萩原さちこの城さんぽ 〜日本100名城・続日本100名城編〜 第73回 金山城 立地、規模、設計力、どれも一級!関東屈指の戦国山城

城郭ライターの萩原さちこさんが、日本100名城と続日本100名城から毎回1城を取り上げ、散策を楽しくするワンポイントをお届けする「萩原さちこの城さんぽ~日本100名城と続日本100名城編~」。73回目の今回は、戦国時代の関東地方では珍しい石垣造りの山城・金山城(群馬県太田市)です。守りを固めるために巧みに設計された堀切など、その難攻不落ぶりを物語る構造を紹介します。

金山城、物見台下堀切と土橋
物見台下堀切と土橋

山全体を要塞化、戦国時代の関東地方を代表する山城

足尾山系の最南端、広大な関東平野に突き出すような標高239メートルの金山に築かれた金山城(群馬県太田市)。山頂の「実城」を中心に、四方にのびる尾根にも城域が広がります。山麓にも館や屋敷があったとされています。

「太田金山城」のほか「新田金山城」とも呼ばれるのは、かつて金山が新田山と呼ばれていたから。『万葉集』にも「にひたやま」と詠まれ、郡名の「新田」を冠した金山の景観は、古来親しまれていたようです。城内の「日ノ池」からは発掘調査で平安時代の遺物も見つかり、築城前から信仰の対象として神聖視されていたと考えられています。この地は南側に流れる関東の大動脈・利根川の渡河点となり、上野、下野、武蔵の三国を結ぶ陸路の交差点として、律令時代から内陸交通の要でした。さらに、北側には東山道が通り、西側には東山道武蔵路が武蔵国府に通じていました。

岩盤を削り込んだダイナミックな堀切はもちろん、土塁や竪堀、土橋や喰い違い虎口などを駆使した設計も見逃せません。直線的な尾根をどのようにして要塞化しているのか、高低差の生かし方や複雑な通路の生み出し方などが直感的に理解でき、戦国時代の山城のつくり方を目の当たりにできます。

西矢倉台西堀切や西矢倉台下堀切を見れば、尾根を分断する堀切のしくみがわかります。この場所でおもしろいのは、複雑な通路がつくられていたこと。かつては迂回するよう急斜面に沿って丸太をかけた「桟道(かけはしみち)」があり、実城と西城をつなぐ尾根上の連絡路として機能していたようです。

物見台下虎口の周辺では、設計の妙に圧倒されます。物見台西側の堀切は両端が竪堀となって斜面を遮断し、斜めに架けられた土橋の先は、虎口の両側に石垣を積むことで視界を遮っています。その先の竪堀付近と馬場下通路あたりの設計力にも感服。三の丸との間を隔てる城内最大の大堀切は、堀底に石積みにした畝状の土塁が見つかっているのが興味深いところです。

金山城、大手虎口と大手通路
大手虎口と大手通路

繰り返された改修、関東地方には珍しい石垣

戦国時代の関東地方には珍しい、広範囲に残る石垣も金山城の大きな特徴です。

金山城は、新田荘を支配した新田一族の岩松家純が、文明元年(1469)に横瀬国繁に築城を命じたのがはじまりとされます。由良氏(横瀬氏)のとき全盛期を迎え、戦国時代後半の関東地方の動乱においても、由良成繁は情勢を読みながら外交策を講じ、その情勢下で金山城を強化し続けたようです。天正12年(1584)にはついに落城という一大転機を迎えますが、その後は北条氏の支配下で大改修されたとみられます。北条氏は天正15年(1587)頃から豊臣秀吉の来襲に備えて領国内の城を強化しており、金山城もその一角として強化されたのかもしれません。

由良氏時代にどこまで金山城がつくられていたかは定かではありませんが、北条氏が大きく手を入れていた可能性は高く、北条氏により最終形態となったことは間違いなさそうです。城内の各所で数段階に及ぶ改修が発掘調査で確認されており、常に機能し、頻繁につくり変えられていたことがうかがえます。

石垣もいつ段階の築造か定かではありませんが、技法には北条氏の城との共通項が見い出せます。西矢倉台通路では発掘調査で新旧2時期の通路が見つかり、新しい時期の石垣には、最下段を15〜20センチほど前にずらして据えた「アゴ止め石」が確認されています。アゴ止め石は同じく数段階の改変がみられる大手虎口でも見つかっていますが、関東では北条氏の城で類例があり、北条氏の改変と築造技術、中世の関東における石垣築造技術の発展を考える上で重要な物的証拠になっています。本丸北側に残る石垣も必見です。本丸西側に残る石垣とともに、本丸北東部の出隅をなしていたようです。

金山城、石垣
本丸北側に残る石垣

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執筆・写真/萩原さちこ
城郭ライター、編集者。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演など行う。著書に「わくわく城めぐり」(山と渓谷社)、「お城へ行こう!」(岩波書店)、「日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)、「戦う城の科学」(SBクリエイティブ)、「江戸城の全貌」(さくら舎)、「城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術〜」(講談社)、「地形と立地から読み解く戦国の城」(マイナビ出版)、「続日本100名城めぐりの旅」(学研プラス)など。ほか、新聞や雑誌、WEBサイトでの連載多数。公益財団法人日本城郭協会理事兼学術委員会学術委員。