、義昭が越前に転がりこむ前に頼ろうとしたことがあったが、信長と斎藤龍興との戦いが本格化して、そのときは不発に終わっていた。

一乗谷朝倉館址
足利義昭は越前の朝倉義景を頼って一乗谷に滞在し、上洛の機会を伺った(写真は一乗谷朝倉館址)

その後、永禄10年(1567)8月15日、信長が稲葉山城(岐阜県)を攻め落とし、美濃まで勢力を伸ばしてきたという状況をみて、義昭・藤孝主従は再度、信長を頼ろうということになったのである。そして、そのとき、信長との橋渡し役を買ってでたのが光秀だったと考えられる。

近世細川家の編集した『綿考輯録』(別名『細川家記』)に、このとき光秀が藤孝に「我等、彼室家(しっか)に縁ありて、頻(しきり)に招かれ、大禄を授ん」と、信長から誘われていることを語っていたというのである。光秀のいとこの帰蝶が信長の正室となっているので、これはありうる話である。

一乗谷城下
国の特別史跡に指定されている一乗谷城下町

足利13代将軍義輝、15代将軍義昭二人に関する史料に「永禄六年諸役人附」という表題のものがある。本来の正式名称は「光源院殿御代当参衆幷足軽以下衆覚」というもので、前半が永禄8年(1565)5月19日に三好三人衆らに襲われて殺された義輝段階のもので、後半が同10年(1567)2月から翌11年(1568)5月までの義昭の政権構想を描いたものとされており、そこに「足軽衆」として「明智」と出てくる。これが光秀である。

足軽というと、どうしても雑兵としての足軽がイメージされるが、そうではなく、幕臣の中で下級家臣という意味である。つまり、そのころ、光秀は義昭付の家臣の一人となっていたことがうかがわれる。

信長との交渉にあたる光秀

そこで、義昭の意を受け、光秀が信長との交渉にあたることになるが、いかに信長正室帰蝶のいとことはいえ、当時の身分制からしても、光秀が前面に出ることはできず、藤孝の使いとして動くことになる。そのことを示すのが、次の細川藤孝宛信長書状(「横畠文書」『織田信長文書の研究』上巻)である。読み下しにして引用する。

御内書謹んで頂戴致し候。喧嘩の次第仰せ聞せられ候。先ず以って是非無き題目に候。存分の通り御使両人に申し渉し候。猶明智かた迄申し遣すの条、上聞に達すべく候。随って青瓜済々成し下され候。殊に名物の間、別して賞翫忝く存じ候。此等の旨を御披露に預るべく候。恐々謹言
 六月十二日    信長(花押)
  細川兵部太((大))輔殿

ここに「明智かた」と出てくるのが光秀である。この信長書状は書状なので年付はない。以前は、内容から元亀2年(1571)のものとされていたが、最近の研究で永禄11年(1568)のものと考えられ、義昭がまだ越前にいたときのものとなる。

その直後の6月25日、義景の一粒種阿(くま)君(ぎみ)丸(まる)が急死しており、義景は義昭を連れて上洛など思いもよらない状況になったのである。結局、この光秀の交渉が功を奏し、義昭は信長に迎えられて同年7月25日に岐阜に移り、信長は同年9月26日に義昭を擁して上洛を果たし、義昭は10月18日、晴れて征夷大将軍に任命されたのである。

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執筆/小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会  理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。
著書 『戦国武将の手紙を読む 浮かびあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
   『明智光秀・秀満』(ミネルヴァ書房、2019)ほか多数