お城ライブラリー vol.28 西股総生著『1からわかる日本の城』:城の本質に迫る〝謎解き〟の書

お城に関連する書籍を幅広く紹介する「お城BOOKライブラリー」。今回取り上げるのは西股総生氏の新著『1からわかる日本の』。城の入門書ってたくさん刊行されていますが、出尽くしているようで、まだまだ多様な語り口があるんですね。


〝お城仙人〟が語る城づくりの原理とは

NHK大河ドラマで軍事考証も務める西股総生氏は、城郭をフィールドワークとする研究者の中でも異色の存在だ。長い白髪に口ひげとあごひげをたくわえ、「お城仙人」とも形容できるその容姿のことを言っているのではない。城郭研究者の多くが大学に所属するか、教育委員会なり城郭関係の資料館なりで職を得ているのに対し、西股氏は在野の研究者であり、筆一本で勝負する文筆家なのである。物書きを専業とする希有な城郭研究者といえる。

その異色さは、生み出してきた著書のレンジの広さによく表れている。西股氏の著書を(やや乱暴に)マッピングしてみると、歴史学・軍事学における専門書系と、初心者向けにわかりやすく解説した入門書系に大別することができる。前者の例が『戦国の軍隊』(学研プラス/KADOKAWA)や『東国武将たちの戦国史』(河出書房新社)など、後者の例が『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』(KKベストセラーズ)や萩原さちこ氏との共著である『超入門 山城へGO!』(学研プラス)などである。研究者としてのハードパンチャーの側面と、対戦相手に合わせて柔軟に対応するヒッターの側面。両方のファイティングスタイルをとることができるのが、文筆家・西股氏の魅力といえる。

前置きが長くなってしまい恐縮だが、今回取り上げた『1からわかる日本の城』(JBpress)は、先ほどの専門書/入門書という区別だと、明らかに後者に含まれる一冊である。ただし入門書とはいっても、鑑賞ガイドのようにわかりやすく説明しているだけではない。

読者はまず読書の入り口で、著者から「戦国の土の城は、どこを見れば面白いのでしょう?」「城マニアたちは、どこで天守を見分けているのでしょう?」と問われる。そして「戦国乱世の城造りは大急ぎ」、「天守は(中略)城の中心にドンっとそびえるラスボス」といったヒントが提示され、次第に「敵を防ぐための施設」としての城の本質、構造の原理が提示されていくのだ。その過程は、ある種の謎解きのようでもある(著者はこれを〝知的パズル〟と評している)。その手練はじつに巧妙であり、文筆家だからこそ描ける城郭論だともいえるだろう。

「肌感覚」を大切にしている点も本書の特徴である。「小さい、弱い、でもいとおしい」と城に同情し、「これはこれで理にかなっているなあ」と築城者に共感し、「できることから、はじめればよいのです」と読者に寄り添う。まるで西股氏がイタコとなって、物言わぬ城の代弁をしてくれているような感覚におそわれる。これまで城の入門書を何冊か読んできたという人でも、まったく異なる、そして生き生きとした城の一面をこの本から発見できるだろう。

本書が面白かったという読者には、是非先ほど紹介した西股氏の〝専門書系〟にもチャレンジしていただきたい。書かれていることは多少難しいかもしれないが、巧みな先導によっていつの間にか西股ワールドに誘い込まれているはずだ。

1からわかる日本の城
[編 者]西股総生著
[書 名]1からわかる日本の城
[版 元]JBpress
[刊行日]2020年10月30日


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執筆者/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。人気の「廃城シリーズ」第7弾、『廃城をゆく7〜〝再発見〟街中の名城』(イカロス出版)が2020年11月に刊行。また、横長の判型が特徴的な『流れが見えてくる日本史図鑑』(ナツメ社)が5刷りの大ヒット中。


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