超入門! お城セミナー 第57回 【構造】知られざる、お城防御の最強兵器とは?

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する連載「超入門! お城セミナー」。「お城防御の最終兵器」と言われて、何を思い浮かべますか? 今回はちょっとマニアックに、お城好きであってもあまり知らないであろう、「逆茂木(さかもぎ)」「乱杭(らんぐい)」を紹介します。弥生時代にはすでに存在していて、城が急速に発達した江戸時代以降も使われ、しかもコストがほぼかからない。そんな夢のような防御兵器、「逆茂木」「乱杭」とはいったい何でしょう?

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発掘調査をもとに復元された吉野ヶ里遺跡の乱杭(佐賀県/乱杭は写真左側)。弥生時代から使われていた防御法だった

コスパ最強の防御施設「逆茂木」

軍事施設であるお城は、「城主を守るために城内に敵勢を一兵も入れないこと」を究極の目標とします。そんなお城にとっての最強の防御施設とは何でしょう? 敵の侵攻を阻む石垣や水堀か? 侵入してきた敵に十字砲火を浴びせる枡形虎口(出入口)か? はたまた城主の最終拠点となる天守か? 

城に詳しい人からは、側面攻撃を狙う「横矢」や、山城の基本要素である「切岸」といった候補も挙がることでしょう。確かにどれも城を守る有力な防御には違いありませんが、もっとシンプルでかつ時代を問わずにどんな城にも用いられ、さらに費用対効果も抜群な最強兵器が存在します。それが、「逆茂木(さかもぎ)」です。

「逆茂木??? これまでいくつも城をめぐってきたけど、そんな遺構は見たことも聞いたこともない!!」と呆気にとられた読者もいらっしゃるかもしれません。おっしゃる通りで、現在の城にはいっさい残されていません。それが最強って、一体どういうこと?

逆茂木とは、枝のついた倒木をいくつも並べたバリケードのことです。枝が絡み合うようにして敵側に向け、倒木自体を地面に固定することで、敵の突入を防ぐ強力な防御施設になりました。「そんなのが最強なの?」と疑問を持った人は、木々が生え繁る藪の中にダッシュで突進する様を想像してみましょう。

枝が体に突き刺さり、そのまま突進し続けるのはまず不可能ですよね。もちろん、慎重に枝を避けたり、または鉈などで切り払ったりすれば進めないことはないですが、敵の城を目の前にしてそんなにもたもたしていたら、弓矢や鉄炮で狙い撃ちにあうことうけあい! このように、逆茂木はシンプルな構造ながら、城の防御で最も大切な「敵の足を止める」こと必至なアイテムなのです。

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枝がついたままの倒木を固定しただけの逆茂木だが、バリケードとして非常に効果的だった(イラスト=香川元太郎)

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とある山城で、伐採された木々が山肌を覆い、逆茂木の役割を果たしていた。これを乗り越えて突き進むのは不可能だ

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上の“フェイク”逆茂木を山側から見る。枝の先が谷側を向いているのも正しい。これで幹を固定していれば完璧だ

逆茂木が最強である理由は、防御面の機能性だけではありません。コスパ最強であることも理由のひとつ。だって素材となる木々はどこにでも生えているわけですし、そもそも築城の際には伐採をするので、それを流用すればいいだけですから。また、どこにでも設置可能な点も逆茂木の大きな利点です。

横矢でも虎口でも、一度設置してしまったら移動するには改築工事を必要としますが、その点、逆茂木はただ木々を運べばいいだけ。登城道の途中でも堀の中でも虎口の前でも、どこであっても設置することができます。この使い勝手の良さ、まさに最強ではないでしょうか。

逆茂木の素材である木々は朽ち果ててしまうため、虎口や堀などと違って後世に残ることはありません。そのためイメージしにくいですし、時代的な考証もたいへん難しいのですが、おそらく弥生時代の村落である環濠集落ではすでに用いられていたと考えられます。さらに、中世以降には街道を塞ぐバリケードとして設置されたり、寺社や平地の居館の守りにも使われたことが文献資料から確認できます。逆茂木は豊富な木材資源を誇る日本ならではの防御であり、古代から用いられたその方法が城にも応用されたということでしょう。

防御が手薄な築城の際にも効果抜群の「乱杭」

逆茂木と似たような、倒木を用いた臨時的な防御施設に「乱杭(らんぐい)」があります。こちらは先を尖らせた杭を地面に突き刺し、杭と杭を縄でつないで防御しました。「そんなの簡単に除けられるじゃん」と思うかもしれませんが、人間は越えられても馬の足はとられますし、足許がおぼつかない夜討ちの防止には絶大な効果がありました。また、乱杭は堀底に設けられるケースも多かったようです。謝って堀を転げ落ちたらそのままグサリ、というわけですね。

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乱杭は先を槍のように尖らせていた。恐怖心をあおる目的もあったのだろう(イラスト=香川元太郎)

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NHK大河ドラマ『真田丸』のセットで再現された乱杭。足許の縄に気をとられてもたついているうちに、上で構える守り手から狙い撃ちにされてしまう

逆茂木・乱杭などの簡易的な防御は、攻城戦の場面で威力を発揮するのはもちろんですが、築城のときにこそ重宝されました。城を築いている最中は非常に無防備であり、まだ堀も曲輪もできていない段階で敵に攻められたひとたまりもありません。そこで工事中は、築城予定地の周囲に逆茂木や乱杭を設けて、いざというときに備えました。築城の際に、伐採する木々がそのまま使えるのですから、ある意味一石二鳥な手段だったわけです。それだけで敵を防ぎきれなくても、逃亡する時間稼ぎにはなったのでしょう。

ここまで逆茂木や乱杭の説明を読んで、原始的な手段だなと感じた方もいるかもしれません。確かに素朴で簡易的な防御法ですが、これらは近世城郭が発達した江戸時代以降にも用いられました。

幕府軍が豊臣家を攻めた大坂の陣を描写する「大坂冬の陣図屏風」には、虎口前や水堀内に設けられた無数の乱杭が描かれています。城が発達し、何十万もの軍勢がぶつかるような大規模な攻城戦になっても、逆茂木・乱杭による防御が有効だったということです。古くは弥生時代から近世に入るまで用いられた逆茂木・乱杭は、“お城防御の最強兵器”と呼べるのではないでしょうか。


執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。