戦国武将と城|小和田哲男 <織田信長と城>第3回 岐阜城信長居館のルーツは小牧山城か

日本城郭協会理事長  小和田哲男先生による「戦国武将と城」をテーマとした講座。織田信長編の第3回は、2007年から本格的な発掘調査が進められている岐阜城の信長居館址について。これまでに5カ所の庭園跡が見つかっているそうですが…。

岐阜城信長居館址の発掘調査

永禄10年(1567)8月15日、織田信長は稲葉山城の斎藤龍興を逐うとともに、それまでの居城だった尾張小牧山城から移り、名を岐阜城と変えている。美濃の禅僧たちの間で、岐山・岐陽・岐阜といった雅名がよく使われていたからである。

岐阜城、山頂
岐阜城山頂からの眺め

その岐阜城は、金華山々頂の標高336m(比高308m)の山城部分と麓の居館部分に分かれていて、2007年から居館部分の本格的な発掘調査が進められている。

そこは槻谷(けやきだに)とよばれる谷合を流れる川の両側に段下りに展開しており、注目されるのは発掘調査の結果、これまでに5ヵ所の庭園跡がみつかっていることである。この信長時代の山麓に築かれていた居館については太田牛一の『信長公記』をはじめとする日本側文献にはほとんど記載がなく、どのようなものだったかわからなかった。ところが、築かれた直後、信長の招きで岐阜を訪れた宣教師ルイス・フロイスがその著『日本史』(松田毅一・川崎桃太訳)に、山麓居館部分の様子を克明に記しておいてくれたのである。

いくつもの建物、立派な「石の壁」すなわち石垣のすごさなどを記したあと、庭についてつぎのように描写している。

この前廊の外に、庭と称するきわめて新鮮な四つ五つの庭園があり、その完全さは日本においてはなはだ稀有なものであります。それらの幾つかは、一パルモ(約20センチ)の深さの池があり、その底には入念に選ばれた鏡のように滑らかな小石や眼にも眩(まばゆ)い白砂があり、その中には泳いでいる各種の美しい魚が多数おりました。また池の中の巌の上に生えている各種の花卉(かき)や植物がありました。

なお、庭の数については、フロイスの1569年7月12日付の書簡を収めた『アルカラ版書簡集』(岐阜市歴史博物館所蔵)を邦訳したものには、「この縁の外側には五、六の美しい庭がありますが、すべてが珍しい物で、新しく、何か雪のように白いものでつくられており、小さな空間をなしています」(高木洋編著『宣教師が見た信長の戦国』)と記されている。「四つ五つ」と「五、六」のちがいはあるが、現在みつかっている庭園跡は5ヵ所なので一致しているといってよい。

ちなみに、フロイスは、ヨーロッパの庭園の池と、日本の池の造り方のちがいにも注目していて、松田毅一、E・ヨリッセン『フロイスの日本覚書―日本とヨーロッパの風習の違い―』において、「ヨーロッパでは(庭園に)方形できれいな石壁造りの池をつくる。日本では、小さな池または溜池を作るが、それには奥まった所や小さな入江があり、中央に岩と小島がある。そして(その池は)地面を掘って作る」と記している。

岐阜城、信長居館、庭園遺構
岐阜城信長居館址発掘調査中の庭園遺構

実際、発掘調査の結果、フロイスの描写の通り、州浜(すはま)状の石敷きも確認されており、深さが30cmほどの池があったこともわかっている。そして、これまで庭園史研究者の指摘により、信長が永禄11年(1568)9月、足利義昭を擁して上洛したあと、京都の寺院の庭園をみて、同じようなものを岐阜城の山麓部分にも造らせたと解されてきた。信長が八代将軍足利義政のことを強く意識していたことはたしかなので、その可能性はある。

小牧山城、本丸址
小牧山城本丸址

小牧山城でも庭園を造っていたか

ただ、最後に信長は岐阜城の前の小牧山城にも庭園を造っていた可能性もでてきた点にもふれておきたい。連歌師の里村紹巴(さとむらじょうは)が永禄10年4月に信長の招きで連歌会に臨んだときの模様が『富士見道記』(『群書類従』第18輯)につぎのように記されている。

大寺新作庭御所望。
しけれ猶松にあひおひの花の庭

内藤佐登子氏は『紹巴富士見道記の世界』で、「大寺」は「大守」の書きまちがいか誤植ではないかと指摘している。紹巴は信長のことを太守ではなく大守と書いているので、その可能性はありそうである。そうなると、このときの連歌会は、小牧山城の庭園の完成を祝うものだったのかもしれない。

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小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会  理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。

著書『戦国武将の手紙を読む 浮びあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
  『井伊直虎 戦国井伊一族と東国動乱史』(洋泉社、2016)ほか多数

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