花押や家紋等を通じて歴史に触れる企画展─大阪城天守閣の学芸員さんにインタビュー 「大阪城夢祭」番外編

大阪城の天守閣復興90周年となった2022年。2022年10月15日(土)~10月23日(日)の9日間、大阪城にて記念イベント「大阪城夢祭」が開催され、大阪出身地元大好き編集部員がレポートをお届けしております! 今回は番外編として、「大阪城夢祭」期間中だけでなくイベント終了後も見学できる、大阪城天守閣の特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」についてご紹介。大阪城天守閣の学芸員の岡嶋大峰さんに見どころや着目点を伺いました。今回のイベントを機に「少し歴史って面白いな」と感じた方は、ぜひこちらを読んで、また特別展に足を運んでみてください。前とは違った視点で展示が楽しめるかも!?

大阪城天守閣では何が展示されている?そして今見ることができる特別展「“シンボル”が彩る戦国の世」の紹介

大阪城天守閣

大阪を一望できる最上階の展望台を有する大阪城(大阪府)の天守閣は、大阪城やお城の歴史の基礎知識、大坂夏の陣図屏風などを史料や映像を用いて学べる常設展や、ミュージアムショップなどがあり、大阪城に行ったら絶対に入っておきたいところです。

そんな大阪城天守閣3・4階展示室にて、「大阪城夢祭」の会期と一部重なる2022年10月8日(土)~11月23日(水・祝)に、「特別展 “シンボル”が彩る戦国の世」が開催されています。戦国武将たちの花押(かおう/現代で言うサインのようなもの)や印章、家紋などがあしらわれた文書・工芸品などが展示されています。

大阪城天守閣学芸員 岡嶋さんに聞く特別展のポイント、見どころ

花押や印章、家紋は特に現代でもよく目にし、歴史マニアもビギナーにも触れやすいテーマです。興味深い題材の展示をより一層楽しめるよう、大阪城天守閣の学芸員の岡嶋大峰さんに見どころなどを伺いました。

編集部員 以下「編」)「大阪城夢祭」の際に特別展を拝見しました。花押や家紋は、特に歴史に深くない方でも入りやすいテーマですし、史料だけではなく判子や屏風などいろんな展示物があって興味深かったです。

大阪城天守閣学芸員 岡嶋さん)「コレクションとして集めて楽しむ風潮が、江戸時代にもあった」ということを知ってもらえれば嬉しいですね。それが今回の企画の一つの意図でもあります。たくさん集めましたので、単純に「こんないろんな形があるんだなあ」というくらいの気持ちで見てもらっても楽しいと思います。

編)今回私が初めて見て目を引かれたのが、花押がたくさん貼られた屏風や本です。

岡嶋さん)「貼り交ぜ屏風」というのは和歌が題材のものなどいろいろあるのですが、花押の貼り交ぜ屛風は珍しいですよね。

武将花押鑑
武将花押鑑(大阪城天守閣所蔵)。本特別展では花押が貼られた戦国武将花押貼交屏風も展示されている

岡嶋さん)文章の最後にサインとして花押があるのが本来の状態なのに、本文を捨てて花押だけを集めているんですね。もったいない気もしてしまいますね。

編)なんと…肝心な中身が知りたいのに! 後世の研究のことを考えると、本文も残しておいて欲しいですよね(笑)。

岡嶋さん)でもやっぱり、いろんな人の花押に興味があり、それを集めたいという人がいて、それで帳面や屛風を作っているんですね。

編)今でいうサインコレクターみたいな…。

岡嶋さん)そういう視点で見てもらえると面白いかなと思います。

「コレクションとしてシンボルを集めることを楽しんだ」江戸時代の人々

編)昔の人も現代人と同じ感覚で、好きなものを集めたりしていたということですね。

岡嶋さん)そうですね。ただ実物を集めるのは難しかったと思います。幸いにして実物の有名な人のを数点入手することはできても、超有名な方の花押をすべては集められないでしょう。でも、作るからにはこの人のは欲しい…となると、写しの史料から取ってしまうこともあるんです。本展の展示品では屏風より花押鑑のほうが写しが結構混ざっていたりもします。

編)結構同じものもありますね。

岡嶋さん)毛利元就のはちょっと線が薄く、筆勢がしっかりしてない気もしたり…藤堂高虎も薄い気が…

編)経年劣化で薄くなってしまうのかなと思ったんですが、写しだからという理由でもあり得るんですね。

岡嶋さん)こういうものを一つ作ろうとしたところに、「この人とこの人は外せないけど入手できないし…」と、巷に頒布している写しの資料からとってきたのかな、と。サイン集めの執念が感じられますよね。

編)武将に知名度や人気がないとそもそもこういうものを作ろうとはならないですもんね。庶民の方では…さすがに作れないですよね。

岡嶋さん)「武将花押鑑」については、藤堂家の家臣が集めて作ったものと言われています。本物が集められないから写しを混ぜる…というのも、面白いですよね。

編)今でいうレプリカみたいなものですから、完全にないよりはあったほうが嬉しいですものね。

岡嶋さん)花押の歴史を見ると、足利様(あしかがよう)が主流となったあとに、信長が麒麟の花押を作ったように自由に描いた時代があって、また徳川の時代には2本の線の間に何かを入れる…というように、花押にも流行があったようです。

足利義昭の花押、武将花押鑑
足利義昭の花押(「武将花押鑑」より)

古田織部の花押、武将花押鑑
古田織部の花押(「武将花押鑑」より)

小笠原秀政の花押、武将花押鑑
小笠原秀政の花押(「武将花押鑑」より)

編)花押にもトレンドがあったんですね…! また、花押以外にも旗印などの屏風なども拝見しました。こういうコレクターもいたんだなと面白味を感じました。

岡嶋さん)諸将旌旗図屏風ですね。花押の屏風に比べて大きめに作られています。

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諸将旌旗図屏風。総勢80名の武将たちの旗印や馬印を中心とする各種標識を描いた肉筆の屏風絵。江戸時代中期ごろの制作とされる(大阪城天守閣蔵)

岡嶋さん)諸将旌旗図(冊子)では徳川一門から順に配列し、徳川中心の構成という印象を受けますが、屏風はこれをもとにしつつも最初と最後のほうに織田信長と武田信玄を無理やり入れ込んでいる感じがして、作り手が「信長がないとやっぱり…」という想いで作られたのかなと。作り手のもどかしさも垣間見れますね。

編)本にするか屏風にするかも、現代の人に通じる感じがします。

岡嶋さん)図録には載せていないのですが、比較的アカデミックな態度で、徳川光圀(水戸黄門)が古文書を鑑定する時の参考資料として作らせたものもあります。『花押藪』という本で、それぞれの花押のついた文書の所蔵情報なども明記されています。

編)4階にあった、ハンドブックのようなサイズのものですよね。

岡嶋さん)そうですね。4階の一番最初かな。花押のハンドブックは、お茶席に飾る掛け軸の鑑賞用としても需要があるようです。

編)最初は高貴な方の趣味として作られていたものが、最終的には市民の手に…! 特別展、非常に興味深かったのですが個人的には陣羽織の文様も気になりました。

岡嶋さん)こっちの内側は桐の紋があったり、前で合わせる留め具が瓢箪ではないかという話もあったり。

富士御神火文黒黄羅紗陣羽織

富士御神火文黒黄羅紗陣羽織
富士御神火文黒黄羅紗陣羽織(伝 豊臣秀吉所用)(大阪城天守閣所蔵)

編)!!!! たしかに!!

岡嶋さん)ただ残念なことに、展示で見せているのが裏面だったりするんですよね。裏面があまりにも有名になりすぎて…。

編)前後でここまで印章が異なるのも面白いですね。来ていただいた方には図録でしっかり見ていただければなと思います…!

北条氏直伝馬手形
北条氏直伝馬手形 (天正 15 年)丁亥 12 月 24 日付 自小田原上州迄宿中宛(大阪城天守閣所蔵)
北条氏といえば虎の印…だと思っていたら馬の印も使われていたそう。こちらも図録にはなんと実物大で掲載されていて、クリアケース越しの展示よりも大きく感じました

豊臣秀吉の金の瓢箪、馬印

編)秀吉といえば瓢箪! というイメージがあるのですが、「大阪城夢祭」で松井一郎市長から関ジャニ∞の村上信五さんに進呈された馬印もあるし、あれらは実際どのような場面で使われていたんでしょうか。

岡嶋さん)秀吉の場合は、金の瓢箪を逆さに立て、その下に金の「切り裂き」をさげた「金瓢の馬印」を戦場でかたわらに掲げていたと言われます。

編)金色なのはやはり秀吉が金が好きだったからなんですかね…!?

岡嶋さん)金箔押しや金粉を散らした「梨地」は、織豊期の流行りでもあったようです。秀吉も御多分に漏れず使っていたみたいですね。

編)秀吉=金! みたいなイメージがあったんですが、他にも背景があったんですね。

岡嶋さん)陸の戦場で所在を示すのが馬印、今展示している船印は海上で御座船の所在を示すものといえそうです。

たくさん色んな興味深いお話をお聞きしました。岡嶋さん、ありがとうございました!
この特別展は11月23日まで大阪城天守閣にて開催されていますので、ぜひ「昔のコレクター渾身の作品」の数々を見に行ってみてはいかがでしょうか。ミュージアムショップで販売されている図録では花押がクローズアップされていたり、様々なしるしや印が原寸大で紹介されていたりしており、さらにディープに楽しむことができます。そちらもぜひチェックしてみてください!


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▼「大阪城夢祭」のレポートはこちら↓

村上信五&関西ジャニーズJr.の大名行列、大阪城トークショーも!「大阪城夢祭」レポート①

大阪城城下で楽しむ食・笑・遊・学・歴史!「大阪城夢祭」レポート②

執筆/城びと編集部
画像提供/大阪城天守閣