お城ライブラリー vol.30 西股総生著『パーツから考える戦国期城郭論』:城郭パーツの深層を紐解く

お城の解説本や小説はもちろん、マンガから映画まで、お城に関連するメディアを幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は、城郭研究家・著述家として活躍する西股総生氏の『パーツから考える戦国期城郭論』を紹介します。曲輪について数十ページを割いて解説するお城…、見たことありますか?

城のパーツから城郭防御を深堀りする

士塁、堀、虎口、曲輪…これらはお城初心者がはじめに知る城郭用語。城の入門書でも最初の章に出てくることが多く、初心者でもなじみ深い言葉だろう。しかし、これらのパーツだけで1冊の本を作るというのは前代未聞ではないだろうか。

『パーツから考える 戦国期城郭論』は歴史・軍事の専門誌である『歴史群像』で連載されていた記事「パーツから読み解く 戦国期城郭論」を元に改稿・補訂を行い、単行本として 1冊にまとめたもの。著者はvol.28 に登場した『1からわかる日本の城』をはじめ、城郭・戦国に関する著作を多数持つ西股総生氏だ。

本書は城の「敵を防ぐため障害」という本質に焦点をあてた1冊。驚くべきは、その章立てだ。入門書など一般的な城郭本であれば、堀や士塁などのパーツ(遺構)はまとめてひとつの章に組み込まれる事が多い。しかし、本書では「第1章 堀」「第2章 土塁と切岸」「第3章 竪堀」「第4章 馬出」「第5章 枡形虎口」「第6章 横矢掛りと櫓台」「第7 章 曲輪」「第8章 天守」「第9章 戦国の軍事力編成と城の変化」と、ひとつのパーツに 1章を割き、パーツの定義から役割、どのように発展していったのかを、軍事視点で論じている。

例えば「堀」の章であれば、堀とは城において最低限必須のパーツであり堀切、横堀、竪堀に大別されるという定義にはじまり、堀のサイズは築城年代ではなく築城者の戦略や投下される物資人員によって決まること、空堀と水堀のセオリー、障子堀は決して特別な遺構ではないこと…などの解説がたっぷり20〜30ページにわたって展開されているのだ。とことん「敵を防ぐ」という視点で考察が行われているため、数多のお城本を読み漁ったお城ファンにとっても、目新しく読み応えのある内容となっている。

また、章の並びにも西股氏らしい工夫が凝らされている。前半の章では堀や土塁などの基本的なパーツ、後半の章では馬出や天守など複雑で大がかりな防御パーツが解説され、最終章に登場するのが合戦と城の発展の関わりを解説する「戦国の軍事力編成と城の変化」。読み進めるごとに、城がいかにして合戦のために進化していったかということが理解できる設計となっているというわけだ。

…と、このように紹介すると、とても難解な専門書のように思える。実際、西股氏本人も雑誌インタビューで「これまでの著作の中で一番専門性が高い」と発言している。では、初心者には到底理解できない内容なのかといえば、そうではない。なんと、登場するパーツに関する基礎知識とある程度の城歩き経験があれば充分に楽しめるのだ。まず、本文中にはイラストや縄張図、写真が多数掲載されているため、これらをパラパラ見ているだけでも面白い。さらに、文章は非常にわかりやすく読者を飽きさせない語り口となっているので、口絵を楽しんでいる内に、いつの間にか本文にも引き込まれていく、「文筆家・西股総生」の本領が遺憾なく発揮された1冊なのだ。もちろん、中級者や上級者が読めば、これまでの知識に新たな視点が加わり、城歩きの着眼点がより洗練されることだろう。

西股氏は本書の「あとがき」で第2シーズンの構想があることを明かしている。果たして続刊ではどんなパーツが登場するのか? 今から第2シーズンが待ちきれない。

※西股総生氏のインタビューは『歴史群像 166号』(株式会社ワン・パブリッシング)を参照した。

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[編 者]西股総生著
[書 名]パーツから考える戦国期城郭論
[版 元]ワン・パブリッシング
[刊行日]2021年3月2日


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執筆/かみゆ歴史編集部(小関裕香子)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。全国各地に存在する模擬天守・天守風建物を紹介する『あやしい天守閣べスト100城+α』(イカロス出版)が好評発売中。戦国時代の出来事を地方別に紹介・解説する『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)は重版出来しました!

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