城びとのイベントPICK UP! 【イベントレポート】「萩原さちこさんとはじめての江戸城(皇居)〜トーク&江戸城さんぽ〜」

2019年6月2日、城郭ライターの萩原さちこさんと一緒に江戸城の魅力や見どころを体感するイベント「萩原さちこさんとはじめての江戸城(皇居)〜トーク&江戸城さんぽ〜」が開催されました。日本百名城は写真で見た程度で、実際に見学したことがあるのは大阪城や姫路城ぐらいというお城めぐり初心者ライターが、今回のイベントの模様をレポートします。



当日のイベントは、午前が「江戸城トークイベント」、午後が「江戸城さんぽ」の2部構成。まずは「江戸城トークイベント」で萩原さんが江戸城の歴史から見どころまで初心者向けに分かりやすく解説。続いて「江戸城さんぽ」では萩原さんのガイドで江戸城(皇居外苑〜皇居東御苑)を散策し、トークイベントで教わったポイントを自分の目で確かめるという内容です。

午前:江戸城トークイベント

午前のトークイベント開始30分前に受付が始まるや、朝早くにもかかわらず幅広い年代の参加者が続々と会場へ。受付横では城びとオリジナルグッズと萩原さんの著書販売が行われ、萩原さんにサインを求める人たちの列が後を絶ちませんでした。

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受付開始後の様子

トークイベントには35人が参加。萩原さんがポイントと資料をまとめたレジュメに沿って、「江戸城とはどんなお城で、いつ誰がつくったのか?」という“そもそも”から解説。江戸城に行ったことがないつもりの人も、現在の中央区と千代田区のほぼ全域がすっぽり収まる「外郭」には知らないうちに足を踏み入れていたとか、初心者でも江戸城がグッと身近に感じられる知識を丁寧に教えてくれました。
 
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トーク開始5分前。始まる前からみなさん、手元の資料を読み込んでいて真剣です

さらにトークのテーマは、江戸城のディープな見どころへ展開。江戸城を語る上で重要なポイントとして萩原さんが挙げたのは「“天下普請”で築かれた城」であること。天下普請、つまり幕命によって全国の諸大名が築城を請け負ったため、西国の大名は石垣、東国の大名は土木工事…と日本最高峰の技術が適材適所で発揮され、国の中心地にふさわしい名城に仕上がったそうです。

また、徳川幕府の本城である江戸城は慶長元年(1615)の武家諸法度の影響を受けず、初代将軍・家康から3代将軍・家光の代まで築城期間が長かったのも大きな特徴。そのため、築城した大名ごとの技術の違いのみならず、時代ごとの築造技術の変遷まで見られるお得なお城なのだとか。

お城を愛する萩原さんのトークは熱がこもり、時には「天守として代用されることのある三重櫓と天守との違い」など江戸城に限らず他の城にも当てはまる解説へと脱線。もちろん参加者の皆さんはお城好き揃いなので、こうしたディープな脱線トークを含めて熱心に聞き入っていました。もちろんお城初心者も歴史好奇心も存分にくすぐられ、心の中で何度も「へぇ〜」を連呼してしまいました。

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手元の資料とスライドを参考に、トークが行われました

午後:江戸城さんぽ

トークイベント参加者のほとんどは引き続き「江戸城さんぽ」に参加するため、トーク終了後は散策のスタート地点である外桜田門前に移動(ちなみに今回の散策には、江戸城を5回以上見学したことのある強者も数名いました!)。

ガイド役の萩原さんは、午後の散策から参加した人のためにもトークイベントの解説内容を出発前におさらい。全国諸大名の技術の結晶である石垣を主な注目ポイントに挙げながら「石垣の上には必ず何かが建っていて、特に立派な石垣の上には立派な建物がありました。そうやって石垣と建物をセットで妄想しながら見ると面白いですよ」とお城めぐりのコツを伝授してくれました。
 
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江戸城さんぽ集合場所、外桜田門

外桜田門から天守台を目指す散策の随所で立ち止まっては、萩原さんが各スポットの特徴を解説。異なる石積み技法が混在する坂下門付近の石垣の算木積みなど、トークイベントで解説された見どころポイントを実際に確かめることができ、参加者の皆さんは「なるほど!」と食い入るように眺めてはシャッターを連射していました。
 
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坂下門付近の石垣で算木積みの特徴を解説する萩原さん。実物を見ながら聞くことで、参加者の「知識」が「理解」へと変わっていきます

いよいよ江戸城の正門だった大手門から入城し、本丸へと向かいます。門をくぐったすぐ先の桝形が防御の役割を果たしていたことや、アスファルトの道でつながれた大手門と大手三の門の間がかつて堀だったことなど、萩原さんの解説を聞きながら見学すると、何も知らなければただ通り過ぎてしまいそうな場所でも往時の城内の光景が思い浮かんでくる!

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大手門から入城

城内には巨石を積み上げたスケール豊かな石垣が随所に残っています。ノミで表面を打ち削った「はつり仕上げ」や「すだれ仕上げ」の見事さと相まって、思わず手で触る人たちが続出。「立派な石垣の上には立派な建物がある」という萩原さんの言葉を思い出して往時の様子を妄想しながら見ると、なんだかワクワクせずにいられません!

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石垣に施された化粧の解説を聞き、思わず触って確かめる参加者のみなさん

台地の地形を利用した坂道を上りながら、本丸への最後の門である御書院門(中雀門)を通過すると、心なしか背筋がピシッとするような気分に。そして、今は広大な芝生になっている本丸御殿跡に到着。一見すると何の変哲もない芝生広場ですが、有名な松の廊下や大奥の場所を教わりながら巡っていくと、見えないはずの本丸御殿がまぶたに浮かんでくるから不思議です。

ちなみにこの広場は高台に位置するため風通しが良く、平日はスーツを着た人たちの穴場息抜きスポットにもなっているのだとか。納得!
 
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本丸御殿跡に立つと、その大きさを改めて感じることができます

明暦3年(1657)の明暦の大火で天守が焼失した後に天守として代用された富士見櫓や、石垣の上から西の丸へ睨みをきかせる富士見多聞(御休息所前多聞)など貴重な建造物を見学し、いよいよ日本一の大天守跡である天守台へ。高台からは日本武道館の屋根が同じ高さに見え、城内で最も見晴らしの良い場所に天守が建てられていたことがよく分かります。

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天守台にて

また、天守台の石垣には萩原さんが「日本で一番美しい」と絶賛する算木積みが現存し、参加者の皆さんもじっくり見入っていました。確かに、ここまで見てきたどの石垣よりも隙間なくキレイに石が積み上げられていて、石垣の奥深さを改めて思い知らされます。

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天守台石垣の算木積み。短辺と長辺を交互に積み上げていく横長の石材がいずれも長方形に加工され、見事なほど隙間なく組み合わさっています

さらに、すだれ飾りの化粧が目を引く汐見坂の石垣などを見学し、不浄門(城中で亡くなった人や罪人を出す際に使用)と呼ばれる平川門を出たところで「江戸城さんぽ」は終了。約2時間半という長い行程でしたが、これでも城内のごく一部しか歩いていないというのだから、江戸城のスケールの大きさが身をもって実感できる散策ツアーでした。

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不浄門とも呼ばれた平川門。写真手前の広い門ではなく、右奥の小さな門(帯曲輪門)が死人や罪人を出した不浄門では?というのが萩原さんの見解です

江戸城は現存または復元された建物が他の城より少ないので、ただサッと歩くだけだとお城めぐりの印象が残りにくいですが、萩原さんの解説のおかげで往時の城内が具体的にイメージしやすく、まるで本丸へ入城していく大名のような気分で散策することができました。参加者の皆さんも主要ポイントをじっくり見学し、江戸城が日本一と評されるゆえんをその目で実感できて満足げな様子。

アクセスしやすい都心に位置する江戸城へ皆さんもぜひ足を運び、徳川幕府の本城たるスケールと完成度を、想像の翼を存分に広げながら実感してみてください。

執筆・写真/城びと編集部(上村真徹)

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