2018/09/25
超入門! お城セミナー 第35回 【構造】堀にもいろいろな種類があるの?
初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。今回のテーマは堀。堀というと石垣とセットになった、水の張られた「水堀」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、今回は堀の中でも、山城の堀を中心にお話します。実は、山城の堀には用途によって様々な種類があります。どの堀がどのような役割でつくられたのかを解説していきましょう。
諏訪原城(静岡県)丸馬出を囲む堀。発掘調査に基づく整備によって往時の姿を取り戻した
堀のスタンダード「横堀」と「竪堀」
敵からの攻撃に備えてつくられた「城」という軍事的防御施設。攻撃よりも防御に主眼をおいた工夫が凝らされています。その防御の基本中の基本である「堀」。土を掘って高低差を設け、攻め寄せてくる敵を遮断します。堀そのものはきわめてシンプルな構造ですが、防御の最前線である堀があるとないとでは大違い。今回は、意外にたくさんの種類がある堀についてのお話です。
堀の歴史は、縄文・弥生のはるか昔にさかのぼります。獣から村や作物を守るための溝がそのルーツだとか。一般的には、城の堀と聞けば石垣とセットになった近世城郭の「水堀」を思い浮かべる人が多いと思います。でも、山城などの土の城では、山麓部に自然の川を利用して堀とすることもありましたが、山中の人工的な堀は、水のない「空堀」です。空堀は、その配置によって様々に分類されています。では、どんなものがあるのか見てみましょう。
山城の堀は多くが空堀だったが、近世以降の城郭では広大な水堀が多用されるようになった(大阪城の南外堀)
まずは、スタンダードな「横堀」。斜面に対して直角に掘られたものです。城内の平坦地である曲輪を取り巻くように掘られていたり、出入口である虎口の周辺に掘って防御力を高めたり。また、敵が登り易い緩やかな斜面を遮断するために設けている場合もあります。
滝山城(東京都)小宮曲輪の横堀。横堀は曲輪に沿って築かれることが多いため、複雑な曲線を描くものが多い
反対に、斜面に対して並行に掘られたものが「竪堀」です。曲輪直下の斜面に掘られていることが多く、これによって敵は斜面での横移動がしにくくなります。その効果をより高めるために竪堀を何本も連続して並べたのが、山城遺構の中でも特に人気が高い「畝状竪堀(うねじょうたてぼり)」。敵は、横移動が困難なため堀底を歩くしかなくなるので、狙われ易い状態になるのです。
向羽黒山城(福島県)一曲輪上の竪堀は両脇に土塁が設けられ、斜面移動をより困難にしている
防御力を上げるためにつくられた堀たち
現地で説明板を目にしても、実は意外にどんなものか知られていないのが、「堀切(ほりきり)」です。山頂にある主郭部分を目指すなら、尾根づたいに進むのが断然ラクチン。それを防ぐために、尾根筋をザクッと断ち切るのです。細長い尾根筋を歩いていると、突然道が切り取られているわけですから、一気に進軍が困難になってしまいます。曲輪と曲輪を区切る場所にもよく設けられていたようです。
飯盛城(大阪府)の大堀切。堀切は曲輪間に設けられ、竪堀に接続することが多い
さらに、後北条氏の城などで多用された変わり種が、「堀障子」です。「障子堀」とも呼ばれます。堀を障子の桟のように縦横に四角く区切ることで、敵の動きを封じることができます。攻める側にとっては厄介で恐ろしい軍事設備なのですが、整然と区画されたビジュアルがワッフルの網の目のようで、とても人気があります。
堀障子の代名詞ともいえる山中城(静岡県)西の丸と西櫓間の堀。きれいに整備されていることもあり、堀内の畝がよくわかる
また、「内堀」と「外堀」(または「中堀」など)もよく耳にする言葉です。これはおもに近世城郭の平城や平山城で、中心となる本丸の周りに幾重にも堀をめぐらせた時に、本丸に近い堀を「内堀」、遠い堀を「外堀」として呼び分けたもの。城下町では、外堀跡が道路になっていることも多いですよね。
さらに、堀底の形にも種類があります。断面がV字のものが「薬研(やげん)掘」、片側がほぼ直角でカタカナのレの形をしたものが「片薬研掘」で、山城の堀切や竪堀などはこのタイプ。また、堀底が丸くなっているものが「毛抜(けぬき)堀」、直線のものは「箱堀」と呼ばれます。近世城郭の広い水堀はこの箱堀ですが、山城でも堀底を通路として使いたい場合は箱堀にしたようです。
左から薬研堀、毛抜堀、箱堀の模式イラスト。現在、遺構としてみられる堀には土などが堆積しており、往時の堀底を見られる機会はなかなかない
ひとくちに「堀」といっても、配置や用途・形によって意外にたくさんの種類があります。これら各種の堀を、いかに効果的に配置するかが、城の防御力を大きく左右したのです。縄張図などで堀の種類や配置を確認してから現地に立つと、また格別。今後は堀マニアがもっと増えるかも…?