超入門! お城セミナー 第46回【構造】お城の塀や石垣はどうして折れ曲がっているの?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロから分かりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。お城に行くと、石垣が一直線ではなくて、カクカクと折れているのを見かけたことありませんか? 今回は、土塁や石垣などにつけられた折れ曲がりについて解説します。なぜ、手間や費用をかけて塁線を曲げるのか。それには防御上の理由があるのです。



大阪城、南外堀、石垣
大阪城南外堀の石垣は途中で幾度も入り曲げられている。これはいったい何のためなのだろうか?

石垣や土塁を折り曲げると防御しやすくなる!

堀端などを歩いていると、対岸にある城の塀や石垣がカクカクと折れ曲がっていたり、櫓が建っている(または以前建っていた)曲輪の隅っこの部分がボコッと張り出していたりするのをよく見かけますよね。石垣のない土の城の土塁でも、同じように折れ曲がりや張り出し部分がよくあります。その「折れ曲がりっぷり」を、どうやら城マニアは喜んでいるようだけど、塁線なんてまっすぐな方がスッキリ堂々と見える気がするし、イマイチ喜んでいる意味が分からない!なんて思っている人も多いとか。

確かに複雑な構造にすればするほど、普請(土木工事)の手間も時間も、そして費用もかかるわけですから、城を守るために何かきっと意味があってやっているに違いないのです。今回は、この「折れ曲がり」について、城の本来の役割である「防御」の面から考えてみることにしましょう。

城を攻める兵は、城を守る兵よりも多いのが定石です。たくさんの兵が、出入口である虎口からの侵入を目指して攻め寄せます。守る側は、塀や土塁の上から槍・弓・鉄砲などを構えて応戦します。射手の技術が必要な弓や高価な鉄砲は、実はあまりたくさん用意できなかったので、この塀や土塁が数的不利をカバーしてくれます。攻守の戦力は拮抗した状態になり、正面からの小競り合いを続けてもなかなか勝負がつきません。

 名古屋城、本丸、表二之門、東南隅櫓、横矢
 名古屋城(愛知県)の本丸の正門である表二之門に対しては東南隅櫓が横矢を掛けている。つまり、表二門へ攻め寄せると、狭い橋上で東南隅櫓からの集中砲火を受けることになるのだ

そこで、城に攻めてくる敵を確実に仕留めるために考え出されたのが、土塁や石垣の折れ曲がりや張り出しです。塁線に角度を設けることによって、敵の弱点である横合いから弓を射かけたり鉄砲を撃ったりすることが可能になり、少ない飛び道具も有効利用できるのです。

横矢
横矢の模式イラスト。土塁や石垣に折れを付けることで、敵への集中攻撃が可能になる(イラスト=香川元太郎)

折れがあることで敵の勢いが緩まって団子状態になることもあり、そこを狙い撃ちすれば敵はひとたまりもありません。こういった側面攻撃のことを「横矢(よこや)」といい、この横矢が可能なように土塁や石垣を折り曲げたり、曲輪の隅を張り出させたりする工夫のことを「横矢掛り(よこやがかり)」といいます。また、この工夫がされている箇所を指して、「ここは横矢が掛かっている」という言い方もよくされています。(ちなみに、城攻めではない野戦の場合は側面攻撃のことを「横槍(よこやり)」といいます)

櫓、虎口…様々な場所で活用される横矢

また横矢掛りは、視覚面でも有効。近世城郭は高い石垣の上にさらに塀があり、曲輪の隅に建っている櫓も多層構造です。真下の敵は、ちょっと発見しにくくなるのですが、折れ曲がりや張り出しがあることによって横からも確認できるので、死角が生まれにくくなるのです。

敵が殺到する虎口は特に横矢の工夫が凝らされた場所となっています。虎口周辺の横矢掛りが分かりやすい例としてオススメなのが、大阪城(大阪府)の大手門。敵は、門を目指すためにまず堀にかかった土橋を渡ります。そこに、ボコッと張り出した千貫櫓から横矢が掛かるのです。この横矢をなんとか切り抜けて門をくぐっても、正面には石垣と渡櫓の塀がそびえます。左に方向転換すると巨大な櫓門があるのですが、見回すと、そこは巨石の石垣と塀で囲まれた四角い空間。袋のネズミとなり、渡櫓の内部や雁木(石段)の上から集中攻撃を受けることになるのです。

千貫櫓、大阪城
大阪城大手門の鳥瞰写真。大手門へ向かう敵兵は左手にある千貫櫓からの銃撃にさらされる

千貫櫓、大阪城大手門
 千貫櫓の狭間から見た大阪城大手門。大手に攻め寄せる敵を狙撃するのに絶好のポイントであることがわかるだろう

また、総石垣の山城である竹田城(兵庫県)も、山上の地形に合わせて折れや張り出しを非常にたくさん設けています。また、虎口までが狭い通路になっているなど、あらゆるところで横矢が掛かっていることが確認しやすい城跡です。

竹田城、三の丸、虎口
竹田城三の丸の虎口。道を屈曲させることで、虎口に侵入しようとする敵を狙い撃ちできるようにしている

城のつくりの基本である土塁と堀、そして守りの要である虎口。そこを折り曲げたり張り出させたりした横矢掛りは、城の防御システムの基本であり、手間をかけるに値するだけの、とても重要な意味があったのです。

今後は折れや張り出しに出くわしたら、城攻めの兵の気持ちになって、ちょっとした恐怖体験をしてみて下さい。「ここ、横矢が掛かってる」とか「この折れ曲がりっぷりがたまらない!」なんてセリフが、実感をもって出てくるようになりますよ!



執筆・写真/かみゆ歴史編集部
ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。かみゆ歴史編集部として著書・制作物多数。

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