Dr倉田が診る! 戦国武将の健康相談クリニック 実はアロマ武将だった??武田信玄

歴史好きの医師・倉田大輔さんによる新企画。「徳川家康は健康オタクだった?」「黒田官兵衛は幽閉されて皮膚病に悩まされていた?」など、戦国武将たちの気になる健康事情を現代医学の視点で妄想たっぷりに読み解きます!武将たちへのアドバイスは、現代社会という戦国時代を生きる私たちにも役立つことがたくさん。 初回は武田信玄です。

クリニック院長である Dr. 倉田 は大の歴史好き 。好きが高じて、夢に戦国時代の 武将たち が現 れて思わず現代医学の観点でアドバイスしてしまうほど…。 武将 たちが Dr. 倉田だけに語る 、普段なかなか口に出せない悩み事 とは…? 
ここからは、Dr. 倉田と戦国武将だけが知る、夢の中での出来事、フィクションである。

深夜、夢の中に現れたのは戦国最強騎馬軍団を率いた武田信玄


深夜、ふと気配を感じて振り返るDr. 倉田。赤い鎧に威厳ある佇まいは…武田信玄! Dr. 倉田は、急いでPCを検索して、武田信玄のカルテを探し出す。

【カルテ1 】
氏名:武田信玄(たけだ しんげん)
1521~1573甲斐の国(今の山梨県)生まれ
1 歳の時に父を追放し武田家当主となる。「風林火山」の旗と戦国最強武田軍団を率いて「川中島の戦い」などで活躍。 1 572 年に京都を目指し軍隊を進め、徳川家康を「三方ヶ原の戦い」で撃破する。この戦い直後に病が悪化し、病没する。享年 53歳


Dr 倉田:武田 信玄さん、はじめまして。 クリニックへようこそ。
信玄:うむ。
Dr.倉田:私は信玄さんの時代から 500 年ほど後の時代の医師です。今 の世も、 武田騎馬軍団や武田の赤備えはとても有名で人気ですよ 。
信玄:そうか。後の時代にも伝わっておるのか。
Dr.倉田:なかには、「 武田騎馬軍団は、本当にあったのか 」なんて話で盛り上がったりもしてますよ 。 私は、 真田幸隆や山県昌景といった武田 2 4 将をはじめ其々の 部下たちが持っている「騎馬武者部隊」を作戦に応じて、合同騎馬部隊にして 臨機応変に活用していたのではないかと思っているんですけどね 。

(Dr. 倉田メモ)
最強軍団として知られる「武田騎馬軍団」ですが、騎馬武者が中級以上の武士であることを考えると、「馬に乗った武士だけの部隊は、部長や課長など管理職だけのチーム」になってしまいます。 実際には、 良い馬を生産出来たこと、優れた乗馬技術、移動や物資輸送、偵察や情報収集に馬を 総合的に 活用したことが、「武田騎馬軍団」と呼ばれる一因かもしれませんね。

信玄:なっ…なんと…鋭いのう。 まあ、それが正しいかどうか の種明かしはここではやめておこう。 ワシは 多くの家臣を率いて「最強武田軍団」とも呼ばれておるが、国の周りには上杉、北条、 徳川、織田という強い勢力がいて、お互いにしのぎを削っておる 。 戦いでは命を落としたりケガをすること もあり、いつも危険 ととなりあわせで気が休まらん 。さらに他国では家臣や民衆に裏切られて国が滅びたこともあるから、 実は ワシはとっても気を遣っているんじゃ。

お香がたかれた個室の水洗トイレが戦国時代のお城にあった!?


Dr 倉田 :現代では 「人は城、人は石垣」という貴方の言葉を参考にする、企業経営者や社会人は多いですよ 。 武田家のトップとして、どうやって考え 、決定して いたのか、ぜひ教えて下さい。

(Dr. 倉田メモ)
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」は信玄の名言としてよく知られています。 『どれほど立派な城や石垣、堀を築いても、そこに「人」がいなければ機能しない。城を守るのは人であり、人こそが大切な財産である。人に情を持ち、憎む気持ちを捨てて接することが何より重要である』という意味があるため、 現代の我々にも響く言葉なのです。

信玄:ワシは トイレに籠って考えごとをすることが多いのじゃ。 6 畳位の広さで、畳を敷き、風呂も備えて、 沈香(じんこう)という香木を焚くのが好きなのじゃ 。
Dr 倉田 :それは、すごく良いアイデアですね。 沈香を熱すると出る香りには、「鎮静・健胃・解毒・強壮作用」があるとされていますよ。

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(Dr. 倉田メモ)
『日本書紀』 によると、沈香は 597 年(推古天皇 3 年)に淡路島に漂着しました。長さ 2 メートル半あるこの香木が流れ着いた時、島の人々はただの流木と思い燃やしてしまったのですが、するとかぐわしい煙や香りが漂うことから、朝廷に献上することになりました。 植物の枝や幹に傷をつけて浸出する樹脂を用いたり、樹木を地中に埋めたり、自然に腐朽したものから樹脂を含む部分を取り出して香材や生薬とします。光沢のある黒色のものが最良品で伽羅と呼ばれ 、1kg で 100万円以上します。インドのアッサム地方やミャンマー、ベトナム、タイ、マレーシアなどの熱帯地方で産出されます。

信玄:確かに落ち着いて色々考えられた。 とても高価で、手に入れるのが大変じゃったがの 。
Dr 倉田: 貴方は 「 沈香 」 を 使われていましたが 、 今では 多くの方が同じようなことをしています。特に女性に人気ですね。 アロマセラピーと呼ばれています 。
信玄:ほう。 アロマセラピー …。
Dr 倉田: アロマは香り、セラピーは治療を意味し、 植物の成分を凝縮させた精油を使い、 心身のトラブルを改善する方法です。緊張感を和らげたり、 イライラや興奮を鎮めて気分を落ち着かせたり、内臓の働きやホルモンバランスを調整したりと幅広く作用します。
信玄:合戦や謀略に忙しいワシには、ふさわしいのう。
Dr 倉田 :香りには、「 興奮を鎮める働きと落ち込んだ気分を高める 」 相反する作用があります。リラックスして不安を取り除き、 明るい気分になりたい時は、オレンジスイートやマンダリンなどの柑橘系の香り。 気分が落ち込んでいる時、集中力を高めたい時には、レモンやペパーミント、ローズマリーなどの刺激的な香りがおススメです。

(Dr. 倉田メモ) 香りが体にどう影響するか仕組みをご説明します。
(1)
鼻から脳へ 香りの成分が鼻から吸い込まれると、鼻の奥の粘膜に付着し、嗅覚細胞に結合します。これが刺激となって香りは電気信号に置き換わります。電気信号は、本能的な感情や欲望を司る大脳辺縁系を刺激して、血管や内臓の働きを調整する自律神経系、ホルモンの分泌を調整する内分泌系、ウィルスや細菌から体を守る免疫系の 3 つのシステムを統括する視床下部に到達します。 香りの信号は大脳辺縁系と視床下部の働きを活発にし、心と体、両方のバランスをとるように働きます。

(2)
鼻から肺⇒血液へ 呼吸で取り込まれた香り成分の一部は、気管を通って肺に入 ります。
肺の粘膜から吸収されて、血液に流れ込み、全身に運ばれて効果を発揮します。

信玄:香りで気分転換ができるのじゃな 。 されどこの時代(現代)は戦が無いようじゃが 、 なんぞ他の苦労があるのか。
Dr 倉田: 仕事や家庭でストレス があり 、「ストレス社会」と して 問題になっています。 「香り」を生活に取り入れることも重要かもしれませんね。
信玄:D r 倉田、 実はワシは上杉謙信との戦いに備えねばならない状況なのじゃ。落ち着いて作戦を考えられるのにおすすめの香りはないかの 。
Dr 倉田 :柚子ですね 。 冬に 柚子を お風呂 に入れて入浴する「柚子湯」 はいかがでしょう 。 柚子の香りは、心拍数を減少させ、緊張や不安、疲労感を軽くさせる実験結果も出ています。 皮や実を料理などに活用することも おススメ します。
信玄:風呂か・・・。実はワシは大の風呂好きなのじゃ。これはいいことを聞いた。

(Dr. 倉田メモ)
「信玄の隠し湯」という言葉を聞いたことはありませんか? 信玄生誕の地と伝わる要害山城の麓にある「積翠寺温泉」、「 下部温泉 」 、 「渋温泉」など信玄が勢力を広げた山梨や長野各地に 「信玄の隠し湯」が 沢山伝わるように、 武田 信玄はお風呂好きだったと伝わります。甲斐に帰った武田信玄が、「柚子」を使用したかは、歴史の記録には残されていない。

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「香道」という言葉を聞いたことはありませんか?

「香道」とは香りを楽しむ芸道のことで、 室町時代から継承されています。 香道では、 香りは嗅ぐのではなく、「聞く(聞香)」と表現します。 宋の時代に香りの効能を詠んだ漢詩で、 一休禅師が日本へ紹介した「香十徳」 の内容をご紹介しましょう 。

『香十徳』より
・感覚を研ぎ澄ませる
聞香で使う香は、アロマセラピーで用いる精油よりも繊細で、無心になって集中しないと香りを感じ取ることが出来ません。
・心身を清浄にする
香は世界各地で、場を浄化し、身を清めるために使われてきました。香気によって、悲しみ・苦しみ・怒りなどの負の感情が解き放たれ、心が晴れ落ち着いた気分になります。
・汚れや穢れを取り除く
香煙には悪臭を除く消臭作用があり、教会や寺院など祈りの場に欠かせません。
・眠気を覚ます
沈香や伽羅は眠気を覚まし、白檀は眠気を誘う作用があります。
・孤独感を癒す 
静けさの中で香を聞くと、瞑想で得られるような感覚になります。
・多忙時に心を和ます
香りに集中するためには、自然に深いゆっくりした呼吸が出来ます。
・常用しても障りがない

アルコールや薬物と異なり常用しても体を蝕むことがありません。今回取り上げたように、武田信玄は屋敷に自分専用の個室のトイレがあったと伝わっています。しかも、用を足して合図をすると、家臣が水を流した「水洗トイレ」です。また、トイレには香炉が置かれていたそうです。 「香十徳」の考え方を信玄は知っていて、沈香を活用していたかもしれませんね。

執筆/倉田大輔
医師。池袋さくらクリニック院長。専門 分野 「美容皮膚科・ アンチエイジング医療・ 海外渡航医療」。日本抗加齢医学会専門医、日本旅行医学会認定医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医。趣味は、歴史探訪。学会や出張などに行くと少しでも時間があれば、お城や史跡を訪ねるのが大好き。


イラスト/鈴森以知子
イラストレーター。ゲームのキャラクターイラスト・小説挿絵などを手がけている。戦国武将や姫などの戦国人物が得意分野。同人誌にて戦国系マンガ本も発行している。AmazonにてKindle版『女謙信すたいるブック おとらのせかい』発売中。好きなお城は近江黒川氏城址、佐和山城址、岐阜城。


<参考文献>
植田美津恵『戦国武将の健康術』ゆいぽおと
榎本秋『戦国武将の戦術論』ベスト新書
松榮堂広報室『香りの本』講談社
川端一永・吉井友季子『医師が教えるアロマセラピー』世界文化社
渡辺えり代『お香を現代生活に活かす』におい・かおり環境学会誌 44 巻2 号

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