超入門! お城セミナー 超入門!お城セミナー 第17回 |【構造】「模擬天守」と「復元天守」「復興天守」はどう違う?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法や、お城の用語など、ゼロからわかりやすく解説する「超入門!お城セミナー」。今回は「模擬」、「復元」など似て非なる天守の種類をご紹介します。

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 大洲城の天守は明治時代の古写真や作事を担当した大工の家に伝わる雛形などの資料が残っていたため、非常に正確な復元がされている

天守の呼び方は「史実に忠実かどうか」で決まる

全国に天守のある城はたくさんありますが、明治・大正時代や特に昭和の時代あたりに建て直されたものが多いようです。しかも、「模擬天守」とか「復元天守」とか「復興天守」とか…似て非なる言葉で種類分けされています。今回は、この言葉が示す天守の種類の違いと、その誕生について探ってみましょう。

まずは、【現存天守】。これは江戸時代までに建てられて現在まで残っているもの。明治時代の廃城令で100以上の城が破却された時、取り壊しの費用がかさむため放置されたり、江戸時代までお殿様だった家が個人で買い取ったりと、それぞれの事情で壊されずに残った天守のうち、第二次世界大戦の空襲からも免れたものが、今に残る12基の現存天守。国宝5基、重要文化財7基の、大切な国の宝です。

【復元天守】は、古写真や図面などの資料に基づいて、当時建っていた天守を忠実に再建したもの。このうち、材料や工法も当時と同じものを使って外観だけでなく内部の構造も再現したのが、【木造復元天守】。往時の天守にもっとも近い姿のもので、大洲城(愛媛県)や白河小峰城(福島県)などがこれにあたります。

一方、【外観復元天守】といわれるのは、鉄筋コンクリートなど現代の材料・工法で再建したもので、忠実なのは外観のみ。窓を大きくするなど、観光施設として若干手が加わっているものもあり、名古屋城(愛知県)、岡山城(岡山県)などがこれです。

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 岡山城天守は、戦後の再建時に鉄筋コンクリート造りになり観光用の入口を増やすなどの改変も受けている

【復興天守】はどうでしょう。これは、むかし確かに天守があった城ではあるけれど、デザイン・位置・規模などが実際とはちょっと違うぞ?というものです。戦後の経済復興を象徴するものとして、観光資源として天守を建てたい。でも天守の詳細は資料が少なくてわからない…といった事情のようです。これは、大阪城(大阪府)、小倉城(福岡県)など。

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二度天守が焼失している大阪城は、徳川時代の天守台の上に豊臣時代の外観を模した天守が載っている。なお、現在の天守は戦前に建てられたもので、歴代天守の中で最も長生きだ

最後の【模擬天守】は、確かにそこは城ではあるけれど、史実では天守がなかったはずなのに建ててしまったもの。あるいは天守が存在したけれど、実際の天守とは全く違うものを建ててしまったものなど。町おこしのためにわかりやすくシンボルとなるものが必要!といった事情が多いようです。天守がなかったとされる富山城(富山県)や、失火で焼失した先代天守が日本初の観光用模擬天守だった岐阜城(岐阜県)はこのタイプです。

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 豊臣秀吉の一夜城伝説で有名な墨俣城(岐阜県)にも立派な天守が建っている。しかし、墨俣城は安土城以前の城なので天守が存在するハズないのだ

天守は戦後復興の象徴でもあった

後にいくほど史実とはかけ離れた天守になっていくのがわかると思います。でもお城の天守を建てるのは、いずれにしろかなりの大事業です。なのに、なぜ歴史的に忠実でないものを建てたのでしょうか?

それは、戦後日本の特別な事情があったからなのです。太平洋戦争の米軍による空襲と原爆の投下で多くの都市が焦土と化した日本。日本人が敗戦のショックから立ち直り、復興を遂げるためのモチベーションとなるシンボルが必要でした。その一つが城だったのです。

空襲で焼失した天守の再建計画の火付け役となったのは、原爆で壊滅した広島城(広島県)の天守再建。「二度と焼失することのない象徴」として市民が希望したのが、鉄筋コンクリート造りの天守だったのです。これに続き、水戸城(茨城県)を除く戦災で焼失した天守のすべてが鉄筋コンクリート造りで甦りました。この他にも、戦後各地にたくさんの復興・模擬天守が建てられていて、かなり正確性に欠けるものも多いのですが、それよりも“復興のシンボル”という役割を優先したのです。市民たちにとっては細かいことよりも、「そこに天守が建っていること」が重要だったのです。

史実に則ったものではないかもしれませんが、再建からも時が経ち、これらの天守も、土地に馴染み、愛され、街のシンボルになっています。一方で鉄筋コンクリート造りの天守は老朽化が進んでおり、その補強工事や建て替えが議論される時期になってきました。2022年に竣工予定の名古屋城天守の木造復元工事は、一つの流れになるのでしょうか。

ちなみに、「城びと」の連載「昭和お城ヒストリー」では復元天守や模擬天守の建設秘話を詳しく紹介しているので、ぜひ見てみてくださいね。


執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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