日本城郭協会大賞 【インタビュー】調査・整備・活用賞:福島県白河市~東日本大震災で被災した石垣を復旧した白河小峰城跡~

城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する「日本城郭協会大賞」。第2回日本城郭協会大賞の「調査・整備・活用賞」に選定された「福島県白河市」の白河小峰城石垣復元についてと、受賞に際して城びと編集部で取材したインタビューをご紹介します!

<福島県白河市~東日本大震災で被災した石垣を復旧した白河小峰城跡~>
2011年3月11日に起きた東日本大震災で東北地方の城郭の中でも最大級の被害を受けた白河小峰城。困難を極める石垣の修復において、江戸時代の伝統工法を用いつつ、大きさや形状、加工の痕跡を記録する「石材カルテ」を作成しながら復旧作業を進め、震災から11年を経て修復が完了。これらの手法は、熊本城(熊本県)や丸亀城(香川県)などの修復にも生かされ、石垣復旧のモデルケースとして認知されるように。このような文化財を後世に守り伝える取り組みが評価され、「調査・整備・活用賞」受賞。

白河小峰城
被災状況遠景(南から)

ー石材のカルテとはすばらしいアイデアですね。カルテ作成に至った経緯を教えていただけますか?
 東日本大震災で被災した小峰城跡の石垣修復は、崩落直前の姿に戻すことを基本方針としました。 
 ひとつひとつの石材が石垣を構築する文化財であることから、石材の大きさや特徴を記録することを目的に、他の城郭で実施している事例を参考にして作成しました。災害復旧事業では、崩落した石垣の石材を元位置に戻す照合のためと、石材の再利用の可否を判定するため、カルテを活用しました。作成した石材カルテは、約1万3千枚に上ります。

白河小峰城
本丸南面石垣崩落状況(南から)

―石一つでも文化財、確かにその通りですね。貴重な文化財が被災してしまった場合の復元に備えて、平時にどんな準備をし、何を用意しておけばいいとお考えでしょうか?
 石垣の崩落を未然に防ぐため、普段からの観察と記録化が必要となります。日頃の観察結果が石垣保護に必要な対策の検討につながります。
また、石垣面に正対した写真が数多くあると、崩落時に石材の元位置の特定や、修復勾配の検討に役立ちます。

白河小峰城
 石垣崩落状況の公開の様子

―これまでの活動の中で印象深いエピソードを教えてください。
 小峰城跡の石垣修復は、修復現場の公開や市民参加のイベントの開催、市内の全ての小学6年生に向けた現場見学を行うなど、修復状況の情報発信を行いながら進めました。


白河小峰城
小学生へ石垣修復の解説をしている様子

 また、市民参加のイベントとして、石垣の背面に思いを描いた栗石(※)の設置を行いました。小峰城跡に対する多くの方々の思いと共に、石垣修復を成し遂げることができました。
 そして、小峰城跡での石垣修復の取り組みが、熊本城跡や丸亀城跡などの自然災害で崩落した石垣修復に少なからずお役に立つことができたことです。

※栗石(くりいし):木の実程度の大きさの小石のことです。根石をより丈夫に据えるために、実際はこぶし大の大きさまでの石を突き固めて、根石の角度や座りを調整したりしています。
 
白河小峰城
栗石イベントの様子。多くの人のさまざまな思いが白河小峰城の石垣を支えます 

―今後の目標を教えてください。
 石垣を良好な状態で残していくため、石垣の現況や特徴を把握するための調査を行うとともに、小峰城跡の大きな特徴である石垣を堪能していただける仕組みづくりを進めていきたいと思います。

―お城ファン・城びと読者へのメッセージをお願いします。
 小峰城跡は、多彩な石垣が魅力のお城です。東日本大震災で多大な被害がありましたが、多くの方々のご尽力とご協力により、被災前の姿に近い状態に戻すことができました。災害復旧の歩みは、小峰城跡のガイダンス施設である「小峰城歴史館」でご覧いただくことができます。東日本大震災を乗り越えた石垣をご覧に、奥州の押さえを担った東北の名城、小峰城跡にぜひお越しください。

―ありがとうございました。

(お話を伺って)
大変な中にあるのに「いつかの未来」の困難に備えるために手間を惜しまない先見の明と、地道な努力の積み重ねが素晴らしいと思いました。実際にその努力がほかのお城の復旧に役立ったことで、価値が証明されました。残念ながら災害が多い日本、今後もカルテの重要性はますます高まることと思います。

日本城郭協会大賞とは

公益財団法人移行10周年を記念し、日本城郭協会が2022年に開始した城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する事業です。小和田哲男理事長を審査員長とする審査会にて「日本城郭協会大賞」を選定します。ほかにも、城郭城址の維持・整備を自主的に行うボランティア団体等を賞する「日本城郭文化振興賞」、城郭文化の普及に寄与した個人・団体を賞する「日本城郭文化特別賞」、さらに2023年から城郭管理者として特筆すべき成果を挙げた自治体等を「調査・整備・活用賞」として別枠で顕彰します。

執筆/城びと編集部 画像提供/白河市文化財課

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