マイお城Life マイ お城 Life|香川元太郎さん[後編]城好きじゃなければ描けない!

生粋の城ファンや城を生業とする方々にご登場いただく連載「マイ お城 Life」。ゲストは前編中編に引き続き、城の復元イラストの第一人者である香川元太郎さん。城好きでなければ描けない復元イラスト。制作の際に香川さんが大切にしていることをうかがった。

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撮影=畠中和久

縄張図の隙間を埋めるための知識と経験

香川さんの復元イラストのベースになっているのが、「縄張図」である。「縄張」とは本来、築城されたときの設計(グランドデザイン)を指す。現在では、現状の遺構から構造や防御施設の配置を読みとり、それを図示したものが縄張図と呼ばれる。

縄張図は平面(2D)に書かれたものだ。それを立体図(3D)に起こしたものが、香川さんの復元イラストになる。と、言葉で言うのは簡単だが、2Dから3Dに〝変換〟する際には、さまざまな苦労が生じるようだ。

(香川)
平面の縄張図は真上から見たものであり、土塁の高さ、堀の深さ、切岸の角度まで記されているわけではありません。そうした一つ一つの遺構まで等高線で読みとることはできず、その点は経験値で補っています。実際に見に行ったときの経験が役に立つこともありますし、「こうした構造であれば、このぐらいの高さだろう」とか、「ここに曲輪があるから、切岸はこれぐらいの角度だろう」とか類推することができます。仮に描いている山城に行ったことがなかったとしても、これまでの城歩きの経験と得た知識が活きているのは間違いありません。

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撮影=畠中和久

(香川)
「縄張図を信じすぎない」ということも重要ですね。山の中を調査して縄張図を描くのはとても難しい作業で、実際よりも曲輪を大きく書いてしまったり、高低差が不自然だったりするのはよくあることです。そういう点は、こちらで少し解釈して補わないといけない。等高線と曲輪の高さを比べながら、不自然じゃない関係を探していくという作業は常に発生します。正直に言うと、縄張図の作成者によって、正確で描きやすい図と、少し違和感があり描きにくい図がありますね。縄張図は制作する人の性格が結構表れると思います(笑)。

話を戻すと、山城を歩き現地で考察してきた経験の積み重ねが、復元イラストのディテールを補っています。単に地形図を描く技術があるというだけでは、城の復元イラストの制作はできません。何度も何度も山城を訪れ、さまざまな角度から城に触れる必要がある。つまり、僕が城好きだからこそ、成り立つ仕事なんでしょうね。

かつての山城の姿をイメージするためのツールとして

香川さんが城のイラストに携わるようになって30年近く経つが、城を描くことについては「飽きることがない」という。それだけ、香川さんが城に魅せられた「城びと」であるということであり、復元イラストは香川さんの天職なのだろう。

お城ブームといわれる昨今、世に出ている雑誌の城特集や城の書籍には、必ずといってよいほど香川さんのイラストが掲載されている。そういう状況を、ご本人はどう捉えているのだろうか。

(香川)
ここ数年、城は盛り上がっていますよね。「イラストを掲載したい」という問い合わせが明らかに増えました。嬉しいのは、山城や中世城郭にもスポットが当たっている点です。僕は30年近くにわたって山城を描いていて、「山城はこんなに面白いんだ」という種を蒔いてきたという自負があるので、「あぁ、ここまで大きく育ったか〜」なんて気持ちになることもあります。このブームが、一過性のもので終わらないことを願いますね。

城ブームによって過去の作品が再び日の目を見ることがあり、それは嬉しいことです。ホームページに復元イラストの一部を掲載しているのですが、それを見て問い合わせがあるというケースが最近は多い。ただ、自治体の依頼で制作して原図を納品したのですが、年数を経たことで自治体が原図を紛失してしまったなんて例もあったりして・・・。現在、過去の作品を整理し直しているところなんです。

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撮影=畠中和久

(香川)
描き手として、1人でも多くの人に作品を見てもらい、そして城を訪れるきっかけになるのなら、それに勝る喜びはありません。現在は木々や藪に覆われてしまった山城が多いので、戦国時代にはどんな姿をしていたのか想像する際に、復元イラストは役に立つと思います。「ここ間違っているんじゃないの?」みたいな議論も含めて、復元イラストが城ファンのイメージを喚起する一助になると嬉しいですね。

全国には、まだイラストに描いていない城が、数えきれないほどありますし、一度描いた城でも、新たな発見があれば新しい考証で描くことができます。復元イラストの可能性は尽きません。城を嫌いになることはきっとないでしょうし、生涯のライフワークとして、この仕事を続けたいですね


香川元太郎(かがわ・げんたろう)
1959年、愛媛県松山市生まれ。イラストレーター。日本城郭史学会委員。歴史考証イラストや図解が専門。主な著書に『47都道府県 よみがえる日本の城』『迷路絵本』シリーズ(ともに PHP研究所)、『歴群[図解]マスター 城』(学研プラス)、『日本の城 ―透視&断面イラスト』(世界文化社)など。雑誌『歴史群像』(学研プラス)では2000年以降、城の復元イラストを連載で発表し続けている。ホームページ「香川元太郎GALLERY」では、作品を閲覧できるほか、ブログも更新中。
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写真=畠中和久

取材・執筆/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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