2018/08/30
超入門! お城セミナー 第20回【鑑賞】大名庭園って何をするところ?
初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法や、お城の用語など、ゼロからわかりやすく解説する「超入門!お城セミナー」。今回は、四季折々に美しい光景を見せてくれる庭園のお話です。なぜ城の中に庭園があるのでしょうか?
彦根城(滋賀県)内にある玄宮園。紅葉が美しいこの庭園は彦根藩4代藩主・井伊直興(いいなおおき)が整備したものといわれている
城に庭園を持ち込んだ天下人たち
近世城郭を訪れた時、本丸などの主要エリアから少し離れた場所に、「○○園」や「○○庭園」などと名付けられた広大な庭園が公開されていることがあります。公園内に限らず、城の近くに庭園だけがあることも多いですよね。この広大な庭園、城と大名にどんな関係があるのでしょうか?
これを探るには、中世の守護屋敷からアプローチ。守護大名たちは、室町幕府とのつながりを見せつけて権力を誇示するため、幕府の花の御所(京都府)を縮小したような御殿と庭園のセットを地方の自領に造っていました。
北条氏の居城だった小田原城(神奈川県)をはじめ、鉢形城(埼玉県)、北畠氏館(三重県)、吉川元春館(広島県)、大内氏館(山口県)などでは発掘調査によって水路や池・石組みといった庭園跡が発見・復元されているところがたくさんあります。また一乗谷朝倉氏遺跡(福井県)には、朝倉氏館の館跡庭園をはじめ4か所もの庭園跡が見つかっていますし、岐阜城(岐阜県)でも、信長の山麓屋敷跡で山肌を大胆に取り入れ、滝や多層の櫓を備えていたとみられる庭園の発掘作業が続いています。
守護大名・大内氏の居館跡に復元された池泉庭園。資料や発掘調査などから、大陸からもたらされた植物などが植えられていた国際色豊かな庭園だったことがわかっている
庭園は、信長とその後継者である豊臣秀吉によって近世城郭にも持ち込まれます。秀吉は大坂城(大阪府)や伏見城(京都府)、朝鮮出兵時の陣城である肥前名護屋城(佐賀県)に庭園を造成しました。天下統一後の秀吉の城には「山里曲輪(山里丸)」という御殿と茶室、庭園がセットになった遊興のための曲輪が設けられるようになります。こうして近世城郭では御殿と庭園のセットがスタンダードになっていったのです。
大名たちの息抜きの場だった庭園
そして江戸時代、参勤交代のために諸大名が江戸に上屋敷や下屋敷など複数の広大な屋敷を持つようになると、将軍の訪問にも困らないような豪華な庭園が競って造られました。これが「大名庭園」です。このため当時の江戸はなんと面積の約50%が庭園で占められた「庭園都市」だったのです。これはやがて大名の国許でも造られるようになり、藩主の個性や好みが反映された大名庭園が全国にたくさん生まれたのです。
江戸幕府将軍の庭園だった浜離宮恩賜公園(東京都)
大名たちの庭園がステータスシンボルだったことはわかりましたが、彼らは具体的に庭園をどのように使ったのでしょうか。
守護屋敷の庭園では、公的な儀礼の場としても多用されたようですが、そもそも庭は静養・遊興のための場所。ストレスの多い殿様が時に静かに、時に賑やかに、くつろぐための場所でした。それに加えて、茶室などを使って客人のおもてなしや社交の場としても活用されたようです。そして寺や貴族の庭と違うのは、鴨猟ができる鴨場や、馬場・弓場といった武芸の鍛錬もできたところ。やはり、武士の庭だったのですね。
兼六園(石川県)内にある大名茶室・夕顔亭
最後に、小難しいことは抜きにした庭園の簡単な楽しみ方に触れておきましょう。
日本庭園の基本は、囲んだ空間に理想郷を縮小して再現すること(縮景)。例えば、小石川後楽園(東京都)では、池を海や琵琶湖に見立て、蓬莱島や竹生島といった中国・日本の憧れの名所を縮小して表現しました。また六義園(東京都)は、万葉集や古今和歌集の歌枕88か所を配した、いわば和歌のテーマパーク。浜離宮恩賜庭園(東京都)は、江戸時代なら「松の御茶屋」の建物内から庭を見ると、池の先に土を盛った人工の富士山が見え、その先には帆掛け船が行き交う品川沖が、そしてその向こうには本物の富士山が見えるという、オシャレな演出があったのだとか。こうして外の風景も取り込むことを「借景」といい、これも日本庭園のおもしろみの一つです。
さらに、大名庭園の基本スタイル「池泉回遊式庭園」は、その名の通り建物から眺めるだけではなく池の周りを歩いて楽しむ庭。主役の大きな木を見上げたと思えば、飛び石によって足元を見る。起伏や分かれ道で景観の変化を楽しみ、石・砂利・土など地面の違いで足音の変化だって楽しめるのです。
「武」だけではない大名たちの教養とセンスに触れに、庭園デビューしてみませんか?
日本三名園の一つ、後楽園からみた岡山城(どちらも岡山県)の天守。庭園からみる天守は、普段とはまた違った顔を見せてくれる
執筆者/かみゆ
書籍や雑誌、ウェブ媒体の編集・執筆・制作を行う歴史コンテンツメーカー。