2018/07/13
【福岡城】早くからお城VRに取り組んだパイオニア
近年、新たな技術として普及しつつあるAR・VR。デジタル技術を使い、現実世界にバーチャル映像を融合させたり、仮想空間に入り込んで現実のような体験ができたりする技術だが、ここ数年、全国の城跡でもARやVRを生かした取り組みを見かける機会が増えてきた。
カメラをかざすと現実の石垣の上に往時の建造物が合成で復元されたり、合戦のCG映像を見られたりするなど、これまで以上に多角的にお城を体感できるようになっている。ここでは、実際に導入している城に話をうかがい、その楽しみ方や特徴を紹介しよう。
当時としては先進的だったVRの取り組み
慶長6年(1601)に黒田長政によって築かれた福岡城は、内郭部8万坪という九州最大級の規模を持つ広大な城だった。天守台があるにも関わらず天守があったという確たる証拠がなく、研究が進んだ今でもその存否の意見が分かれている。現在は、多聞櫓が重要文化財に指定されているほか、本丸から三の丸一帯が舞鶴公園として市民の憩いの場になっている。
その福岡城は2013年4月、AR・VR技術を使った「鴻臚館・福岡城バーチャル時空散歩」を実施している。内容は、ガイドツアーに参加した人に一人一台のタブレット端末を貸し出し、観光ガイドの解説に沿ってCGで再現した福岡城や鴻臚館の姿を見学してもらうというものだ。
2013年時点でのVRの活用は、お城としては先進的なものだった。「鴻臚館・福岡城バーチャル時空散歩」を担当する、福岡市経済観光文化局観光コンベンション部地域観光推進課の南宏樹さんは次のように話す。
「もともと鴻臚館跡・福岡城跡エリアの回遊促進をはかるため、平成24年度から企画検討されたものです。当時はAR・VRの活用事例も少なかったため大変だったようですが、奈良県明日香村の『バーチャル飛鳥京体験』の視察を実施して参考にしたそうです」
ガイドツアーでは、まずタブレットで福岡城の構造や、存在の真相が謎に包まれている天守閣と黒田官兵衛・長政を紹介するオープニングムービーを見た後、城内をめぐりながらポイントごとにVRを体験する。ツアーは好評で、2016年9月からは体験型VR観光アプリの「ストリートミュージアム」と連携。個人のスマートフォンやタブレットでも利用できるようになり、1年間で1万人以上がダウンロードする人気コンテンツとなった。
失われた櫓や、その存在が謎に包まれた天守がVRで再現
では、実際にどんなコンテンツが見られるのかを見ていこう。福岡城内のVRポイントは全部で17か所あり、大きく3種類に分けられる。まず一つ目が、今はなくなってしまった遺構を再現した映像が見られるものだ。
福岡城探訪館を入ってすぐの東御門跡は、今はなき建築物が見られるポイントの一つ。当時、ここには東御門という櫓門が建っており、炭などの燃料を保管した「炭櫓」(左側)、革製品を収納していた「革櫓」があった。これらの櫓についての解説も、実際にポイントに行くと聞くことができる。また、これらの建物は明治時代初期まで残っていたため、アプリではその古写真も見ることができる。
東御門の裏に回りこむ。通路が曲げられ、直進できないようになっていることがよくわかる。
緑にあふれ、広々とした空間が気持ちいい本丸御殿跡だが、VRで見れば画面上には江戸時代の本丸御殿がよみがえる。南さんによれば、草木が茂っているところは現状とのギャップも考慮しなくてはならず、苦慮した点は多かったとのこと。
福岡城には天守はなかったというのが通説だったが、近年、小倉藩主の細川忠興の書状から「黒田長政が天守を取り壊すと語った」という、天守の存在を示す記述が発見された。謎に包まれたその天守だが、VR上では五重天守として復元されている。これはVRツアーの構成を監修した九州産業大学名誉教授の佐藤正彦氏の研究を参考に、福岡城があった場合の想定のもと、17世紀初頭に築城されたものとして設定された。天守台下のポイントからは、スマホ・タブレットを通じて歴史ロマンを駆り立ててくれるこの天守をさまざまな角度から堪能することが可能だ。
官兵衛・長政父子や天守の謎に迫る映像
コンテンツの二つ目は、お城や歴史について学べるムービーだ。先ほど紹介したオープニングムービーの他、黒田官兵衛や長政について、歴史的な史料もふんだんに盛り込んだ映像と歴史の世界に引き込むナレーションで知ることができる。
ムービーは主に黒田官兵衛・長政の二人にスポットをあてて展開されるが、天守台の上にのぼると、当時の眺望のパノラマVRとともに、天守の存在の可能性を示す数々の書状や、存在し、取り壊された背景には長政の決心があった? というような、見た人がその存在について考えたくなる映像を見ることができる。
こんな天守からの絶景の映像を見ながら「その時、長政は何を思っていたのでしょう……」なんてナレーションが流れれば、いつも以上に好奇心が刺激されるだろう。
また、遊び心あるのが三つめのコンテンツだ。二の丸に行くと、パノラマ上に「黒田八虎」の姿が現れる。黒田八虎とは、黒田家に仕えた者の中の精鋭「黒田二十四騎」のうち、特に優れた8人のこと。画面上には「武将にタッチしてみよう!」の文字があらわれるのだが…。どういった内容かは、ぜひ福岡城で実際に体験を! 筆者は、母里太兵衛がおすすめとだけお伝えしておこう。
黒田官兵衛・長政が福岡城にかけた思いや、その天守の存在について存分に思いをめぐらせることができる福岡城でのVR体験。ぜひ、福岡城を訪れたら体験してみよう。アプリをダウンロードすれば個人で楽しめるが、毎日10時30分から12時30分まで、ボランティアガイドの案内とともにまわれるツアーも実施している(要事前予約)。
【福岡城VR情報】
VR名称:鴻臚館・福岡城バーチャル時空散歩
<ガイドツアー>
毎日10:00〜14:30開催(時間帯はこの中で応相談、最終出発時間14:30)
1人あたり500円(ガイド料・保険料)
最少催行人数4名以上(3名以下の場合は各団体に要相談)
希望日の7日前の16:30までに要予約
アプリ「ストリートミュージアム」
iPhone iOS 8.0〜、Android OS5.0〜
無料
執筆者/かみゆ
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。